フィナに呼ばれ、主人公はカシャル海底神殿に向かった。
「あなたと話がしたいと思っていたところです。来てくれて感謝します、主人公。」
「神獣の身でありながら私はこの領界とそこで生きる者たちを愛しすぎてしまった。」
「これからはおのれを律しながら、ルシュカの民だけでなく竜の民のすべてが自らを救う道を探せるよう、何かしら手助けが出来たらと思います。あなたが示してくれたように。」
「そして主人公。嵐の領界への道はナドラガ教団の者らに阻まれていました。」
「しかし聖塔を見張っていた青の騎士団から先程知らせが届いたのです。」
騎士団のディカスが話を続ける。
「円盤の遺跡で見張りに立っていたナドラガ教団の兵士がこつぜんと姿を消したのだ。」
「ヤツらが姿を消した理由はわからぬが。」
「嵐の領界に渡るならこの好機を逃す術はない。」
フィナが言う。
「邪悪なる意志を追っていたヒューザのもとへ伝令の者を向かわせました。」
「今頃は天水の聖塔の円盤の遺跡を目指していると思います。」
「主人公、あなたもどうかヒューザと共に嵐の領界へ向かって下さい。」
「そしてナドラガ神の復活を止めて下さい。」
「邪悪なる意志に惑わされたナドラガ教団の者がこれ以上間違いを重ねる前に。」
「あなた方と竜の民の道行きに神々のご加護があらんことを。」
主人公は天水の聖塔の円盤の遺跡に向かった。
遺跡に着くと、すでにヒューザが到着していた。
「邪悪なる意志とやらの尻尾をつかもうとあちこちまわってみたんだけどよ、そんときナドラガ教団の連中が嵐の領界で邪神復活のため、何かやらかそうとしてるって情報を手に入れたんだ。」
「邪神の復活を止めてやるってフィナにも言っちまったからな。」
「オレもお前と一緒に行くぜ。よろしくな、主人公。」
「それじゃ早速、嵐の領界へ向かうとしよう。」
主人公とヒューザは円盤の中に入り、嵐の領界へと向かった。
嵐の領界を進んでいくヒューザと主人公は、近くに大きな町があったので立ち寄ってみることにした。
町の中は魔物で溢れかえっている。
竜族の姿は何処にもない。
ヒューザが言う。
「こんな大きな町が魔物にやられちまうなんて、一体何があったんだ。」
「ナドラガ教団のせいかも知れねぇな。」
「手がかりが残っていないか、町の中を探してみよう。」
主人公とヒューザは町の探索を始める。
町の名前は「ムスト」という名前のようだ。
ムストの町にある練金工房にニコちゃんという話ができる花が置いてあった。
ニコちゃんが主人公に話しかける。
「やっと私の魂の叫びを聞こえる人が現れてくれたようだね。」
「私の名前はニコ。そうね、あなたなら特別にニコちゃんと呼んでもいいわよ。」
「見ての通り、私は普通の植物じゃないわ。」
「偉大な錬金術師、弟に生み出されたこの世にひとつだけの特別な存在なのよ。」
「えっ?弟を知ってるの?あなたの弟ですって?」
「それじゃ、あなたが主人公なのね。弟からさんざん聞かせれた名前よ。」
「どうせならもっと早く来なさい。」
「でもそれで納得できたわ。私の魂の叫びがあなたにだけ届いたのはそのせいに違いないわね。」
「って、そんなことはどうでもいいわ。私とっても困っているのよ。」
「弟がどこかに出かけたまま帰ってこなくなって、それどころか町の人までみんな急にいなくなってしまったの。」
「ねぇ、主人公。町の人達がどこに行ったのか突き止めて、私を弟の所まで連れて行ってくれる?」
主人公ははニコちゃんを懐に入れて、情報収集を再開した。
集めた情報を元に、町の教会跡で隠し階段を見つけた主人公。
そこへ都合よくヒューザが現れた。
「おい主人公、一体何をやらかしたんだ?」
「へぇ、こいつは隠し階段ってヤツか。」
「よく見つけたな、主人公。早速降りて見ようぜ。」
ヒューザが階段を降りようとした時、突然現れた竜族の人々に囲まれてしまう。
「我々は悪に染まったナドラガ教団から竜族の自由と平和を取り戻すべく立ち上がった、竜族解放同盟、その名も疾風の騎士団。」
「貴様達はナドラガ教団の手のものだな?何もせずに立ち去るのであれば事を荒立てぬつもりだったが、この入口を見つけられてしまった以上、生かして帰すわけにはいかぬ。」
そこへ、クロウズが階段から現れる。
「待ちなさい、ブレエゲ。」
クロウズはいつもの帽子をかぶっていない。頭から2本の角が見えている。
「お久しぶりですね、主人公。あれほど来てはいけないと言っておいたのに、ついにここまで来てしまったのですね。」
「仕方ありません、それならば私は出来る限りのことをするだけです。」
疾風の騎士団のブレエゲがクロウズに聞く。
「あの、クロウズ様。その異種族の者とは一体どのようなご関係なのでしょうか?」
クロウズが答える。
「彼は私の、アストルティアでの古くからの友人です。」
「そして、弟さんの兄にあたる方でもあります。」
驚くブレエゲ達。
「なんと、弟様のご親族の方とは。これは大変失礼しました。」
クロウズがヒューザの姿に気づく。
「はじめまして、ヒューザさん。あなたのことは、存じ上げております。」
「ウエディの神、マリーヌの神の器。我々はあなたを歓迎しますよ。」
「主人公さん、いろいろとお話ししたいことがあります。」
「地下に入って最下層まで降りた所に騎士団の部屋がありますのでそちらまで来ていただけますか?」
「ブレエゲ、あなたたちも地下に戻り、警戒を強めてください。今この拠点を失うわけにはいきません。」
主人公とヒューザは隠し階段を降り、地下へ向かった。
クロウズが話す。
「主人公さん、我らが疾風の騎士団の拠点へようこそ。」
「まずは私がどのようにしてこの地でこのような立場に就いているのかお話ししましょうか。」
「ナドラガンドに渡った私が最初に着いたのが嵐の領界でした。」
「そこで私は弟さんと再開したのです。」
「弟さんがナドラガンドにいたことは私にとっても驚きでしたが、これも運命の導きというものでしょう。」
「見違えるようにたくましくなったあの人から、私はナドラガ教団に対抗する組織を作りたいと相談を受けたのです。」
「それが何を意味するのか、私はすぐにわかりました。」
「それゆえ弟さんに協力して、ムストの人々を説得し、苦労の末に疾風の騎士団を結成したのです。」
「そもそも私が奈落の門を開いたのは、ナドラガンドの竜族をアストルティアにある竜の隠れ里に招き入れるつもりでした。」
「しかし人間であるシンイとしての私のチカラが、ある未来を予知していたのです。」
「邪神となったナドラガ神が教団の手で復活し、アストルティアに滅びをもたらすことを。」
「ナドラガ神が復活すれば、我々の世界は無に帰すことになる。」
「これだけはなんとしても止めなければならないのです。」
「そして私は、もうひとつの絶望を見てしまいました。」
「あなたがナドラガンドで命を落とし、永遠に帰らぬ人となるという絶望を。」
ヒューザが話に割って入る。
「主人公が死ぬってことかよ。」
クロウズが話を続ける。
「はい。残念ながら、それがいつのことかはわかりませんでした。」
「何か大きな力が未来を覆っていて。」
「それゆえあなたがこちらの世界へ来なければ避けられる運命であると考えたのです。」
「これまで伝えずにいたことは私も心苦しく思っていました。」
「それでも黙っていたのは、あなたが自ら死地に飛び込む勇気の持ち主と知っていたからです。」
「伝えてしまえばこの未来が決まってしまう、そんな予感がしたのです。」
「ですがここまで来てしまった以上、その勇気こそが死の運命にあらがうただひとつの手段であると信じましょう。」
「主人公さんにはもうひとつ伝えなければならないことがあります。」
「それはある人物たちについてです。」
その時、部屋にアンルシアが入ってきた。
「主人公!」
「ああ、よかった。知らない世界に突然連れてこられて不安になることもあったけど、あなたにもう一度会えるって信じていたわ。」
「やっぱり私にはあなたが必要。あらためてそう思うの。」
そこへラグアス王子もやってくる。
「主人公さん、ぼくたちのためにここまで来てくれたんですよね。」
「本当にご心配をおかけしました。」
「あなたが来たと聞いて、すぐに来ようと思ったのですが、町の方とちょっと話をしていたんです。」
「ムストの方たちはこの避難生活でかなり疲れていらっしゃいますから。」
「みなさん、ボクと話していると少し気がまぎれるようなんです。この見た目のせいでしょうか。」
アンルシアが答える。
「それはちがうわ、ラグアス王子。」
「みんなにあなたの優しさが伝わっているからだと私は思うの。」
ラグアス王子は嬉しそうだ。
「ありがとうございます、アンルシア姫。」
「それよりも主人公さんにいろいろお話しないと。」
「主人公さん、ボクたちのことなら心配ありません。」
「ここの竜族の方たちは、ぼくたちを賓客として迎えてくれ、とても親切にしてくださったんですよ。」
アンルシアが言う。
「そうだわ。私たちがあれからどうしていたのかを主人公に話しておくわね。」
「気がついた時、私たちはこの部屋にいたの。」
「クロウズさんと弟さんがすぐに話を聞かせてくれたわ。」
「私は人間の神グランゼニスの、そしてラグアス王子はプクリポの神ピナヘトのチカラを宿す神の器という存在なんだって。」
「この竜族の世界にあるナドラガ教団は邪神を復活させるという目的のため、神の器を集めようとしているの。」
「それに気づいた弟さんが彼らから私たちを守るために先手を打ってくれたんですって。」
クロウズが話を続ける。
「主人公さん。今アンルシア姫が話してくださった通りです。」
「教団から一刻も早く神の器を保護するため、少々強引なやり方になってしまいました。」
「これまで説明もできず申し訳ありません。」
「全員は無理でしたが、あなたを含めてここにいる3人は保護できたようです。」
ヒューザがまた話に割って入る。
「神の器ってなんなんだよ。そんなもんを集めてどうしようってんだ?」
クロウズが説明を続ける。
「6人の神の器は6柱の種族神がほどこした戒めから、竜族の神ナドラガの身体を解き放つために必要なのだと言われています。」
「残る3人も捜索中ではありますが、神の器の他にもうひとつ、ナドラガ神復活の重要なカギとなるものがあるのです。」
「ここから先は場所を変えて話しましょう。」
「部屋を出て右に見える扉の中に会議室がありますのでご足労を願えますか?」
皆で会議室の奥へと移動した。
そこには、金色の結界に守られた巨大な扉があった。
クロウズが言う。
「これは弟さんの錬金術によって作り出された、他にはない特殊な結界です。」
「扱えるも者は今は私しかいません。」
「ここには危険なものが保護されています。」
「このような強力な結界を張り、守りを固めなくてはならないほどのものです。」
そう言いうとクロウズは結界を解除する。
部屋の中に入ると、そこには拍動しながら空中に浮かぶ紫色の球体があった。
「主人公さん、これが何かわかりますか?」
「これこそが創生の霊核。かつて大魔王マデサゴーラが求めた強大な創世のチカラを秘める宝玉です。」
「創生の霊核は邪神復活の要となるもの。これまでナドラガ教団の大神殿の奥底に厳重に保管されていました。」
「そう、弟さんと私は先日、大神殿に潜入を試みたのです。」
「首尾よく霊核の奪取に成功した我々でしたが、教団の追っ手を振り切れず、弟さんは私を逃がすために捕まってしまいました。」
「申し訳ありません、主人公さん。」
「弟さんに託されたこの霊核を持ち帰るだけで精一杯でした。」
「弟さんを救い出す算段は今整えています。」
「その時はぜひあなたにも。」
ヒューザがまた口をはさむ。
「そうか、嵐の領界への道を見張ってた教団のヤツがいなくなったのはその騒ぎのせいかもしれねえな。」
アンルシアが言う。
「主人公、これは私たちだけの問題じゃないわ。」
「邪神が復活すれば、ここにいる人たちやアストルティアだって。」
「だから私は戦うわ。お父様やお母様には心配をかけてしまうけど、どうしてもみんなを守りたいの。」
ラグアス王子も賛同する。
「ぼくもここに残って、出来る限りのことをするつもりです。」
「もちろん国のことは気になりますが、弟さんから、今メギストリスにはナブレットおじさんが来ていると聞きました。」
「おじさんがいてくれるなら、ぼくがしばらく国を離れていてもきっと大丈夫だと思うんです。」
「父と母が自らの命をついやしてまで守ってくれたボクのこの身体をたくさんの人のために役立てなければ。」
クロウズが言う。
「ここはふたたび結界を張って封印しなければなりません。」
「話の続きは会議室でするとしましょう。」
会議室に戻った主人公たちのもとに、疾風の騎士団の団員が慌ててやってきた。
「クロウズ様、こちらにおられましたか。」
「偵察に出ていた者より報告がありました。」
「ナドラガ教団の兵士らしき者数名、嵐の領界へ侵入した模様です。」
「奴らは異種族の少女の一人を連れて竜の背に乗り、ナドラガ神のほこらへと移動中とのこと。いかがいたしますか?」
クロウズが答える。
「ふむ、おそらくその少女はエルフの神エルドナの神の器であるフウラさんでしょう。」
「教団は神の器がそろうのを待たずにナドラガ神復活の儀式を始めるつもりなのか。」
「私の予想よりも動きが早い。」
「早急に手を打つ必要がありそうですね。」
団員が意見を言う。
「しかしクロウズ様。ほこらに向かうには暴風の吹き荒れる烈風の岬を越えなければなりません。」
「教団の連中は竜に乗って岬を越えたと報告にはありましたが。」
クロウズが答える。
「私が竜化すれば良いのでしょうが、ここの結界をこのままにしておくわけには。他に良い手はないものでしょうか。」
突然、シオンの声が聞こえる。
「主人公さん、そちらの状況は聞かせてもらいました。私から助言が出来るかもしれません。」
「その前にアンルシア。」
アンルシアが驚く。
「え!?その声はもしかしてシオン様なのですか?」
シオンが答える。
「ええ。主人公を通してグランゼドーラ城から声だけをお届けしています。」
「あなたが無事なようで私も安心しました。」
アンルシアが答える。
「ご心配をおかけしてすみませんでした。」
「主人公も来てくれましたし、私は大丈夫です。」
シオンが言う。
「ところでアンルシア。私の託したペンダントはお持ちですか?出来れば返して欲しいのですが。」
「はい、もちろん。」
アンルシアがペンダントを差し出す。
ペンダントは不思議なチカラでシオンのもとに転送された。
「たしかに返してもらいました。これで私はチカラを取り戻せます。」
「それでは話を戻して。烈風の岬を越える方法をお伝えすることにいたしましょう。」
「嵐の領界には、神獣アマカムシカがいます。」
「エルドナ神の眷族にして、カムシカたちの王。」
「日に万里を駆ける脚力の持ち主です。」
「そのチカラを借りることができれば、烈風の岬に吹き荒れる暴風もやすやすと越えられるはず。」
「ですがおそらく、アマカムシカは霧に守られた神獣の森の奥深くに姿を隠してしまっていることでしょう。」
「そこで風の町アズランでは、よき風を呼ぶために風送りの儀というものが行われることをご存知でしょうか。」
「風送りの儀では、風の手綱という祭具が使われますが、それはエルドナの神具、天風の手綱を模して作られた物なのです。」
「天風の手綱は、かつてエルフの神エルドナが使ったもの。」
「もしそれが手に入ったならば、アマカムシカに会うこともできるはずです。」
「エルトナ大陸のイナミノ街道のどこかに風の手綱を作れる職人がいると聞きました。」
「そちらに行ってみてはいかがでしょうか。」
「私から伝えられるのはこれくらいです。それでは。」
クロウズが言う。
「なるほど。神獣アマカムシカのチカラを本当に借りることが出来るのならば、烈風の岬を越えられるかもしれません。」
「主人公さん。申し訳ありませんが、ここはあなたに頼んでもよいでしょうか。」
主人公は天風の手綱を手に入れるため、イナミノ街道に向かった。
イナミノ街道の山間の関所にいるエヌカラという職人に話を聞くと、たづなの材料になっているのが恐ろしい獣の身体の一部だという。
その獣はスイ塔の地下にいると言うので、主人公は早速そこへ向かった。
スイの塔の地下にはカムシカのような獣がいた。
その獣が言う。
「エルドナ神の命によりこの地に眠りてどれほどの月日が経ったのか。」
「我が名は森羅蛮獣なり。そなたらは天風の手綱を求める者よな。」
「力なき者に天風の手綱を与えることは許されぬ。」
「我と戦い、そのチカラを示すが良い。」
主人公は森羅蛮獣と戦い、勝利した。
「そなたのチカラ、見せてもらった。」
「森羅蛮獣の名において、天風の手綱を持つにふさわしい者と認めよう。」
「だが授けるのはその物にあらず。我のたてがみを持っていくが良い。」
主人公は森羅蛮毛を手に入れた。
「そのたてがみこそが天風の手綱のいしずえとなる。」
「エルトナ大陸のいずこかに今もいるであろう手綱作りの技を継ぐものに託すのだ。」
主人公は山間の関所に戻り、エヌカラに森羅蛮毛を渡し、天風の手綱を作ってもらった。
天風の手綱を手に入れた主人公は、神獣の森へ向かう。
神獣の森の最深部で天風の手綱をかかげると、奥の方から神獣アマカムシカが現れた。
「この地に吹き荒れる悪しき業風はいまだ消える気配はない。」
「ですが案ずることはありません。少しくらいならば動くことができます。」
「あなたの名前は?」
名前を答える主人公。
「主人公というのですね。」
「天風の手綱を手に入れ、ここを訪れたのは何の目的があってのことですか?」
主人公はこれまでの出来事を神獣アマカムシカに語って聞かせた。
「私が悪しき業風から逃れて、この泉で身を癒やしている間にそのようなことが起こっていたとは。」
「竜族を総べる神でありながら、他の六種族すべてを支配しようとした傲慢なるナドラガ。」
「エルドナ神から領界を預かった身としてこの地に封じられし邪神の肉体の復活など、なんとしても止めねばならぬことです。」
「ましてやエルドナ神の加護を受けし風乗りの少女が危険にさらされるとなれば断じて見過ごすわけにはまいりません。」
「森羅蛮獣もあなたを認めて天風の手綱を託した。ならばそれは天命というものでしょう。」
「私の神気もほとんど失われていますが、天風の手綱のチカラを借りればあなたの手助けくらいは出来るはずです。」
「主人公、私に天風の手綱を。」
主人公は天風の手綱を取り出し、神獣アマカムシカに取り付けた。
「ありがとう、主人公。すこしチカラが湧いてきました。一時であれば業風にも逆らえそうです。」
「烈風の岬は天ツ風の原の北でしたね。そちらで会いましょう、主人公。」
主人公は天ツ風の原の北へ向かった。
天ツ風の原の北に着くと、神獣アマカムシカがすでに来て待っていた。
「めざすナドラガ神のほこらは、この烈風の岬の先にあります。」
「さあ、私に乗って下さい。この暴風を越え、あなたをほこらまで届けてみせましょう。」
主人公が神獣アマカムシカの背中に乗ると、アマカムシカは金色に輝き始めた。
そしてものすごいスピードで暴風の中を駆け抜け、あっという間にナドラガ神のほこらの前に着いた。
「奥にある祭壇をめざしなさい。風乗りの少女が助けを待っています。」
急いで祭壇に向かう主人公。
祭壇にはエステラとフウラがいた。
フウラは気を失っているようだ。
エステラが主人公の姿に気がつく。
「ナダイアさまがたまわったというご神託のとおり。主人公さん、この少女を奪うおつもりですね?」
「あなたが教団の救済を拒む組織と接触したとの報告は受けております。」
「彼らにチカラを貸しているのだと。」
「我らナドラガ教団はこれより、神の器のチカラを借りてナドラガさまの復活の儀式を執行します。」
「その救済の儀式を邪魔しようというのですね。」
「主人公さん、なぜわかっていただけないのですか。」
「マティル村の悲劇を二度と起こさない。そのためにはナドラガさまを復活させ、救いを求めなくてはなりません。」
「主人公さん、あなたも見てきたはずでしょう?それぞれの領界で苦しむ竜族の民の姿を。」
「それなのにあなたはその救済への道を閉ざすべく現れた。もはや見過ごすことはできません。」
「主人公さんは、この私が討ち取ります!」
「私のすべてのチカラで!」
エステラはチカラを開放し、巨大な竜へと姿を変えた。
「主人公さん、お覚悟を。」
エステラは口から炎の玉を吐き出した。
しかし主人公は無抵抗でその攻撃を受ける。
衝撃で岩に叩きつけられる主人公。
怯むエステラ。
「なぜ戦おうとしないのですか。」
「私は、今も苦しみ続ける竜族の民を救わなければならないのです!」
「そのためならば!」
今度は口から炎を吐き出す。主人公は再び無抵抗で攻撃を受けようとする。
そこへアンルシアが現れ、光の防御壁で主人公を守った。
「大丈夫?主人公。」
「私、あなたに危険が迫っていると感じてここまで来てしまったの。」
「クロウズさんから聞いてしまったわ。あなたがこの世界のどこかで命を落とすことになるかもって。」
「あなたを失うなんて考えられない。だから私・・・」
竜の姿のエステラが聞く。
「あなたは?」
「私はアストルティアの勇者アンルシア。フウラさんを返してもらいます!」
エステラが首を振る。
「誰であろうとそれは許しません。」
「ナドラガさまを復活させ、竜族を救うために神の器はどうしても必要なのです。」
アンルシアの説得が続く。
「ナドラガ神は、破壊をもたらす邪神なのよ。そんなものを復活させたら大変なことになってしまうわ。」
エステラは頑なだ。
「いいえ、ナドラガさまは私たち竜族をお救いくださる方です。悪神などであるはずが・・・」
その時、エステラの頭のなかで鈴の音が聞こえる。
神官長ナダイアが持っている杖についている鈴の音が。
「鈴の・・音が・・」
次の瞬間、エステラは我を失い暴走した。
「うあああああっ!」
暴走したエステラが主人公とアンルシアに襲いかかる。
エステラの攻撃を退ける主人公とアンルシア。
エステラは元の姿に戻り、倒れ込んだ。
「私はいったい・・」
「どこからか鈴の音が聞こえてきたところまでは覚えているのですが・・・」
アンルシアが言う。
「フウラさんは返してもらうわ。」
エステラが倒れ込みながら首を振る。
「たとえこの命が消えようとも、私は苦しむ人々を救うためならば戦い続けます。」
そこに神獣アマカムシカが現れ、フウラを救い出す。
するとフウラが目を覚ました。
「わあ、おっきいカムシカ!」
それを見たエステラが驚く。
「神獣アマカムシカ。この領界を守護する神獣も私たちを止めようとするのですね。」
「一度、教団へ戻ります。」
「主人公さん、私は必ず竜の民を救います。」
エステラは立ち去っていった。
アンルシアが言う。
「あの人もまた大事なもののために戦っているのね。」
「私たちと同じなんだわ。」
フウラが主人公に聞く。
「主人公さま、ここはどこなの?」
「それに、このおっきいカムシカはなんなのかな?」
「花開きの聖祭でヒメア様が死んじゃって、すごい悲しくて泣いていたらエルフの神様の声が聞こえてきて。」
「ヒメア様を生き返らせてくれたところまでは覚えているんだけど、その後がさっぱり。」
アンルシアが言う。
「フウラさん、はじめまして。私はアンルシアと言います。」
「主人公とふたりで助けに来ました。」
「あなたは竜族の教団によって囚われ、危ないところだったんですよ。」
「すぐに安全な場所へ向かいましょう。」
フウラが驚く。
「ええ?そうなんですか。助けていただいてありがとうございます!」
アンルシアが主人公に言う。
「フウラさんを連れて早くムストの町に戻りましょう。クロウズさんにも報告しないとね。」
神獣アマカムシカが言う。
「カムシカの王の責務として、風乗りの少女は私が町まで送り届けましょう。」
フウラは神獣アマカムシカの背に乗って、ムストの町へと運ばれた。
主人公とアンルシアもムストの町に急いで帰り、クロウズと話をする。
「アンルシア姫があなたに危険が迫っていると言い出した時は寿命が何年か縮まりましたよ。」
「ナドラガ教団の神官と戦ったそうですが、お二人ともご無事で何よりです。」
「主人公さんの活躍のおかげで神の器の方々をここまで助け出せましたが、油断するわけにはいきません。」
「私は教団の襲撃に備えるため結界の強化を考えているのですが、実は弟さんが教団に囚われる直前に強力な結界はもう用意してあると言っていたのです。」
「しかしどのような手段かまでは聞きそびれてしまい、残されている持ち物からもそれらしいものは見つかりません。」
「上の町の方も探す必要がありそうなのです。よろしければ主人公さんにご協力をお願いしたいのですが。」
その時突然、主人公の頭の中にニコちゃんの声が聞こえてきた。
「あのね、主人公。今の話を聞いて私、思い出してしまったの。」
「結界強化の手段って、私のことよ。」
「そのために弟に創られた魔法生物、それがニコなの。」
「でも今の私じゃその役目は果たせない。必要な物があるから、それをあなたに取りに行ってもらいたいの。」
「必要な物の名はエレクトラム。雷のチカラが集まって出来た結晶よ。」
「この領界にいる魔物が生み出すらしいわ。」
「魔物の名前はたしか、ダークオルニス。」
「お願いよ、主人公。ダークオルニスを倒してエレクトラムを手に入れてちょうだい。」
主人公はエレクトラムを手に入れて再びクロウズの元へ向かった。
しかし、なにやら町が騒がしい。
疾風の騎士団の拠点に侵入者があったようだ。
急いで会議室へ向かうと、クロウズが待っていた。
「主人公さん、あなたに結界の強化を頼んでいる間にこのようなことになり申し訳ありません。」
「内に手引する者でもなければ、教団の者に侵入されるなどありえないのですが。」
「いずれにしても彼らの狙いは創生の霊核でしょう。」
「そして今、ここには神の器の方もおられます。彼らもまた守らねばならない対象です。」
「フウラさんとラグアス王子は集会所にてアンルシア姫とヒューザさんに守っていただいています。」
「ですがアンルシア姫の身体はまだ完全に回復したわけではありません。」
「主人公さんにはここの結界を強化したらすぐ集会所の守りに加わってほしいのです。」
「どうやら結界の強化のために必要なものがそろっているようですね。私に渡して頂けますか?」
クロウズに魔法生物のニコちゃんとエレクトラムを渡した。
「おお、これが弟さんがこの時のために残してくれたものなのですね。」
ニコちゃんが話す。
「主人公、短い間だったけどありがとう。これであなたとはお別れになるわ。」
「でも悲しんだりしないでちょうだい。私はこのために生まれたの。」
「今とても誇らしい気分よ。」
「それじゃあ、さようなら。あなたのふところの中、とても暖かかったわ。」
クロウズが言う。
「後のことはおまかせください。」
「結界の扱いに関しては私も心得があります。少し時間はかかると思いますが。」
「いったんこの会議室は閉じますので、主人公さんは集会所へお願いします。」
「神の器の方々をお守り下さい。」
主人公が集会所へ着くと、なんだか様子がおかしい。
ヒューザがナドラガ教団の杖を持ってアンルシアのチカラを奪っているようだ。
ヒューザが言う。
「この杖はあんたの身体の自由を奪う強力なチカラが込められている。」
「無駄な抵抗はせず一緒に来たほうがいいぜ。」
アンルシアはチカラが出せず、座り込んでいる。
「なぜあなたがこんなことを。」
ヒューザが答える。
「あんたをあるべき場所へと連れて行く。」
「それがオレに課せられた使命なのさ。」
ヒューザが主人公の姿に気がついた。
「主人公か。神の器はオレがもらっていくぜ。」
「ラグアス王子もフウラもな。」
「邪魔をするのなら排除するまで。たとえ相手がお前であろうともだ。」
そう言うとヒューザは突然襲い掛かってきたが、主人公はヒューザを返り討ちにした。
「だがこれでオレの使命は果たされる。」
ヒューザが教団の兵士に言う。
「オレにかまうな。お前らは神の器を連れて上へ行け。」
教団の兵士にアンルシアが連れて行かれる。
ヒューザが言う。
「ラグアスとフウラ、残る神の器も我々のものだ。」
逃げるヒューザを主人公が追う。
階段を上がり教会に出たとき、やっとヒューザに追いついた。
フウラも一緒だ。
クロウズも駆けつける。
「結界の強化を終えて集会場に駆けつけてみれば神の器は無し。」
「なるほど、こういうことでしたか。」
その時、ヒューザの頭の中で鈴の音が聞こえる。
ナダイア神官長が持っている杖についている鈴の音だ。
ヒューザの背後に、黒いフードをかぶった男が現れる。
邪悪なる意志と呼ばれている男だ。
「愚かな。まだ気が付かぬか。」
「ヒューザとフウラ。この二人は、真の竜族解放のための尖兵となったのだ。」
クロウズが立ち向かう。
「邪悪なる意志・・・」
邪悪なる意志が言う。
「貴様がクロウズとやらか。我が目的、真の竜族解放を阻もうとする出来損ないのあわれな竜族。」
クロウズは怒り、言い返す。
「おのれの姿を隠し、闇の中をうごめくような者の言葉など聞くに値しません。」
「私がその非道な行いを止めてみせましょう。」
邪悪なる意志とクロウズが同時に術を放つ。
しかし、クロウズのみが負傷してしまう。
そして邪悪なる意志が黒いフードを脱ぐと、そこにいるのは神官長ナダイアの姿だった。
クロウズが驚く。
「お前は、ナドラガ教団神官長のナダイア。」
ナダイアは鈴のついた杖を振りかざす。
「ふっ、貴様の予知のチカラを持ってしても、我が正体を見ることは出来なかったか?」
「そうだ。貴様には何も出来ぬのだ。我が神の意志により遮られし貴様の予知など、妄想の産物と変わらぬ。」
「時が満ちる。神の器を贄とし、我が神が肉体を得て現世へと再臨する。その時が。」
「貴様達に出来ることなど何もない。ここで大人しく我が神の救済を受け入れるがいい。」
ナダイアが杖を掲げると、神の器たちと一緒にその場から消えてしまった。
クロウズが言う。
「ヒューザさんとフウラさんが、心を操られていようとは。」
「くやしいですがナダイアの言うとおり、私にはその正体もあの二人のことも予知できていませんでした。」
「私の予知能力はなんらかのチカラによって弱められていると考えてよいでしょう。」
「主人公さん、すぐに会議室まで来ていただけますか。」
「今後のことを話し合わねばなりません。」
二人は会議室に向かった。
「主人公さん、申し訳ありません。」
「邪悪なる意志によって、神の器4人が連れさられる事態となってしまいました。」
「しかし、創生の霊核だけは守り抜くことができました。」
「まだあきらめる必要はありません。」
そこに疾風の騎士団の兵士がやってきた。
「クロウズ様、ご報告があります。」
「またしてもナドラガ教団が侵入しました。」
「今回は翠嵐の聖塔へ移動の模様。神官トビアスが率いているようです。」
クロウズが考え込む。
「翠嵐の聖塔に。こちらから炎の領界への道を開き、領界すべてをつなげてしまうつもりですね。」
「すべての領界がつながりしとき、ナドラガ神復活の地、神虚ナドラグラムが現れる。」
「教団に潜入した際見つけた文献に書かれていた一文です。」
「教団は神の器を使い、5つの領界に封じられたナドラガ神の肉体を蘇らせ、神虚ナドラグラムでナドラガ神の復活を果たすつもりなのでしょう。」
「ここにある創生の霊核がなければ、ナドラガ神の復活は行なえないはずではありますが。」
「神虚ナドラグラムの出現がどのような影響をあたえるかは私にも全くわかっていません。」
「主人公さん、翠嵐の聖塔へ行ってもらえますか?」
「翠嵐の聖塔はこの町の西に広がる迅雷の丘の北西にあります。」
「あなたならば死の運命すら乗り越えてくれると私は信じています。」
主人公は翠嵐の聖塔へ向かい、数々の謎を解きながら塔を登り、最上階へたどり着いた。
最上階には石碑があり調べてみると、主人公の頭の中に不思議な声が語りかけてくる。
「解放者よ。ついにここまでたどり着いたのですね。」
「私はこの時を待ち望んでいました。」
「解放者がすべての領界をつなぎ、竜族の者が罪の償いを終えて奈落から解放されるこの時を。」
「ですが彼らは本当にそれだけの罪を犯したと言えるのでしょうか。」
「ただナドラガの子であるというだけで。」
「兄弟たちの決断を止めることができなかった私こそ、罪深くはないのか。」
「今でもそれを悔いています。」
「解放者よ。我らはもはや世界に触れるすべを手放した存在。」
「我らに代わり、竜族の者に許しを与えて下さい。」
「母なる神ルティアナのご加護がすべての者にありますように。」
主人公が解放の間に入ると、なぜかトビアスが先に来ていて守護者と戦っている。
いつものように苦戦しているようだ。
「くそっ、やはり我々だけでは守護者にかなわないというのか。」
「だが今回は退かんぞ。私には文字通り切り札があるのだ。」
トビアスはそう言うと、ポケットから黒い札を出した。
「ナダイアさま。お預かりしたこの札、今こそ使わせてもらいます。」
トビアスが黒い札を投げつけると、札から四ツ首の竜が現れた。
「行け!黒蛇鬼アクラガレナよ!」
黒蛇鬼アクラガレナが守護者を一瞬で消滅させと、守護者の身体から解放の円盤が現れる。
「おお、やったぞ。私たちの手で守護者を打ち倒した!」
ガッツポーズで喜ぶトビアス。
「お前もご苦労だったな。もう札に戻っていいぞ。」
予想通り暴れだす黒蛇鬼アクラガレナ。
「なんだ?私の言うことを聞けアクラガレナ。」
あっさりと吹き飛ばされるトビアス。
「ぐう、なぜ私まで・・・」
そこに、エステラがやってくる。
「これは一体・・・」
「トビアス、しっかりして。何があったというのですか?」
トビアスが苦しそうに答える。
「ナダイアさまからあずかった魔物が私を襲って。」
エステラが驚く。
「ナダイアさまが魔物を?」
「はやく逃げろ。」
トビアスは気を失った。
エステラは竜化して黒蛇鬼アクラガレナと戦おうとするが、チカラが回復していないのか竜化出来ない。
「うう、このままでは。」
主人公がエステラのもとに行く。
「主人公さん?また私たちを止めに来たのですね。」
「ですが塔の守護者はすでにトビアスたちに倒されました。」
「あなたの手は借りません。この魔物は私が。」
その時、消滅したはずの守護者が光の中から復活した。
「悔やめるエルドナが打ち込みし嵐のくさびを取り払わんとする者よ。」
「神聖なる試練の戦いに悪しき魔獣を用いしこと、断じて許しがたし。」
「汝らが勝利、認めることあたわず。」
「異を唱えるならば今一度チカラを示せ。さすれば炎の領界への道がそなたの前に開けるであろう。」
トビアスが目をさまし、起き上がる。
「主人公、このままエステラが戦えば命を落とすことになるだろう。」
「それだけはさせられぬ。」
「だから恥を忍んで頼みたい。どうか代わりに守護者たちと戦ってはくれまいか。」
主人公は頷いた。
「ありがとう。」
トビアスは再び気を失い倒れ込んだ。
主人公は守護者と黒蛇鬼アクラガレナに立ち向かい、倒した。
守護者は消滅したが、黒蛇鬼アクラガレナは最後のチカラを振り絞り、主人公を聖塔から突き落とした。
黒蛇鬼アクラガレナは、消滅。
聖塔から落ちていく主人公を、竜化したエステラが助けてくれた。
チカラを使い果たしたエステラはフラフラだ。
二人が落ちた場所は、ちょうど円盤の遺跡の前だった。
そして主人公たちの前には神官長ナダイアがいる。
「エステラよ。なぜその者を助けるような真似をした。」
「放っておけば始末できたものを。」
「その者は我が理想の実現に邪魔な存在。かばいだてするとあらば、たとえお前であっても排除せねばならぬ。」
「ナドラガンドに真の救済を。それこそが我らの神の望むものなり。」
エステラが気づく。
「ナダイアさま。その物言いはまるで・・・」
「まさか、あなたが。」
ナダイアの姿が黒いフードをかぶった男の姿に変わる。
邪悪なる意志と呼ばれている男の姿に。
「ようやく気づいたのか。」
「くだらぬ教義を妄信し、解放者などという偽りの救世主に希望を託す。」
「全く、つくづく救いがたい連中よな。」
「だが嘆くことはない。貴様達は我の思惑通り、存分に踊ってくれたのだから。」
「果なき領界の苦難に重責した民の不安はさならる災いの火種によって枯野に放った災いのごとく燃え上がる。」
「教団は彼らに対し、愚直にも救いの手を差し伸べずにはいられまい。」
「解放者という名の希望を旗印として。」
いつの間にか、ナダイアの手には円盤が握られている。
そしてナダイアはそれを台座にはめてしまった。
「さすれば民は解放者を渇望する。」
「そこに主人公。何も知らぬ貴様が現れてくれたわけだ。」
「我はこの姿をもって災いの象徴となった。」
「いつの世も目に見えるもののみが大いなる改革をうながすものなれば。」
ナダイアが円盤を台座にはめたことで、嵐の領界と炎の領界がつながった。
「今ここに、すべての領界が一つになる。」
「ナドラガ神復活の時がくるのだ。」
「いわれなき業を背負い続けた我ら竜族は、ナドラガ神のご加護によって真の救いの経路へと至るであろう。」
「我らの神が復活すれば、すべての者が竜族の前にひざまずく。」
「それこそがこの世のあるべき姿なのだ。」
ナダイアは姿を消した。
戸惑うエステラ。
「すべての者が竜族の前にひざまずく?」
「そんなことを教団が望んでいるはずがない。」
「オルストフさまに伝えなければ。」
「主人公さん、これまでのご無礼をどうかお許しください。」
「決して償えるものではありませんが、せめてこの身を尽くしてあの者を止めようと思います。」
「私は急ぎ大神殿へと戻り、邪悪なる意志が神官長その人であったことを皆に報告せねばなりません。」
「では失礼します。」
エステラは去っていった。
その時、シオンが主人公の頭の中に話しかける。
「主人公、あなたも聖都エジャルナの大神殿に行くべきだと思います。」
「おそらくアンルシアたちは大神殿のいずこかに囚われているか、少なくともなんらかの手がかりがあるはず。」
「どうか急いで下さい。すべての領域がつながった今、彼女たちの身に何が起こるかわからないのです。」
主人公は聖都エジャルナに向かった。
大神殿の前でエステラに会う。
「主人公さん、なぜここへ。」
主人公はエステラに理由を話す。
「神の器が大神殿に囚われていると?」
「たしかにこれまでのことを思えばその可能性は高いですね。」
「ではともにオルストフさまのもとへ向かい、先程のことをお伝えしましょう。」
「神の器の居場所もつかめるかもしれません。」
エステラが大神殿の入り口に近づくと、ラディエムという門兵に止められた。
「先程大神殿に外部の者の立ち入りを一切禁止するとの通達がありました。」
「あなた方を通すわけにはまいりません。」
エステラが言う。
「神官の私と一緒であれば何も問題はないでしょう。通らせてもらいます。」
ラディエムが言う。
「エステラさま、申し訳ありませんが、あなたはもうナドラガ教団の神官ではありません。」
「あなたには神官長ナダイアさまの名で破門の通達が出されているのです。」
エステラが驚き、言い返す。
「それは邪悪なる意志の仕業です。オルストフさまと話をさせてください。」
「伝えなくてはならないことがあるのです。」
その時、大神殿を覆う巨大な結界が現れた。
「これは・・・」
言葉を失うエステラ。
ラディアムも驚いているようだ。
「何が起こった?こんなことは聞いていないぞ?」
エステラが言う。
「大神殿を守る守護の結界です。」
「教団が深刻な危機にさらされた時のみに発動されるという。」
「残念ながらこの結界を外部から破ることは出来ません。」
「ここは一度退くことにしましょう。打つ手を考えなければなりません。」
その時、疾風の騎士団のバッセがやってきた。
「私です。ムストの町のバッセです。」
「弟さん救出作戦の下調べのためエジャルナに来ていたのです。」
「クロウズさんが心配していましたのですぐにムストの町へお戻り下さい。」
「私は任務を続けますゆえ、これにて。」
エステラが言う。
「主人公さん、今の彼はあなたのお仲間である疾風の騎士団の者ではありませんか?」
「嵐の領界にあるムストの町がその組織の拠点になっていることは私も聞かされています。」
「どうか私を彼らのもとへ連れていってください。彼らと協力すれば道が開けるかもしれません。」
主人公はエステラを連れてムストの町に向かった。
集会所でクロウズに会った。
「主人公さん、私のチカラ及ばずすべての領界がひとつにつながる結果になってしまいました。」
「神の器も奪われ、こちらに残されたのはいまだに正体もつかめぬ創生の霊核のみ。」
「これは由々しき事態と言わざるを得ません。」
「そちらの方はナドラガ教団の神官、エステラさんですね。」
「私はクロウズ。お初にお目にかかります。」
エステラが答える。
「私はもうナドラガ教団の神官ではありません。先ほど破門された身ですから。」
「あなた方と話をするため主人公さんに頼んでここへ連れてきてもらったのです。」
クロウズが言う。
「ほう、疑うわけではありませんが、こちらもいろいろとありましたのでね。」
「少々確かめさせてもらいますよ。」
クロウズの目が金色に光り、エステラの頭の中を覗く。
ナダイアの鈴のついた杖がうっすらと見える。
「ふむ。邪悪なる意志によってなんらかの術がかけられていた痕跡があるようですね。」
エステラが言う。
「術ですか。では主人公さんと戦ったとき、私がおかしくなったのはその術のせいだったのですね。」
クロウズが頷く。
「今はもうその術は解けているようです。」
「どうやら私たちと話をしたいというあなたの言葉にウソはなさそうですね。」
「いいでしょう。それではお互いの持てる情報を出し合い、今後の対策を考えるとしましょうか。」
主人公、クロウズ、エステラの3人はお互いにこれまでの出来事を伝えそして話し合った。
クロウズが言う。
「なるほど、大神殿の入り口は守護の結界で閉ざされてしまったと言うのですね。」
「それでは大神殿へ攻め込むこともかなわない。」
「ここでも先手を取られてしまいましたか。」
「弟さんと神の器の方々を救出すべく侵入作戦を立てていたところだったのですが、考え直さねばならないようです。」
エステラが聞く。
「あの、弟さんというのは?」
「主人公さんの弟にあたる方です。」
「闇の領界で会ったあなたのことをウデの立つ神官だと言っていましたね。」
エステラはその時のことを思い出した。
「あ、それでは闇の領界で浄月の間に現れたあの人が。」
「主人公さんにもご兄弟がいらしたのですね。」
クロウズが言う。
「創生の霊核を奪うために教団に侵入した際、私のチカラが及ばず囚われてしまったのです。」
エステラは創生の霊核のことを知らないようだ。
「創生の霊核?」
「ナドラガ神の復活のカギとなるものです。大神殿の地下、その奥深くに厳重に隠されていました。」
エステラがうつむく。
「私は教団にいながら本当に何も知らなかったのですね。」
「今は過去を悔やむよりも未来へ道をつなぐことを考えましょう。」
「あなたはそのためにここへ来たはずです。」
エステラが頷く。
「これから私は大神殿に入る方法を聖都エジャルナで探ってみようと思います。」
「邪悪なる意志が発した言葉の通りなら、事態は一刻を争います。」
「わかりました。大神殿の件はあなたにおまかせしましょう。」
「こちらも準備を整えておきます。」
エステラが礼を言う。
「ご協力に感謝します、クロウズさん。」
「進展がありましたらすぐにご連絡します。」
「主人公さん、ここまで連れてきてくださりありがとうございます。」
エステラは聖都エジャルナに戻っていった。
クロウズが言う。
「邪悪なる意志にはことごとく上を行かれ、なんともくやしい限りです。」
「ですが彼女を味方にできたことは幸運と言えるでしょう。主人公さんのおかげですね。」
「主人公さん、結局あなたのチカラに頼りきりで申し訳なく思っています。」
「すべての領界がつながってしまった今、この世界に何が起こるのかわかりません。」
「神の器によって儀式が行われれば、ナドラガ神の身体も復活を果たす。」
「そしてその先には。」
「何度も予知のチカラを使ってみましたが、暗き道を進んだ先に見えるのは、漆黒の闇が広がる無の世界なのです。」
「それでも今はできることをしなければ。」
「まずは騎士団の者を各領界に送り、教団の動きを見張らせましょう。」
「私はさらに文献をあさり、神虚ナドラグラムや創生の霊核についてくわしく調べてみようと思います。」
「主人公さんはひとまず身体を休め、やがて来るであろう大きな戦いに向けてチカラをたくわえておいてください。」
一方、教団の大神殿の中にいるトビアス。
身体を痛めて、動かすのもつらい様子だ。
倒れ込み、床を叩きながら悔し涙を流している。
総主教オルストフの側には神官長ナダイアがいる。
「ついにエステラまでもが私のもとから去っていった。」
「たゆたう炎よ。解放者がもたらす希望の行く末を今ここに示しておくれ。」
青白い炎の中に、何かと戦っているエステラの姿が見える。
クロウズと弟も一緒に何かと戦っている。
神の器たちが円になり、何かに祈りを捧げている。
「すべての領界がつながった今、運命の時がすぐそこまで近づいている。」
「ナドラガ神よ。どうか最後のお導きを。」
「竜族の未来を希望の光が照らしますように。」
ナダイアが笑みを浮かべながらオルストフの背後に立っている。
そして、ナダイアは邪悪なる意志に姿を変えた。