偽りのメルサンディ村にいる「吟遊詩人パニーノ」に話を聞く。
英雄ザンクローネが元の姿に戻って帰ってきたと町でウワサになっているようだ。
ザンクローネは魔女グレイツェルを追って、こもれびの広場にある謎の地下水路へ向かったという。
主人公も後を追った。
謎の地下水路の最深部、地底湖にザンクローネがいた。
魔女グレイツェルもいる。
「追い詰めたぜ、グレイツェル。」
「向こうの世界でしっぽ巻いて逃げやがってから、ずいぶんご無沙汰だったじゃねぇか。」
魔女グレイツェルが言葉を返す。
「フフ、追いつめたですって?」
「おあいにくさま、あなたは誘い込まれただけ。」
「心臓のない身体でどれだけ戦えるか試してあげる。」
地面からおばけトマトが現れてザンクローネに襲いかかる。
魔女グレイツェルはその場から消えてしまった。
次々と襲いかかってくるおばけトマトに手を焼くザンクローネ。
心臓のない身体のザンクローネは苦しみ始めた。
主人公が助けに入り、おばけトマトをすべて倒す。
「俺はこっちの世界に帰ってからメルサンディ村を拠点にして魔女を探していたんだ。」
「お前も知っているように、俺の心臓は魔女によって壊された。」
「この身体には心臓がねぇ。そこを無理に動かしているもんだからガタがきてやがるんだ。」
「だがな、俺のチカラの源は村人たちの希望。」
「あいつらが信じてくれる限り、俺は不死身だ。」
「これ以上あの魔女の好きにはさせねぇ。」
「まだ気配が残っているうちに追うぜ。」
そう言うと、ザンクローネは魔女グレイツェルを追った。
一連の出来事を偽りのメルサンディ村にいる吟遊詩人パニーノに報告する。
「おぬしが現実の世界から来たものであると、わしはとうに見抜いていたよ。」
「おぬしにわしの正体を明かす時が来た。」
「わしの真の名は、天才童話作家パンパニーニ。」
「メルサンディ村に残る名作、小さな英雄ザンクローネ物語を書いた張本人。」
「おぬし、この村が本当のメルサンディ村でないことはとっくに気づいているな。」
「この村は大魔王によってわしの描いた童話の世界が再現された物語の中のメルサンディ村だ。」
「わしが描いている途中で死んだせいで、ザンクローネの敗北で終わってしまった悲劇的な結末がお気に召したんだろう。」
「そんなわしがこの世界にいる理由は、自分の分身を作品の中にこっそり登場させるのがわしの作風でな。」
「そのせいでどうやらこの村が作られた時にわしの魂も呼び戻され、この通り分身に乗り移ってしまったようだ。」
「しかし、今ひとつ解せない。なぜザンクローネの死で終わっていたはずの物語が再び動き出したのか。」
真のメルサンディ村にいるパンパニーニの孫アイリが物語の続きを描き始めたことをパンパニーニに伝えた。
驚き、喜ぶパンパニーニ。
すると突然辺りが暗くなり、魔女グレイツェルが現れた。
「メルサンディ村の人々の信じる心がザンクローネのチカラの源。」
「だから今日は、そのくだらない心を消しに来たの。」
「私が服従する喜びを教えてあげる。」
「みんな私の下僕になりなさい。」
魔女グレイツェルの魔法により、メルサンディ村の人々の心は操られた。
村人たちはグレイツェルに服従し、ザンクローネを憎むようになった。
「これで村人たちの希望で動いているザンクローネはおしまいね。」
「メルサンディ村に英雄なんていらない。」
魔女グレイツェルは姿を消した。
パンパニーニが言う。
「村人全員に魔法をかけて英雄ザンクローネのチカラの源である希望を絶つとは。」
「わしと主人公は完全なる物語の中の人物でないゆえに支配を免れたのだろう。」
「おそらくザンクローネは苦しんでいるはず。」
「このパンをさびれたほこらに持って行ってくれ。」
主人公はさびれたほこらにパンを持っていった。
メルサンディ村の南にさびれたほこらがあった。
そこにはご神体があり、その傍らにザンクローネが座り込んでいた。
主人公は、パンパニーニから預かったパンをザンクローネに渡した。
「相変わらずパンチの効いた味だ。」
「あいつ以外にこのパンを作る奴がいるなんて。」
ザンクローネは昔話を始めた。
「俺は元々、このほこらに祀られたメルサンディ村を見守る精霊だった。」
「だが村から遠い小さなほこらは長い年月の間に村人たちからも忘れ去られた。」
「たったひとり、毎日のように掃除をしにきてパンを供えていく風変わりな村娘をのぞいて。」
「礼が言いたいと思った。」
「気がついたら人の姿になっていた。」
「俺は精霊の禁忌おかし、娘に会いにメルサンディ村に行った。」
「そしたら村娘が魔物に襲われていて、助けるために初めて剣を振るった。」
「その姿を見ていた村人たちが俺に魔物退治を頼んできた。」
「頼られるのが嬉しくて、いくたびか剣をふるい魔物を退けるうちに村人たちは俺を英雄と呼び始めた。」
「そしてある日のこと、あの村娘が突然妙なことを言い出した。」
「娘は俺に村を捨てて欲しいと、一緒に別の場所で暮らそうと願ってきた。」
「だがこの地の精霊である俺は、それは出来ないと冷たく突き放すしかなかったんだ。」
「まもなく、あの村娘は姿を消した。」
ザンクローネは魔女を追って、偽りの魔女の森にある夜宴館へ向かった。
主人公も後を追う。
主人公が夜宴館に着くと、魔女グレイツェルがいた。
ザンクローネが胸をおさえて苦しんでいる。
主人公が夜宴館に入ると、魔女グレイツェルが作った結界に阻まれる。
「きっと助けに来ると思っていたわ。でも残念。その魔法陣にかかったら自力では動けないの。」
「絶体絶命ね、ザンクローネ。」
「そんな弱さで英雄なんて笑っちゃう。」
「グレイツェル、俺の命はお前にくれてやってもいい。」
「だからこれ以上メルサンディの村人を苦しめるのはやめてくれ。」
「ダメ、なんであなたはあのしょぼい村を救おうとするの。」
「じゃあ、どうしてあの時私のことを救ってくれなかったの?」
驚いた表情をするザンクローネ。
「あなたの英雄ごっこを終わりにしてあげる。」
グレイツェルがそう言うと、偽りのメルサンディ村のラスカが剣を持って現れた。
グレイツェルに操られているようだ。
「さあ、英雄さん、大好きな村人にその身を切り刻まれて永遠に眠っちゃいなさい。」
ラスカがザンクローネに剣を振りかざす。
その時、ラスカはグレイツェルの呪縛に逆らい、剣を止めた。
ザンクローネの心臓に光が宿る。
「お前の声が枯れない限り、救いは必ず訪れる。」
ザンクローネはチカラを振り絞り、グレイツェルの結界を切り破った。
「今の俺にはこれが精一杯だ。」
「魔女を倒してくれ。」
主人公は魔女グレイツェルを倒した。
ザンクローネがグレイツェルに近づく。
「魔女よ、なぜ俺を恨み村に破壊と混乱をもたらした。」
「どうしてそんなんになってしまったんだ、クレル。」
ザンクローネはグレイツェルのことを「クレル」と呼んだ。
「気づいていたのね、いいわ、最後に昔話をしましょうか。」
「あれは遠い昔、メルサンディ村が今よりずっと貧しくて魔物の脅威にさらされていた頃。」
「メルサンディ村に村人たちから魔女の娘と呼ばれてしいたげられていた女の子がいたわ。」
「それが私。」
「亡くなった祖母が不思議な術を使える人だったおかげ。」
「村に居場所がなかった私は、村が豊かになればしいたげられることもなくなると思って、ほこらの精霊さまにお祈りしていたの。」
「そんな時、英雄ザンクローネが現れた。」
「あなたは村を襲いに来る魔物をやっつけて皆にチヤホヤされていたっけ。」
「村人は誰も気づいていなかったけど、私はすぐにわかったわ。」
「あなたがほこらの精霊さまだって。」
「だけど魔物の襲撃はやまなかった。」
「そして村に嫌なウワサが立ち始めたの。」
「魔女が魔物を呼んでいるんじゃないかってね。」
「ウワサはジワジワと村中に広がっていき、やがて誰もが信じるようになったわ。」
「私はあなたと遠くへ逃げることを望んだけどそれは叶わなかった。」
「英雄のあなたが知らないところで私は捕らえられ、激しく罵られたわ。」
「やっとの思いで逃げ出して、走って走って、だけど追いつめられて、私は深い谷底へ落ちていったの。」
「身も心も傷だらけの女の子は、暗い死の淵で英雄を憎んで、村を呪って、本当の魔女になってしまいましたとさ。」
「これがメルサンディ村でほんの100年前に起こったお話のすべてよ。」
ザンクローネが言う。
「救えねえな、いくら昔のメルサンディ村を憎んでいようが、今の村のやつは関係ないだろう。」
「いかなる理由があろうとお前のしたことは許されねえ。」
「ラスカ、英雄に必要なものは何だと思う?」
「ふてぶてしさだ。」
「メルサンディのすべての悲劇は俺の罪から生まれた。」
「それでも俺はふてぶてしくすべてを救ってやる。」
「お前の恨み、俺がもらっていくぜ。」
ザンクローネは自らの身体で、魔女グレイツェルの闇のチカラをすべて吸い取った。
「ずっと悔いていたんだ。お前を救えなかったこと。」
「死なせてなんかやらねえよ。生きてあがいて罪を償いな。」
魔女グレイツェルは「クレル」の姿に戻った。
「ラスカ、お前に頼みがある。」
「俺はもうメルサンディ村を守れない。俺に代わって村を守ってくれ。」
「クレルのこと、頼んだぜ。」
「どんな時も希望を捨てるな。メルサンディ村は俺と共に。」
ザンクローネは光に包まれて消滅した。
そしてクレルは、ラスカと一緒にメルサンディ村へ帰っていった。