5000年前のアストルティアのお話。
ヒストリカ博士が手に入れた、海洋都市リンジャハルの歴史の手がかりとなるかもしれない手記。
主人公とヒストリカ博士はこの手記に書かれている内容を二人で解き明かしていく。
これはエテーネ王国の王室付き従者、ファラスの手記である。
レンダーシア貿易の要として機能している「海洋都市リンジャハル」。
その長を務めているのは才気あふれる若き一人の召喚士リンジャーラだった。
召喚士リンジャーラは、学徒時代、ファラスの主(あるじ)とお互いに助けあう良き友だった。
アストルティア最大の大国「エテーネ王国」と物流の要「海洋都市リンジャハル」。
その未来を担う者同士、通じ合うものがあった。
しかしひと月前に、海洋都市リンジャハルの住民の3分の1が命を落とす恐ろしい疫病が広まった。
そしてそれによって、ファラスの主が正式にエテーネ王国の使者として強大な力を持つ宝珠をたずさえ、海洋都市リンジャハルを救うため旅立つことになった。
遠く海都を見つめる主の横顔は厳しい。
久しぶりの友人との再会がこのような時になってしまい、辛いのだろう。
海洋都市リンジャハルに着くと、市街の至る所にしかばねが転がり、時々亡霊のようにうつろな人間とすれ違う。
海洋都市リンジャハルは、まるで地獄だった。
中央塔で対面した召喚士リンジャーラの目はぬけがらのように生気がなく、その姿に我が主もショックを隠し切れないようだった。
しかし、主は懸命にご友人を励まされた。
この宝珠が持つ強大なチカラでともにリンジャハルの民の命を救おうと。
その言葉でリンジャーラの瞳にチカラが宿るのをファラスは見た。
その後、リンジャーラは寝る間も惜しんで宝珠のチカラを活かす方法を探求した。
そのかいあって数ヶ月後には疫病は駆逐され、それどころか海洋都市リンジャハルは宝珠のチカラによりかつてない速度で発展を遂げていった。
その急激ともいえる勢いは、二度とあの地獄を繰り返させないというリンジャーラの強い決意を表しているようだった。
召喚士リンジャーラから我が主に招待状が届いたのはほんの2日前のことだった。
招待状には復興した海洋都市リンジャハルをぜひ見に来て欲しいと書かれており、遠く海都を見つめる師匠の横顔は明るかった。
中央塔に着くと、二人は学徒の頃に戻ったように軽口をたたきあい、無邪気な笑い声を夏風に運ばせた。
リンジャーラは宝珠のことを気にしているのか、この借りはいつか必ず返すと言っていた。
主は貸し借りを気にする方ではないのだが。
しばらく歓談した後、リンジャーラは仕事に戻り、主とファラスはリンジャハル名物の魚料理を食べようと町の料理屋に向かった。
その店で私達は偶然にも、近頃失踪する住民が急増しているという気になる噂を耳にするのだった。
持ち前の正義感の強さから我が主は住民の失踪事件の調査に乗り出した。
調査を初めて数日後の月夜、異変は起こった。
放心状態の男が一人、リンジャーラの住む中央塔へ入っていくのを見かけたのだ。
主は男の後をつけていくことにした。
男を追って着いたのは、中央塔周辺に建つ5つの塔の一つだった。
そして塔の中で我々は信じられない光景を見た。
そこでは異形の魔神が男を頭から食べていたのだ。
その傍らには表情のないリンジャーラがおり、主は厳しい表情で彼に詰め寄った。
リンジャーラは宝珠を闇に染め、魔神を召喚し、強大なチカラを得たのだと告げた。
国を豊かにするには、そのチカラが必要なのだと。
主が何かを言おうとした瞬間、塔が大きく揺れた。
私達が慌てて外へ脱出すると、5つの塔から無数の魔人たちが次々と溢れだしていた。
魔人たちは次々と海洋都市の住民を喰らい、建物を破壊していった。
主と私は無我夢中でその魔人たちと戦った。
主の持つ比類なき魔力の前に、魔人たちは次々と倒されていった。
そしてあと一歩ですべての魔神を一掃できると思ったその時、中央塔から光が溢れ、他を圧倒する禍々しく強大な気配が現れたのだ。
それは咆哮し、都市全体を震え上がらせた。
不甲斐なくも私は衝撃で気を失ってしまい、気がついた時には主の姿はどこにもなかった。
駆けつけた塔の中ももぬけの殻だった。
海洋都市リンジャハルは生者のいない死の都と化していた。
私は町中を探しまわったが、とうとう我が主は見つからなかった。
あの時何が起こったかわからないが、我が主が簡単に命を落とすとは思えない。
だから私は主を探す旅に出ることにしたのだ。
これで私はこの手記の筆を置こうと思う。
最も敬愛した人に再び会える日まで。
主人公がリンジャの塔の最上階に行くと、そこには召喚士リンジャーラの亡霊がいた。
召喚士リンジャーラの亡霊が主人公に語りかける。
「私はずっと辛かったんだ。」
「お前は本当にいいやつだから。」
「私は、私自身の醜い妬みの感情を抑えこまなくてはならなかった。」
「私はもう限界だった。オマエの才能の前で私の努力など無意味だと突きつけられた。」
「この宝珠と私の召喚術で初めて超えられると思ったんだ。」
「この惨めさが、やっと晴らされる。」
召喚士リンジャーラはファラスの主の才能を妬んでいたようだ。
襲い掛かってくる召喚士リンジャーラの亡霊を主人公が打ち破る。
「邪法に手を染めても、ついにお前を超えることは出来なかったか。」
「私はお前に友情を感じる反面、その才能を心底うらやんでいた。」
「その怪物のような心を抑えることが出来なかったんだ。」
「私のしたことが許されるとは思っていない。」
「だがこれで罪を重ねなくても良いのだな。」
そう言い主人公の顔を見ると、召喚士リンジャーラは驚き戸惑った。
「違う、君は。君は誰だ?」
「ああ、そうか。君は・・」
召喚士リンジャーラの亡霊は、消えてしまった。
消えた後には、「記憶の結晶」が残されていた。
主人公は記憶の結晶の中を覗いた。
この結晶は、ファラスの主の記憶だった。
中央塔の最上階で見たものは、今までにないくらい凶悪な魔神と融合して怪物と化したリンジャーラだった。
これ以上被害を出させないために、俺はアイツもろともこの時空の狭間に転移するしかなかったんだ。
アイツは俺やエテーネへの増悪を叫びながら襲いかかってきた。
戦いは何日も続き、俺たちは限界のさらに先まで戦い抜いた。
思えばこれが初めてのケンカだったな。
いつ倒されてもおかしくない状況だったが、その間不思議と俺は楽しかったんだ。
最後にはアイツもどこか清々しい表情で、君と全力で戦うことが出来て良かったと言い眠るように息を引き取った。
俺はもうすべてのチカラを使い果たしてここから戻ることは出来そうにない。
でもアイツの魂を救えたのならそれで満足だ。
ただひとつだけ心残りなのは、子供の成長を見守れないことだ。
だから、せめてこの想いを結晶に込めて送ろうと思う。
我が子、主人公よ。
この世界を愛し、強く生きろ。
お前が良き友に出会えることを願っている。