賢者ホーローから主人公宛に手紙が届いた。
主人公に会いたいと言うので、待ち合わせ場所である真グランゼドーラ城前の広場に向かった。
「おお、主人公。わしからの手紙は読んでくれたか?おぬしにぜひとも会いたくてのう。」
「聞いたぞ。竜族の世界ナドラガンドでワイルドかつデンジャラスな冒険をくり広げてきたそうじゃな。」
「そんときの話をわしに聞かせてくれんか?」
主人公はナドラガンドでの出来事を賢者ホーローに話した。
「うむ。おぬしの活躍の場はもはやアストルティアに留まらずと言ったところか。」
「なんと、ナドラガンドで再び弟と出会えたのにまた別れることになってしまったとな。」
「そうか、おぬしたちふたりに課せられた運命はなんとも残酷なものじゃのう。」
主人公は弟が別れ際に残していった銀色の小箱を賢者ホーローに見せた。
「ほう、弟が残していったモノを持っているというのか?」
「それは興味深いのう。」
「ふーむ、なんじゃろうな。これは。おそらくは錬金術で作られたなんらかの装置だと思うんじゃが。」
「お、こんなところにボタンが隠されているようじゃ。これは押さずにはいられまい。」
賢者ホーローが銀色の小箱に隠されたボタンを押すと、箱が緑色に輝き出した。
それに驚いた賢者ホーローは、慌てて小箱を主人公に返す。
すると、主人公の身体は小箱に吸い込まれ、姿を消してしまった。
がっくりとうなだれる賢者ホーロー。
「ううむ、どうやらルシェンダさまにちゃんと報告しておかねばならぬ事件が発生してしもうたようじゃな。」
一方主人公は異空間をさまよっていた。
そして緑色の光に吸い込まれると、今まで見たことがない場所に姿を現した。
主人公の手には銀色の小箱が握られている。
その場所には一匹の黒いネコと女性がいた。
黒ネコには黄色い星のチャームがついた首輪がまかれ、尻尾には大きな赤いリボンが付けれれている。
女性は読書に夢中で主人公の姿に気づいていない様子だ。
黄色い星のチャームが付いたネックレスを付けて、胸元に大きな赤いリボンがついたドレスを着ている。
黒猫が先に主人公の姿に気が付き、女性に知らせる。
「どうしたのクロちゃん、おなか空いちゃったのかな?」
黒猫の名前はチャコルと言うようだが、この女性は「クロちゃん」と呼んでいる。
その時、女性も主人公の姿に気づく。
「あら?お客様の訪問なんて、今日の予定にあったかしら。」
「あなたとは初めて会うわよね。ええと、私の名前はメレアーデ。ここの屋敷の主の娘よ。」
「それでいつ、この部屋に入ったの?私ぜんぜん気づかなかったわ。すごいのね、あなたって。」
「あなたのファッションもずいぶんと個性的で興味深いわ。どこのお店で買ったのかしら?」
「うーん、なんだかあなた。何が起こったかよくわからないって顔をしているわね。」
「もしかしてここが有名なドミネウスのお屋敷ってこともあなたにはわかっていないのかしら?」
「でもさすがにこのエテーネ王国にいてそれを知らないってことはないわよね?」
その時、女性の召使いが部屋に入ってきた。
「メレアーデ様、お待たせいたしました。お茶のおかわりをお持ちしま・・・」
そこまで言った時、主人公の姿に気がつき、叫び声を上げる。
「きゃー!くせ者です!!」
その声を聞きつけ、部屋に男性がかけつける。
「今の悲鳴はなんだ!入るぞ、姉さん。」
どうやらメレアーデの弟のようだ。
弟は入ってくるなり主人公を問い詰める。
「貴様、どこから入った?ここをドミネウスの屋敷と知っての狼藉か!」
メレアーデが助け舟を出す。
「ちょっと待って、クオード。この人も何かとまどっているみたい。まずは話を聞いてみるべきよ。」
しかしクオードという名の弟は姉の話を全く聞かず、さらにまくし立てる。
「姉さんは下がって!無断で人の屋敷に立ち入るような相手だ。俺たちの命を狙う暗殺者かもしれない!」
クオードはそう言うと、いきなりクモノを仕掛けてきて、主人公の身体の自由が奪われる。
「動きは封じた、よし、ひっとらえろ!」
クオードが使用人に命じる。
主人公はクオードに捕らえられてしまった。
その時、主人公のそばに落ちていた銀色の小箱にクオードが気づく。
「む、これは?」
銀色の小箱を手に取り、念入りに観察するクオード。
「エテーネ王国の技術が使われているな。だが、なんだ?それだけではないように思える。」
「何にせよ、王都に忍び込んで盗み出したものに違いないだろう。これは返してもらうぞ。」
銀色の小箱はクオードに取り上げられてしまった。
「空いている部屋にぶち込んでおけ。しっかりカギをかけるのを忘れるなよ。」
主人公は身動きが取れないままメレアーデの部屋から連れ出され、物置に閉じ込められてしまった。
物置にベッドがあったので少し休むことにした主人公。
なんだか妙に身体が重く、しばらくの間、ベッドに横になったまま動けなかった。
外からゆっくりとこちらに近づく足音が聞こえてくる。
主人公は慌ててベッドから起き上がった。
しばらく横になっていたおかげで、疲れはすっかり取れたようだ。
部屋の扉外からメレアーデの声が聞こえる。
「ねえ、私の声、聞こえる?今開けるからちょっと待ってね。」
メレアーデがカギを開けて部屋の中に入ってきた。
「よかった、元気そうね。本当にごめんなさい。弟のクオードはせっかちで。」
「まったくあの子ったら、人の話を聞いてくれなくて本当に困っちゃうわ。」
「と、ひとまず私たちの事は置いときましょう。」
「さて、まずはあなたの名前を教えてくれる?」
主人公は自分の名前を名乗った。
「主人公っていうの?そう、とても素敵な名前ね。」
「あなたのこと、クオードは極悪人のように言ってたけど、私にはとてもそうは思えないわ。」
「だって、あなたはとても優しそうな目をしているもの。私、人を見る目には自信があるの。」
「だからここから出してあげる。大丈夫。後のことは心配ないわ。クオードも主都に出かけちゃったし。」
「それで、あなたはどうやってここに来たの?エテーネ王国の人じゃないみたいだけど。」
主人公はこれまで起きたことを正直に話した。
「え?銀色の箱のチカラでここに飛んで来たんですって?」
「それじゃあ、あの箱がないと帰ることも出来ないってことじゃない。」
「でも心配しないで。クオードはこの家から箱を持ち出したりしてないわ。」
「あとでゆっくり調べるつもりで自分の部屋にしまってあると思うの。あの子のことだからきっとそう。」
「ウオードの部屋を探せばきっと銀色の箱が見つかるはずよ。」
「あなたは私のお客さんってことにしてあるから少しくらいうろついても問題ないわ。クオードの部屋は3階の西側よ。」
主人公はクオードの部屋で銀色の箱を見つけた。
「銀色の箱、見つかったのね。これで主人公も一安心。」
「ところで、ずっと気になってたけどその箱って何なのかしら。クオードはエテーネのものって言ってたけど。」
黒猫のチャコルが部屋に入ってきたが、メレアーデは全く気づかない。
「あなたにもよくわからないの?もしかして帰り方もわからないって言うんじゃないわよね?」
突然黒猫のチャコルが目の前に現れてびっくりするメレアーデ。
「ひゃあ!」
「あらクロちゃん、どうしたの?」
スカートのすそをくわえて一生懸命引っ張る黒猫のチャコル。
「ああん、もうクロちゃんたら。そんなにスカートのすそを引っ張らないで。」
「ごめんなさい、主人公。クロちゃんが私を呼んでるみたい。きっとお腹が空いたんだわ。」
「私ちょっと行ってくるわ。すぐに戻るから話しの続きは後でね。」
メレアーデは黒猫のチャコルを追いかけて部屋から出ていってしまった。
部屋に一人取り残された主人公。
すると、どこからともなく声が聞こえてきた。
「主人公、屋敷の3階、テラスへ来て。今すぐに。」
主人公は不思議に思いながらも、3階のテラスへ向かった。
テラスからは浮遊する屋敷や城が見えた。
主人公がいるこの屋敷も浮遊しているようだ。
するとそこに、メレアーデがやって来た。
しかしメレアーデは先程着ていたドレスではなく身軽な服装をしている。
雰囲気も少し違うようだ。
「やっと会えた。」
「主人公、あなたにこれを託したいのです。」
メレアーデはそう言うと、赤色の結晶石を差し出した。
「エテーネ王国の王都、キィンベルへ。私の弟、クオードに会い、この記憶の赤結晶を渡して下さい。」
「そして必ずクオードとともに記憶の赤結晶の内容を確認するのです。」
主人公はメレアーデから記憶の赤結晶を託された。
「ですがその前に、あなたは見なければならない。」
メレアーデは不思議なチカラで主人公のもっている銀色の箱を引き寄せた。
宙に浮かんでいる銀色の箱は緑色に光っている。
「この世の終末を。」
メレアーデがそう言うと、主人公の身体が銀色の箱に吸い込まれた。
メレアーデが浮遊している隣の屋敷を見上げる。
「主人公、あなたを信じているわ。」
主人公が気がつくと、空を闇が覆い尽くしていた。
目の前にはグランゼドーラ城が見える。
そして、空の中心には巨大な繭(まゆ)が浮かんでいた。
その繭からは禍々しい瘴気が漏れ出し、赤黒い光を帯びている。
声が聞こえる。
「主人公、ボクの声、聞こえているキュ?」
頷く主人公。
「聞こえていることを確認したキュ。」
どうやら声は銀色の箱から聞こえているようだ。
銀色の箱を眺めていると、突然中から何かが飛び出してきた。
飛び出してきたのは、小さな妖精だった。
水色の身体に、緑のとんがり帽子と緑のマントをつけている。
口は黄色いクチバシになっていて、ふわふわと空中を飛んでいる。
「現在の状況を説明するのでだまってボクの話を聞くキュ。」
「現在地はレンダーシア大陸。ただしキミが知る時間軸より未来の、滅亡を迎えたレンダーシアだキュ。」
「おっと、自己紹介を忘れていたキュ。」
「ボクは、そうキュね。キュルルという名で呼んでほしいキュ。」
「時の妖精と思ってもらえれば概ね支障はないはずキュ。」
キュルルは銀色の箱を引き寄せた。
「ついでに言っておくと、このキューブはエテーネルキューブ。いわゆるひとつの時間跳躍制御装置キュ。」
「エテーネの民がその身に宿す時渡りのチカラを使い、時間と空間を超えた精密な移動を可能にするものだキュ。」
「キューブを使わずに時間跳躍をすると、時間がズレたり、目的地を見失ったり、まあ、ロクなことにはならないキュ。」
「キミからは強い時渡りのチカラが感知できるけど、どうも使い方がわかっていないようだキュ。」
「だからこのボクがキューブを使ってチカラの調整と時間跳躍ポイントの計算をしてフォローしてあげることにするキュ。」
「というわけで、この危険な世界から即時退散することをボクは提案するキュ。」
「くわしい説明は後でするキュ。キューブの緊急起動を開始するキュー。」
キュルルがエテーネルキューブを操作し、現代の真のレンダーシアに戻ることが出来た。
賢者ホーローの目の前に突然姿を現す主人公。
「おおお、返ってきおったか。心配したんじゃぞ、主人公。」
「突然目の前から消えてしまうからそりゃあもうあわてまくったぞ。」
「ふーむ、どうやらおぬしは、わしには予想もつかぬ体験をしてきたように見えるな。」
「今回のことはルシェンダさまにもちゃんと報告してあるんじゃ。そちらで詳しい話を聞こうではないか。」
「主人公よ。今すぐに城の2階にある賢者の執務室へ来てくれ。」
主人公が賢者の執務室に行くと、すでに賢者ルシェンダと賢者ホーローが待っていた。
「おお、主人公。よく来てくれた。ホーローから話は聞いているが、一体そなたに何があったのだ?」
主人公はエテーネルキューブを見せ、エテーネ王国へ飛ばされメレアーデたちと出会ったこと、そして破壊の限りをつくされたレンダーシアの大地に行って来たことを二人に語った。
「なんと、エテーネ王国に行ったとな?エテーネの民の末裔の一人としてこれは見過ごせん事態ではないか。」
賢者ルシェンダが主人公に聞く。
「たしかエテーネ王国は5000年ほど前に滅びたとされる国だな。」
「つまりそなたは、はるか過去の世界へと行っていたということになる。」
「時渡りのチカラが発現したというわけか。」
「しかし破壊されたレンダーシアとは一体どういうことなのだ?」
主人公の持つエテーネルキューブが緑色に光りだす。
「疑問点の解消が必要と判断したキュ。詳細な説明はボクがするキュ。」
エテーネルキューブからキュルルが現れた。
「ボクのことはキュルルと呼ぶキュ。これを住居にしている時の妖精キュ。」
驚く賢者ルシェンダ。
「時の妖精?そのような存在は聞いたことがないが。」
キュルルが答える。
「時を渡るエテーネルキューブに宿り、そのチカラを制御することが出来るから時の妖精と名乗っているキュ。」
「ある時キューブを起動した人物、弟と出会い、ともに過ごすことになったキュ。」
賢者ホーローがキュルルに近づく。
「ほうほう、弟と一緒に暮らしていたと言うのか。もう少し詳しく教えてくれんか?」
キュルルがそっぽを向く。
「ダメだキュ。別時間軸の人間にこれ以上のことは語れないキュ。時間波動のゆらぎを避けるためキュ。」
賢者ルシェンダが話をとめる。
「時の妖精とやらのことは今はよい。気になるのは主人公が行ったという破壊されたレンダーシアについてだ。」
「何か知っているなら聞かせてくれ。」
「あれは一言で言えば少し先の未来キュ。」
「この世界は近いうちに滅び、終末の光景へと成り果てるキュ。」
賢者ルシェンダが言う。
「そんなバカな。とうてい信じられぬ話だ。」
「しかし、他ならぬ主人公がその目で見てきたのならば信じぬわけにはいくまい。」
「我々に滅びの未来を回避する手段は何かないのか?」
キュルルが答える。
「可能性ならあるキュ。主人公が過去から持ってきた物体から大きな時間波動のゆらぎが観測できるキュ。」
賢者ホーローが考えている。
「過去から持ってきた?そう言えばエテーネ王国で会った女性から記憶の赤結晶を預かったとか言っておったな。」
キュルルが賢者ルシェンダに言う。
「その記憶の赤結晶をあるべき時間、あるべき場所へ運ぶことでゆらぎは収束するはずキュ。」
「ゆらぎの収束により、一度確定された未来が異なる未来の可能性に紡ぎなおされ、滅びの光景が回復出来るかもしれないキュ。」
「たしか主人公は、その記憶の赤結晶をクオードとやらに届けろと言われていたのであったな。」
「そうか、どうやら主人公にはもう一度過去へと飛んでもらう必要があるようだ。」
キュルルが言う。
「ただ、現状ではそれは無理だと言わざるを得ないキュ。」
「キューブのエナジー残量がゼロに近く、再度の時間跳躍は不可能だキュ。」
「アルケミダストが入手出来れば、キューブにエナジー供給が可能だキュ。」
「アルケミダストは高位の錬金術をした際に作られる残留物で、通常は廃棄されるけど、特殊な方法でエナジーに変換できるキュ。」
「でも職人が行うツボ練金やランプ練金や、主人公の錬金釜程度の練金ではアルケミダストは作られないキュ。」
「エテーネの島に行ってみるといいキュ。バルザックの遺産があるかもしれないキュ。」
賢者ルシェンダが言う。
「バルザック、その名は聞いたことがある。」
「究極へ至らんとした錬金術師であると。」
キュルルが頷く。
「自らの術を高めるため、人の道を外れた非道の錬金術師の名前キュ。弟から聞いたんだキュ。」
「バルザックはエテーネの島のあちこちに祠を立てて、多くの錬金術師をおびきよせ、そのチカラを奪ったらしいキュ。」
「その祠が遺跡として残っているキュ。エテーネ島に住む錬金術師ならおそらく何か知っているはずキュ。」
「説明は完了したキュ。それじゃ、ボクは失礼するキュ。」
キュルルはエテーネルキューブの中に消えた。
賢者ルシェンダが頭を抱える。
「今はそれに期待するしかあるまい。主人公にエテーネの島まで行ってもらうことにしよう。」
「そなたがエテーネ島に住む錬金術師に心当たりがあるならば、まずその人物と会うことから始めてみてくれ。」
主人公はスレア海岸に住むイッショウを訪ねる際、少し寄り道をした。
真のエテーネ村で、シンイが村を復興するので手伝ってくれと言われていたのだ。
村人を増やすために、以前エテーネ村に住んでいた住人に声をかけ、村人を増やしていく主人公。
昔住んでいた自分の家に戻り、タンスの中を整理していると弟のメッセージがあることに気がついた。
#おいらはキューブを手に入れてから村が滅ぶ運命を変えようと、何度も時を越えたけどあの滅びの時には辿りつけなかった。
#何度やっても数年前か数年後に着くし、時を待とうとすれば他の時代に飛ばされる。運命を変えることをこの世界が拒むみたいに。
#だからあんたたちに村の復興を託すことにしたんだ。
#この美しい故郷に、おいらの大切な人に、どうか手を貸してあげてほしい。
手伝いを終えた主人公は、スレア海岸に住むイッショウを訪ねた。
イッショウはバルザックの遺産について心当たりがあるという。
イッショウに場所を聞き、主人公はその遺跡へ向かった。
遺跡にいた魔物を倒すと、魔物はスライムに変化し、アルケミダストを落としていった。
キュルルが姿を現す。
「ボクの解析によると、ただのスライムがアルケミダストを体内に取り込んで肥大化していたものと判断デキルキュ。」
「主人公、これだキュ。アルケミダストの塊だキュ。ここへキューブを持ってくるキュ。」
主人公はエテーネルキューブをアルケミダストに近づけた。
「さっそくエナジー変換してキューブにチャージを開始するキュ。」
エテーネルキューブにアルケミダストが吸い込まれる。
「エナジーが完全にチャージされるまでしばらく時間がかかる予定だキュ。」
「主人公には、外見的要素が生体継続時間と一致しない女賢者に報告しに戻ることを提案するキュ。」
主人公は賢者の執務室に戻った。
「主人公、ご苦労。時の妖精の言っていたアルケミダストは手に入ったのか?」
主人公がエテーネルキューブを取り出すと、キュルルが現れた。
「キューブへのエナジーチャージは先程完了したキュ。」
「おお、つまりキューブはすぐにでも使えるということだな。」
「では主人公よ。滅びの未来を食い止めるためにふたたび過去の世界へ向かってくれるか?」
「またしてもそなたに頼ることになるが、これは時渡りのチカラを持つそなたにしか出来ないことなのだ。」
賢者ホーローが近づいてきた。
「その前に言っておきたいことがある。わしはエテーネ王国について知るため各地の文献をあさってきたのじゃが、高度な錬金術により栄華を誇った王国だが、5000年前に突如として滅んだとしか記されてはおらんかった。」
「つまるところおぬしはこれから滅んだ原因も定かではないエテーネ王国へと行かねばならぬのじゃ。」
「そしてそこでの選択が、我々の未来をも変えていくことになるやもしれん。」
「おぬしの持つ時渡りのチカラも決して万能なものではない。これまで以上に慎重な行動を心がけるのじゃ。」
キュルルが時間跳躍の準備を始める。
「それじゃ、時間跳躍を開始するキュ。時間設定5012年前。」
「ポイント設定、エテーネ王国。メレアーデのいた屋敷にピンポイントで行けるように設定するキュ。」
「設定完了。エテーネルキューブ、起動するキュ。」
エテーネルキューブが起動し、主人公は5012年前のドミネウスの屋敷へ移動した。
その様子を見守る賢者ルシェンダ。
「頼んだぞ、主人公。」
ドミネウスの屋敷へ移動した主人公。
しかし屋敷は荒れ果てており、以前と様子が違っている。
「屋敷の様子が前に来たときと全く異なっているキュ。現在の年代を測定してみるキュ。」
「主人公、ボクたちは前に来たときよりも時が過ぎた状態の屋敷に到着したと推測されるキュ。」
「エテーネルキューブの調律に少し乱れが発生していて、そのせいで時間がズレたみたいだキュ。」
「今後はこのような問題が起こらないよう、ボクはキューブの制御に集中するキュ。」
「その代わり、今後はエテーネルキューブの起動判断は主人公にまかせることにするキュ。」
「時間が多少ズレたとはいえ、ここがエテーネ王国のメレアーデがいた屋敷であることは間違いないキュ。」
「メレアーデから預かった記憶の赤結晶を弟のクオードに渡して、一緒に見ることが主人公の任務だキュ。」
「でも屋敷の中からキミ以外の人間の生体反応が全く感知できないキュ。」
「ここにいても意味がないと思われるキュ。」
「可及的速やかに屋敷の外へ脱出し、クオード探索ルートの再構築をするよう提案しておくキュ。」
「ボクはキューブの中に退避しておくキュ。時の妖精たる者、別時間の存在とむやみに接触することは極力避ける必要があるキュ。」
キュルルはキューブの中に入っていった。
主人公は廃墟となっているドミネウスの屋敷を脱出することにした。
途中、何度も魔物と遭遇するがなんとか屋敷の出口にたどり着く。
すると3人の兵士がちょうど屋敷へと入ってくるところだった。
「だいぶ荒らされているな、どうやら魔物が入り込んでいるようだ。」
その時、主人公が物音をたててしまい兵士たちに気づかれてしまった。
「む?貴様は何者か?」
兵士たちに取り囲まれてしまう主人公。
「ふーむ、エテーネ王国の者には見えませんねえ。」
一人の兵士が声を荒げる。
「ここで何をしてやがる!もしかして野盗のたぐいか?」
ローベルという兵士が止めに入る。
「私はローベル。我々はこの辺りの警備を任されているエテーネ王国、辺境警備隊の兵士だ。」
「貴殿は旅の者と見た。何用で訪れたのかは知らぬが、この屋敷は今危険な状態にある。」
「即刻立ち去ったほうがいい。我々の詰所がそう遠くない場所にある。そこまで行けば安全だ。」
「だが我々は調査任務があるため、貴殿を送っていくことはできない。自分の足で詰所まで行ってもらいたい。」
「この者の目は犯罪者のものではない。責任は私が取る。」
「警備隊の詰所は、このバントリユ地方の東だ。気をつけて向かうがいい。」
兵士たちは屋敷の奥へ調査に向かった。
主人公は警備隊の詰所へ向かう。
途中、5つの石碑があったので調べてみる。
#1
#天の神よ、地の人よ、かの者をたたえよ。
#ここに語られるは、エテーネ建国王たる英雄レトリウスのいさおしの第一節。
#マデ氏族の若者レトリウスは、成人の儀である獣の牙折りに挑むにあたり獣の王ムザーグを狩らんと欲した。
#ムザーグは岩山のごとき巨体の魔獣である。
#誰もが無謀な試みだとあざわらったが、レトリウスは己の知恵と勇気を信じていた。
#ひと月後・・・誰もがレトリウスの無残な死をウワサしあう頃、若き勇士は見事、獣の王を討ち果たし、その牙を持ち帰った。
#これはレトリウスの最初のいさおし。
#誰も思い描かぬ夢を見て、それをかなえる。
#英雄たる者の資質はここに示された。
#2
#天の神よ、地の人よ、かの者をたたえよ。
#ここに語られるは、エテーネ建国王たる英雄レトリウスのいさおしの第二節。
#レトリウスには 無二の親友がいた。
#名は キュレクス。常にレトリウスと共にあり、その知恵とチカラを友のために尽くした。
#放浪者であったキュレクスは、旅の途中、行き倒れているところをレトリウスに救われ、マデ氏族の集落で過ごすことになった。
#滞在の間、レトリウスとの友情を深めた彼は、やがて、この地に根を下ろし、友のために己がチカラを振るうことを決意するようになる。
#キュレクスの知恵は、マデ氏族に多くの恵みをもたらすことになった。かような友を得たこともまたレトリウスの英雄たる証と言えよう。
#3
#天の神よ、地の人よ、かの者をたたえよ。
#ここに語られるは、エテーネ建国王たる英雄レトリウスのいさおしの第三節。
#マデ氏族の長となったレトリウスは、ティプローネ高地に巣食う、毒竜ガズダハムを氏族の総力を挙げて討つことを決意した。
#かの毒竜を倒し、ティプローネ高地を得られれば、くめど尽きぬ水源と豊かな狩場を手に入れられ、氏族の繁栄は約束されるがゆえに。
#キュレクスが予言した通りの大雨の日に討伐は決行された。ガズダハムの発する毒の霧は降りしきる雨に流され、うすらいだ。
#討ち手の先頭に立つレトリウスの槍がガズダハムの心臓をつらぬき、マデ氏族はついにこの地に覇を唱える一歩を踏み出した。
#4
#天の神よ 地の人よ かの者を たたえよ。
#ここに語られるは エテーネ建国王たる英雄レトリウスのいさおしの 第四節。
#ある日レトリウスは、ケミル氏族という小勢力を旗下に取り込んだ。彼らは錬金術という物を作り変える秘術をあやつる人々だった。
#他氏族からうとまれ、恐れられていた彼らを新たなチカラとして手厚く遇したのはレトリウスの器の大きさを 示すものである。
#ケミル氏族の中でも、長の息子ユマテルは万物の理に通じるとまでいわれる錬金術師で、その術によりマデ氏族の生活は格段に向上した。
#神知の放浪者キュレクスと大錬金術師ユマテル。
#ふたりはやがてレトリウスの双翼と呼ばれるようになっていくのだった。
#5
#天の神よ、地の人よ、かの者をたたえよ。
#ここに語られるは、エテーネ建国王たる英雄レトリウスのいさおしの第五節。
#危険な魔物を討ち、他氏族との戦争を勝ち抜き、マデ氏族の長レトリウスの版図はすでに国と呼ばれるまでに 大きくなっていた。
#大エテーネ島に住まう諸氏族は、ことごとくレトリウスの支配に服し、その威勢はレンダーシア全土に響くまでとなった。
#レトリウスの武勇、キュレクスの叡智、ユマテルの秘術・・・それらが原動力となって、ここに偉大なる王国が生まれた。
#キュレクスの提言により新たなる国の名はエテーネと定められた。それは異邦の言葉で「永遠」を意味するという。
主人公はバントリユ地方の東にある警備隊の詰所に着いた。
すると、ドミネウスの屋敷で出会った兵士ローベルが戻ってきていた。
「おお、貴殿も今着いたところか。貴殿と会った後、屋敷の奥へ向かったが思ったよりも中の魔物が手強くてな。いったん引き上げて来たところだ。」
他の2人の兵士たちもいる。
「全く、ひどいめにあいましたよ。」
「お前、あそこにいてよく無事だったな。運のいいヤツだぜ。」
ローベルが言う。
「貴殿には、隊長のところまで同行を願おう。ドミネウス邸にいたのは何か事情がありそうだったからな。」
ローベルが兵士たちに言う。
「私は隊長に増員の許可をもらってくる。ディークとイガラの両名はその間に少し休んでおけ。」
ローベルと一緒に、隊長の元に向かう主人公。
「ラゴウ隊長。ドミネウス邸の調査の件、増員を願いたいのですが。」
ラゴウ隊長が驚く。
「なに?ただの調査任務のはずだが、お前たちだけでは足りないというのか?」
「どういうことか、さっさと報告しろ。」
ローベルが報告する。
「は!屋敷内には魔物が侵入しており、我々3名だけでは苦戦を免れず、一時撤退してきたという次第です。」
ラゴウ隊長が頷く。
「しかたあるまい。増員を許可する。人選はお前に任せる。」
「ところでローベル。お前の横にいるそいつはなんだ?」
「は!我々が調査に訪れた時、屋敷にいた旅の者です。事情がありそうなので連れてきました。」
ラゴウ隊長が言う。
「ふん、屋敷にいただと?ならばそいつはただの不法侵入者ではないか。おおかた、王都に行こうとして道に迷ったのだろうが、そんな話は後だ。その辺りで待たせて・・」
ラゴウ隊長がそこまで行った時、近くで悲鳴が聞こえた。
「なんだ?今の悲鳴は。」
ローベルが言う。
「ディークの声のようです。いったい何が・・」
イガラが慌てた様子でやって来た。かなり取り乱している。
「隊長!魔物の襲撃だ!何人かはやられちまいました!」
ラゴウ隊長が立ち上がる。
「なに!この辺りの魔物が詰所を襲ってきたことなど今までに一度もなかったぞ!」
「それが、初めて見るヤツで。オマケになんか普通じゃなくて。」
イガラがそこまで言った時、黒くて大きなツノが1本ある4足歩行の魔物が現れた。
魔物の角には、黄色い宝石のようなものが埋め込まれている。
魔物はその角から黄色の光をイガラに向かって照射した。
イガラから何かを吸い込んでいるようだ。
そして照射が終わると、ツノにある黄色い宝石が赤い色に変化した。
イガラはその場に倒れ込んでしまう。
ラゴウ隊長は腰を抜かしてしまった。
ローベルは立ち向かおうとするが、魔物は逃げ去ってしまった。
ラゴウ隊長は怯えている。
「なんなんだ、あの魔物は。あんなのは見たことがないぞ。」
「それになんだ、あの態度は。我々にはもう興味がないとでも言いたそうな感じだったではないか。」
イガラの容体を確認する。
「死んではいないのか?まるで生気を抜かれたような・・」
イガラに呼びかけをするが、全く返事がない。
「駄目か。とにかくこのまま放っておくわけにもいかんな。」
奇妙な魔物に襲われた詰所の兵士たちは、皆、生気を抜かれたかのようになり、動かなくなっていた。
ラゴウ隊長の命により、彼らは襲撃をまぬがれた兵士によって治療のため王都へと送還されていった。
「ううむ、なんということだ。ほとんどの隊員があの魔物1匹にやられてしまうとは。」
そこへローベルが調査から戻ってきた。
「逃げていくあやつの後を追い、西のほら穴へ入り込むのを確認しました。」
「私ひとりでは太刀打ちできぬと判断し、報告に戻った次第です。」
ラゴウ隊長が考え込む。
「ぬう、そうか。しかしあれを放置しておいて、またここを襲ってきたら・・」
「おお、そうだ。そこのお前、荒事は得意なのだろう?風体を見ればすぐにわかるぞ。」
「お前に仕事を与えよう。あの魔物を退治しに向かうのだ。屋敷への不法侵入を不問にしてやるぞ。」
「よいな?お前に他の選択肢はない。あの魔物、むう、名がないと不便だな。」
「よし、異形のケダモノということで、あれを異形獣と名付けよう。我ながらよいネーミングではないか。」
「ローベルの言った西のほら穴に向かい、異形獣を退治してくるのだ。倒した証拠の品も忘れずにな。」
主人公は西のほら穴で異形獣を倒した。
倒した際に、ツノが折れたのでそれを持ち帰る主人公。
キュルルがエテーネルキューブから出てきた。
「ボクの解析によればそのツノには生命体から特殊なエナジーを抽出するチカラがあるようキュ。」
「それにしてもおかしな魔物キュ。ボクも見たことがない種類だったキュ。」
主人公は兵士の詰所に戻り、ラゴウ隊長に異形獣のツノを渡した。
「おお、これはまさしくあの異形獣の頭にあったツノだな。見れば見るほど不思議なツノだ。」
「よし、こいつはわしのコレクションに加えておくとしよう。」
「よくやった。約束通り、お前の屋敷への無断侵入の罪はわしの権限で不問にしてやろう。」
「だがその前に、もうひと働きしてもらわないといかん。ちょっとそのまま待っていろ。」
ラゴウ隊長は、机の上に紙を広げて猛烈な勢いで何かを書き始めた。
そして書いた内容をながめてうむうむと頷くと、その紙を封筒に入れて封をした。
「これを王都キィンベルの軍司令部にいる軍団長まで速やかに届けてくれ。」
「異形獣の出現により、屋敷の調査が不可能になったことを書いた報告書だ。」
「ついでにわしの王都への配置転換も陳情しておいたがな。」
「お前も王都に用があるのだろう?これで大手を振って入れるのだ。おおいに喜ぶがよい。」
「王都キィンベルは、ここより南からエテーネ王国領に入り、北を目指せばいい。寄り道などはせず、まっすぐ向かうのだぞ。」
主人公は王都キィンベルに向かった。
王都キィンベルの軍司令部前に着くと、なにやら騒動が起きていた。
屋敷の使用人たちが副団長と話している。
「では、君たちの主については引き続き、軍司令部のほうで治療させよう。命に別状がなくてよかったな。」
「ありがとうございました。副団長さま。本当になんとお礼を言ったらいいのか。」
「王国軍の皆さんが駆けつけてくださらなければ今頃どうなっていたことか。」
副団長が使用人たちを励ます。
「よくぞその場を動かずにこらえてくれた。混乱して動き回っていればあっという間に魔物の餌食になっていただろう。」
「ええ、お屋敷が墜落した時の騒ぎで命を落とした仲間もいます。私たちももう駄目だと思いました。」
ひとりの使用人が、分厚い本を腰元から取り出す。
「でもその時、時の指針書に書かれていた内容を思い出したんです。何があってもかがり火をたいて主を守り、苦難を耐え抜け、と。」
「お導きの通りに従ったから救われたのです。時の指針書は、私たちエテーネ国民の希望の光そのものですわ。」
となりの使用人も話しだす。
「私の指針書にはこう書かれています。仲間と共にあれば必ず再出発できると。」
副団長が話をまとめる。
「うむ、主の回復を信じていたまえ。意識が戻り次第、追って連絡させよう。」
「さあ、君たちも休息をとるがいい。」
使用人たちは、深々とお辞儀をして去っていった。
副団長が主人公の姿に気づく。
「む?旅人かね?ここから先は軍の施設になっていて、許可のないものは立ち入ることが出来ないのだ。」
「私はセオドルト。エテーネ王国軍の副団長を努めている。何か用件があるならばここで聞こう。」
主人公は、ラゴウ隊長から報告書を預かってきたことをセオドルトに話した。
「なるほど、そうか。わざわざ旅人に託すというのは何か火急の知らせかもしれないな。」
「本来なら軍団長が受け取るべきものだが、今は作戦行動中でお留守にされている。その報告書は代理で私が受け取ろう。」
主人公は、セオドルトにラゴウ隊長の報告書を渡した。
「うむ、よくぞ届けてくれた。これは由々しき事態だな。」
「浮島の墜落事故はドミネウス邸だけではない。同じ時期に別の浮島も全く同じ被害にあったのだ。」
「この一連の事故が、異形獣という恐ろしい魔物の仕業だとするなら、無視することは出来ないな。」
「しかし、こんなことは時の指針書にも書かれていなかったはずだが?」
「ああ、旅人の君は知らないだろうな。先程の侍女たちや王都の人々が大きな書物を腰元にたずさえていただろう。」
「あれはすべてのエテーネの国民に1冊ずつ配布される時の指針書と呼ばれるものだ。」
「エテーネ王国は、時見の箱という装置を使い、近い未来を予見することで今日の繁栄を築き上げてきた。」
「国王は未来視の結果を繁栄した、人生において選択すべき行動を時の指針書に記して国民に配布する。」
「エテーネの国民は指針書に記されている通りに行動すれば、よりよい未来が約束されるのだ。」
「先程の侍女たちを見ればわかる通りにな。」
「さて、報告書の件だが、軍団長が戻れば君に詳しい話を聞くことになるかもしれん。」
「しばらくの間、王都に滞在してもらいたい。ただし、この件はくれぐれも内密に。国民に大きな混乱を与えかねんからな。」
「王都南門の近くに宿屋がある。そこに君の部屋を用意させよう。旅の疲れをゆっくり癒やしていってくれ。」
主人公は宿屋で受付をする。
「やあ、いらっしゃい。王都キィンベルの宿屋へようこそ。」
「ああ、あんたが主人公さんかい。副団長さんから話は聞いてるよ。今夜はゆっくりしていくといい。」
「そうそう、あんたラッキーだぞ。ちょうどこれから踊り子や曲芸師による盛大なショーが開かれるところなんだ。」
「もうお客さんも集まってる頃だろう。向かって左に酒場への入り口がある。ぜひステージを楽しんでってくれ。」
主人公はショーを鑑賞した。
ショーも終盤に差し掛かる。
「さーて、ここでとっておきのサプライズ。うるわしきスペシャルゲストのご登場だ。」
「本日、待望の復帰公演。月夜に咲いたラウラの花。エテーネの歌姫、シャンテ!」
ステージに黒髪の女性が登場した。
「届け、この思い。響け、皆さんの胸に。」
「今の気持ちを歌にしました。それでは聴いて下さい。酒場の皆さんに捧げる歌。」
シャンテが歌い始める。ひどいオンチだ。
「なんだ?これは!前と全然違うじゃないか。頭がガンガンする。おえ。」
観客が耳を塞いで苦しみだし、次々と逃げ出していく。
シャンテは不思議そうな顔をして歌うのをやめた。
「あれ?待って、行かないで。」
酔った客がシャンテに襲いかかる。
「おい、お嬢ちゃん。よくもひどい歌を聞かせてくれたな!」
シャンテが側にいた主人公に助けを求める。
酔った客は主人公を見てかなわないと思ったのか、ぶつくさ言いながら帰っていった。
シャンテが主人公にお礼を言う。
「かっこいい!あなたのお名前は?主人公さんね。助けてくれてありがとう。」
「ぜひお礼をさせてほしいわ。どんなことなら喜んでもらえるかしら?」
「そうだわ、ぜひうちへ遊びに来て。ここから東にゼフの店っていう錬金術のお店があって、私そこに住んでるの。」
「たいしたおもてなしは出来ないけど、あなたのために一曲歌わせて欲しいな。」
「絶対遊びに来てね。」
宿屋モッキンがシャンテを叱る。
「おい、シャンテ!今のひどい歌はなんなんだ?」
「なんてこったい、今日はもう店じまいだ。早いとこ出ていってくれ!」
シャンテは逃げ帰った。
宿屋モッキンが時の指針書を見ながら落ち込んでいる。
「とほほ、やっちまったよ。曲芸師や踊り子で客をもてなせ、ただし誰にも歌わせてはならない。」
「なのにあの子にどうしてもと頼まれて、ついついステージに上げちまった。これじゃ、うちの評判はガタ落ちだ。」
「いや、それ以前に、こんな騒ぎを起こしたら指針監督官に目をつけられちまうかもしれないぞ。」
宿屋モッキンは時の指針書を腰元に戻す。
「ああ、シャンテは王都で人気の歌姫でな。半年ほど前、ある事件に巻き込まれたせいで療養することになり、活動休止していたんだが。」
「ようやく活動再開と思いきや、ひどい歌声だったよなあ。話してても以前よりボーッとした感じだったし。」
「あんた、あの子に錬金術の、ゼフの店に来るよう誘われてたな。」
「もし行くつもりなら中央広場から東に歩いて、階段を上がった通りにあるぞ。薬びんの看板を目印にして探すといい。」
「そんでさ、シャンテに会ったら、悪いこと言わないからもう人前で歌うのはやめたほうがいいよって伝えてくれないかい。」
主人公はその日、宿屋に泊まり、夜が明けてからシャンテに会うためにゼフの店へ行った。
受付にゼフがいたので話しかけてみる。
「え?シャンテですか?確かに彼女はこの店にいますが。」
すると、リンカという女性の錬金術師が主人公の側へやって来た。
「おい、そこのお前。」
「あたしはリンカ。この店で働いている錬金術師で、お前が探しているシャンテの姉さ。」
「でだ、うちの妹に何の用だ?お前みたいな旅人がどこでどうやってシャンテと知り会ったっていうんだよ!」
リンカは何故か喧嘩腰だ。
「よくいるんだよな、お前みたいなの。シャンテの歌に惚れ込んで押しかけてくる図々しくって迷惑な奴がさ。」
「知り合いを装ってあいつに近づこうってんなら、このあたしがタダじゃおかないぜ!」
ゼフがリンカを叱る。
「いい加減にしなさい、失礼でしょう。」
ゼフの側には、リスのようなピンクの魔物がいる。胸には赤い宝石が埋め込まれている。
チュラリスという名前の魔物は、喋ることが出来るようだ。
「そうだ、そうだ。リンカは失礼千万だぞ!お客様を困らせたら駄目なの!」
「なんだよ。チュラリスは関係ないだろ。ていうか、裏に隠れてろって。もしこんな時にあいつらが来たら・・」
その時、店のドアが勢いよく開いた。
「チッ、ウワサをすれば・・・」
黒い制服を来た女性が入ってくる。
「邪魔するぞ、エテーネ王国軍、特務機関所属、指針監督官のベルマである。」
ベルマの姿を見たチュラリスがゼフにしがみついて震えている。
「またですか、ベルマさん。」
ベルマが高圧的に言う。
「おや、二人ともおそろいとは、ちょうどよかった。その後、我々の指導には従ってもらえたかな?」
チュラリスの方をチラリと見るベルマ。
「ふむ、どうやらまだのようだ。貴様ら錬金術師がもつ指針書には、はっきりと書かれているはずだが?」
「すべての魔法生物を処分せよ、と。」
「このエテーネ王国は、時の指針書には従うことで今日までの輝かしい栄光を築き上げ、豊かな暮らしを実現してきたのだ。」
「国民ならば子供でさえ理解していることだが、わかっているのか?拒否すれば国家への反逆とみなすぞ。」
「それとも、厳しいお仕置きが必要かな?」
リンカが啖呵を切る。
「は、やってみやがれ!あたしたちは権力や脅しには屈しない。錬金術師としてのプライドにかけてね!」
ゼフが言う。
「荒事はよしましょう。今はお客さんが来ているんです。無関係の人を巻き込むおつもりですか?」
ベルマが主人公のほうを見る。
「ち、よそ者か。時の指針書に記載のない者と関わるのはいささか面倒だな。」
「いいだろう。今日のところは退いてやる。だが私の指針書は告げているぞ。次こそは使命を果たすべし、と。」
「すべての魔法生物を処分しろ。貴様らの賢明な判断を期待しているぞ。」
ベルマが笑いながら帰っていく。
それを見届けたゼフが主人公に言う。
「驚かせてしまってすみませんね。旅人のあなたには何がなんだかわからなかったでしょう。」
「さっきの軍人たちは、指針監督官といって、時の指針書に書かれた内容に従わない者を取り締まる立場にあるんです。」
「ここ最近、軍の権威をかさに着て王都で幅を利かせている連中なんですよ。以前はこんなことはなかったんですが。」
リンカが口をはさむ。
「これでわかったろ?今この店は面倒なことになってんだ。お前の相手なんかしてられないんだ。」
シャンテが2階から階下の様子をうかがっている。シャンテの足元には、小さな魔法生物がいる。
「姉さん、あの女の人達は帰ったの?私たち、もう下に降りてもいい?」
その時、シャンテが主人公の姿を見つける。
「主人公さん!?待っててね。今そっちに行くから。」
シャンテが慌てて階段を降りてきた。
リンカが驚く。
「え?なんだよシャンテ。こいつマジで知り合いなのか?」
シャンテがニッコリと頷く。
「主人公さんは私の恩人なの。酔っぱらいに絡まれてたのを助けてくれて、すっごくかっこよかったんだから。」
リンカが主人公に言う。
「なんだ、こいつが例の恩人だったのかよ。そういうことなら早く言えっての。」
「追い返そうとして悪かったな。あたし妹のことになると、ついついマジになっちまってさ。」
「酒場では本当にありがとう。遊びに来てくれて、とってもうれしいわ。」
主人公は、宿屋のモッキンからの伝言を伝えた。
「え?宿屋のモッキンさんから伝言?」
「そう、たしかに迷惑かけちゃったものね。言われた通り、もうこれ以上人前で歌わないほうがいいかも。」
リンカが慰める。
「そんな落ち込むことないぞ、シャンテ。他の連中には理解できなくたって、あたしはあんたの歌が好きだよ。」
「ありがとう、姉さん。でも出来ることなら多くの人に自分の歌を届けたいの。」
「私は歌うことが本当に好きよ。この歌でいつかみんなを幸せにしたい。それが歌姫としての使命だと思うから。」
リンカがシャンテの手を握る。
「気持ちはわかるし、お前の願いならなんだって叶えてやりたいけど、今は家でおとなしくしててくれよ。」
「お前は大怪我から回復したばかりで、まだまだ本調子じゃないろ?それに今は指針監督官がうろついている。」
「そうね、あの人達、ちょっと怖いわ。コポも部屋で怯えていたもの。」
コポというのは、シャンテの足元にいる緑色の魔法生物の名前のようだ。
コポにも胸に赤い宝石が埋め込まれている。
ゼフが説明をする。
「チュラリスとコポは、錬金術によって生み出された魔法生物なんです。」
「一見すると魔物のように見えますが、魔法生物はその証として身体のどこかに宝石を宿しているので、すぐにわかるんですよ。」
「チュラリスは私の助手として、コポはシャンテの話し相手として、それぞれ役立ってくれています。」
リンカが言う。
「あたしたちにとって魔法生物は大切な家族なんだ。」
「こいつらを処分しろだなんてとんでもない。たとえ指針書に書いてあることだとしても、あたし達は絶対に従わないよ。」
「んー、だけど何か忘れてるような・・あ!ジョニールだよ。あいつのことすっかり忘れてた!」
「ちょっとヤバイな、これ。あーどうしよう。」
「ああ、ジョニールってのは、あたしが錬成した魔法生物で、いつも仕事を手伝ってくれてる奴なんだ。」
「そのジョニールが練金素材の仕入れに行ったっきり、まだ帰ってきてないんだよ。」
「指針監督官に見つかったら大事だぞ。」
「すぐに迎えに行ってやりたいけど、あたしもベルマには目をつけられてるし、まいったな。」
「そうだ、お前なら指針監督官の監視も気にしなくていいだろ。あたしの代わりにジョニールを迎えに行ってくれないか?」
「ジョニールは中央広場の東側に建つ雑貨屋にいるはずさ。あいつを見つけたらすぐに店に戻るよう伝えてほしい。」
主人公はジョニールところへ向かった。
雑貨屋に着くと、部屋の中から話し声が聞こえてきた。
「だから何度言えばわかるんだよ!ネジガラミの根は品切れ。ないものは渡せない。」
「そちらこそ何度言えば理解できるので?品切れならば仕入れればいいだけの話です。それが雑貨屋の職務ってもんでしょうに。」
部屋の中に入ると、雑貨屋の店主とジョニールが睨み合っている。
ジョニールの身体は小さく、ふわふわと空中に浮かんでいる。
「いいですか。リンカ様は有能な執事であるこのジョニールを信頼してお使いを命じてくださった訳ですよ。」
「手ぶらで帰れば執事の誇りがすたるってもんです。さあ、出すもの出してもらいましょうか。」
雑貨屋の店主が主人公に気づき声をかける。
「ああ、すみませんね、お客さん。ちょいと取込中でして。」
主人公はジョニールに話しかける。
「はい?ジョニールは確かに私のことですが。」
「なんですと?リンカ様が帰ってこいと?しかし、任務を途中放棄するなどもってのほか。何故ならワタクシ有能な執事ですから。」
雑貨屋の店主はブルーノーという名前のようだ。
「俺はこおの店主のブルーノー。ジョニールはうちの常連だし、品物を売りたいのはやまやまなんだが。」
「注文の素材、ネジガラミの根は品切れでね。ちょいとバントリユ地方まで取りに行かなきゃならないんですよ。」
「だが、俺の指針書に書いてあるんです。バントリユ地方に行っては行けないってね。」
ジョニールが怒り出す。
「そっちがその気ならこちらとしても素材が手に入るまではテコでも動きませんよ。何故ならワタクシ有能な執事ですから!」
ブルーノーが困っていたので、主人公が代わりにバントリユ地方に行ってネジガラミの根を採ってきた。
ジョニールは主人公からネジガラミの根を奪い取り、リンカの所へ帰っていった。
「ネジガラミの根は滋養強壮のほか、物忘れなんかにもよく効く薬を錬成するための素材でしてね。」
「近頃はリンカに頼まれたジョニールがちょくちょく買いに来るんだが。シャンテちゃん、そんなに悪いのかねぇ。」
主人公がゼブの店に戻る途中、指針監督官ベルマに出会った。
「この店の魔法生物はあれで全部か。何を驚いた顔をしている?貴様のことはずっと監視させていたのだぞ。」
「まさか気付かなかったのか?鈍い奴め。時の指針書は必ず遵守されるべきものだ。誰ひとりとして逃れられはしない。」
「だがエテーネの国民でない貴様は別だ。このまま錬金術師たちとの関わりを絶てば特に咎めはしない。」
「我々はそろそろしびれを切らしている。邪魔はしてくれるなよ。」
そう言うと、ベルマは立ち去っていった。
ゼフの家に入ると、ジョニールが戻ってきている。
「いやはや。雑貨屋の主人が相変わらずの石頭でして、苦労させられましたのですよ。」
「しかし、この有能執事ジョニールにかかればネジガラミの根のひと束やふた束、チョロいもんでございますからね。」
リンカがねぎらいの言葉をかける。
「よしよし、おつかいご苦労さん。とにかくベルマに見つからなくてよかったな。」
主人公に気づく。
「お、主人公、ありがとな。ジョニールのこと手伝ってくれたんだろ?お前っていいやつだな。」
シャンテも隣にいる。
「主人公さんは錬金術って見たことある?これから姉さんが薬を作ってくれるの。とってもかっこいいのよ。」
リンカがネジガラミの根を使ってシャンテのための薬を作った。
シャンテが出来上がった薬を飲む。
「この薬用茶は心をリラックスさせて、眠った記憶を呼び戻す効果があるって姉さんが毎日作ってくれるの。」
「ええ、私、昔の記憶がないの。半年くらい前、はるか南の海洋都市リンジャハルで起こった大災害に巻き込まれて大怪我をしたらしいわ。」
「奇跡的に回復して怪我は治ったんだけど、大災害にあうより前のことは覚えてないの。」
「だから王都の歌姫って呼ばれても、その頃の記憶も歌い方もすべてがボンヤリしてわからないのよ。」
「酒場のステージで歌えば昔のカンを取り戻せるかなって思ったんだけど、それも迷惑かけちゃったし。」
リンカがシャンテの肩に手をのせ、優しく語りかける。
「誰がなんと言おうと関係ないさ。もしもお前を悪く言う奴がいたら、あたしが錬金釜でぶん殴ってやるよ。」
「お前はあたしにとって最高の歌姫だ。だからそんな顔するなよ。いつもみたいに明るく笑ってくれ、な?」
「ありがとう、姉さん。姉さんはいつだって味方になってくれるの。だから頑張ろうって思えるの。」
「私負けない。元の歌声に戻る日まで、絶対くじけないわ。」
それを聞いたリンカは悲しい顔をしている。
「気持ちはわかるけど無理するな。ありのままのお前でいいじゃないか。」
「あたしはいつまでもこうして二人で仲良く暮らしていければそれだけで充分幸せなんだから。」
二人は部屋に戻った。そこへゼフがやってくる。
「本当に仲のいい姉妹でしょう?二人はいつも一緒なんです。」
「彼女たちの父親アルテオは、不慮の事故で5年前に亡くなりました。」
「残された肉親はお互いだけ。リンカが妹に過保護になるのも無理のない話なんですよ。」
「この国には王立アルケミアという国家主導で練金技術の開発を行う特殊な研究施設がありましてね。」
「アルテオは元王立アルケミア所属の錬金術師で、かつての私の同僚であり、親しい友人でした。」
「その縁で姉妹の身元を引き受けたんです。」
「魔法生物の研究が専門だったアルテオは、娘のリンカにその秘技を伝授しました。」
「コポやジョニールはリンカが練金したんです。彼女には素晴らしい才能がある。」
「父親のような良い錬金術師になれるでしょう。」
コポが主人公の足元にやって来て秘密の伝言があるという。
「シャンテからお願い。お茶を飲み終えたら、あとで部屋まで来てちょうだい。」
主人公は2階にあるシャンテの部屋に行った。
「いらっしゃい、主人公さん。来てくれてありがとう。どうしても二人で話したかったの。」
「さっき姉さんが言ってたでしょう?記憶を失って昔の歌い方が思い出せなくても、私はありのままでいいんだって。」
「姉さんはああ言ってくれるけど、私、このまま姉さんの優しさに甘えてちゃいけないと思うのよ。」
「今すぐに記憶を取り戻すのが難しいなら、せめてもっと上手に歌えるようになりたい。それが私の本当の気持ち。」
「それでね、この間、部屋を掃除してたら偶然こんなものをみつけたのよ。」
「戸棚の奥にしまわれてたんだけど、これ、記憶を失う前の私が書いた日記帳みたいなの。」
「読んでみたらね、ある日の日記にこんなことが書かれていたのよ。」
#昨日は少し歌いすぎちゃったみたい。
#ラウラリエの丘で、ラウラのみつを飲んで、かれた声を治さなくちゃ。
「ね、ラウラのみつですって。きっと丘にラウラの花が咲いているのね。」
「私もみつを飲めば元の歌声に戻れるかも。」
「だけど一人で王都の外に行くのは心細いから、主人公さんに手伝ってもらえたらなって思ったの。」
「お願い、主人公さん。私とラウラリエの丘へラウラのみつを集めに行ってくれないかな。」
主人公とシャンテは、ラウラリエの丘へ向かった。
ラウラリエの丘にはラウラの花がたくさん咲いていた。
「主人公さん見て。こんなにきれいな花園、はじめてよ。」
「この花がエテーネ王国領だけに咲くラウラの花なのね。とってもいい香り。」
「たしかにラウラのみつを飲めば上手に歌えるようになるかも。昔の私ったらいい場所を知ってたのね。」
シャンテが花を集めようとした時、突然魔物が現れた。
「出たわね、フローラルダンディ!日記にはこの花園をナワバリにしている魔物が現れるって書いてあったわ。」
「心配しないで。日記の私によれば、子守唄を歌うとすやすや眠って大人しくなるんですって。」
シャンテが子守唄を歌うが、ものすごくオンチだ。
それを聞いたフローラルダンディは襲いかかってきたが、主人公が返り討ちにした。
主人公とシャンテは、手分けしてラウラのみつをビンに集めた。
ラウラのみつを一気に飲むシャンテ。しかし、みつを飲んだ後も歌声は全く変わらない。
「うう、やっぱりラウラのみつを飲んだだけじゃ上手く歌えないみたい。」
「せっかく主人公さんにも協力してもらったのに、私って。」
「でも負けない。姉さんや主人公さんが応援してくれてるんだもの。絶対くじけないわ。」
森の奥が気になるシャンテ。
「あっちからも花の香がするわね。森の奥に別の花園があるのかしら。」
「行ってみましょう、主人公さん。もしかしたらもっと効果のあるラウラのみつが見つかるかもしれないわ。」
森の奥に進むと、そこにはお墓があった。
「見て、主人公さん。あそこに何かあるみたい。」
「こんなところに、誰かのお墓が。」
「真新しい墓石・・ぴかぴかしてるわね。最近亡くなった人なのかしら。」
墓石に書いてある文字を読むシャンテ。
「誰よりも歌を愛し、歌に愛されたエテーネの歌姫、シャンテ、ここに眠る。」
衝撃を受け、後ずさりするシャンテ。
「シャンテ??うそよ、こんなの何かの間違いだわ。同じ名前の他の誰か、そうでしょう?」
「でも、エテーネの歌姫って。このお墓、なんなの。」
「私、姉さんに聞いてみるわ。姉さんなら何か知ってるはずよ。」
「記憶がない私より、ずっとたく沢山のことを。」
ゼフの店に戻るシャンテと主人公。
リンカとゼフが何やら話し込んでいる。
シャンテの姿に気づき、急に怒り出すリンカ。
「シャンテ!お前黙って部屋から抜け出して、今までどこに行ってたんだよ。」
「あれほど家にいろって言ったのに、姉さんの言うことが聞けないのか?お前ってやつは。」
シャンテを抱きしめるリンカ。
「よかった、無事で。ホントによかった。」
ゼフが状況を説明する。
「あなたたちと入れ違いでした。先程、ベルマたち・・指針監督官が突然押しかけて来たんです。」
「彼女は魔法生物を強制処分すると言って問答無用でみんなを連れ去りました。」
リンカも心配そうだ。
「コポやチュラリス、ジョニールもだ。そしたらお前までいなくなってて、あたしがどんなに心配したことか。」
シャンテが慌てて外へ飛び出そうとする。
「こんなのひどい、ひどすぎるわ。すぐにみんなを連れ戻さなくちゃ!」
リンカがシャンテを引き止める。
「行くなシャンテ!あいつらはあたしが必ず助ける。今度こそお前は大人しくしてろ!」
シャンテは言うことを聞かない。
「いや、大人しくなんて出来ない!私だって出来ることがあるはずだわ。」
なおも引き止めるリンカ。
「ダメだ!お前が行ったら・・ベルマに殺されてしまうんだよ!」
時が止まってしまったかのように場が凍りつく。
「姉さん、私、自分のお墓を見つけたの。ラウラリエの丘で。花園の奥、海の側で。」
「自分が書いた日記を見つけたから。歌が上手になりたくて、主人公さんとラウラのみつを探しに行った。」
「あのお墓、なんなの?私が殺されるってどういうこと?姉さんは何か知っているんでしょう?」
言葉を濁すリンカ。
その時、テレンスという町の人が店にやって来た。
「待たせたな、ゼフさん。ベルマ達の行き先がわかったぞ。」
「連中は魔法生物たちをでかいオリに入れた後、南門を出てエテーネ王国領の南東へ向かった。あっちには残響の海蝕洞があるはずだ。」
ゼフが言う。
「なるほど、あそこでは王立アルケミアの失敗作を破棄しているという噂もある。おそらくはそこで・・」
ゼフの話をそこまで聞くと、シャンテはリンカを押しのけて店を飛び出していった。
呆然とするリンカ。
「とにかく今はシャンテを追いかけたい。冒険者のお前だけが頼りなんだ。頼む、一緒に来てくれ。」
リンカと主人公は残響の海蝕洞に向かった。
残響の海蝕洞の奥に進むと、魔法生物たちがオリに入れられ、ちょうど処分されるところだった。
怯える魔法生物たち。
ベルマがため息をつく。
「よくしゃべる虫けらどもだ。1匹ずつ引きずり出してバラバラに解体してやろうか。」
ベルマが合図をすると、赤い体の異形獣が現れた。
「我がエテーネ王国の基盤は時の指針書にある。エテーネの繁栄は国民が指針書を遵守することでしか得られない。」
「時の指針書こそがこの世の正義だ。時の指針書こそが福音をもたらすのだ!」
シャンテがやって来た。
「そんなことないわ!」
「おやおや、ゼフの店の歌姫か。」
シャンテがベルマに言う。
「時の指針書がないと幸せになれないなんてウソよ!私は指針書を持ってないけど、姉さんやみんなと幸せに暮らしていたもの。」
ベルマが訝しむ。
「時の指針書を持っていないだと?もしやお前は・・」
指針監督官たちがシャンテを取り押さえる。
異形獣に合図を送り、シャンテから精神エネルギーを吸収しようとするが出来なかった。
「精神エネルギーが吸収出来ないだと?」
「ははは、なるほどな。時の指針書を持っていないのも当たり前だ。お前はエテーネ王国の人間ではない。」
「ただの魔法生物なのだから。」
「信じられぬというのなら、動かぬ証拠を突きつけてやろう。」
ベルマがシャンテの首元をつかむ。
シャンテの首元には大きなレースのチョーカーが付いている。
「やめて、触らないで!そこには大きな傷跡があるから絶対に見ては駄目だって姉さんが!」
「自分の目で確かめたことがあるのか?ないだろう?そういう風にしつけられていたのだよ。お前のご主人様にな。」
そう言うとベルマはチョーカーを剥ぎ取った。
シャンテの首元には、魔法生物が持つ赤い宝石が埋め込まれていた。
首元を触り、ショックを受け呆然とするシャンテ。
「え???」
指針監督官たちはシャンテを魔法生物たちが入っているオリの中に投げ込んだ。
「私が魔法生物?」
「私が行けばベルマに殺される。それは魔法生物だから。昔の記憶がないのもそうだったのね。」
「姉さんはすべて知っていた。知ってて私に黙ってたんだわ。」
涙を流すシャンテ。
リンカと主人公が駆けつける。
ベルマは笑っている。
「わからないな、そこまで執着する理由が。錬金術師にとって、魔法生物とは便利に使役する道具に過ぎないはずだが?」
リンカが反論する。
「道具じゃない。あたしの大切な家族だ!」
「なるほどな。家族だからこそ形すら人間に近づけてみたというわけだな?」
オリに入ったシャンテのを見るリンカ。
首元に埋め込まれている赤い宝石が剥き出しになっていることに気づく。
ベルマが追い打ちをかける。
「そんなものは錬金術師のエゴに過ぎない。こいつは家族なんかではなく、ただの悪趣味な奴隷人形ではないか。」
リンカは力強く宣言する。
「その子は、シャンテは、あたしの大切な妹だ!!」
ベルマが異形獣を操り、リンカを襲おうとする。
それを見たシャンテが勇気を振り絞る。
「姉さんを助けなきゃ。ラウラリエの花園でやったみたいに、私の歌で引き付ければ!」
シャンテが力強く歌うと、異形獣が苦しみだし、混乱した。
異形獣が指針監督官たちを吹っ飛ばし、シャンテたちが入っていたオリの扉も吹っ飛ばした。
オリから脱出するシャンテたち。
そこにベルマが立ちふさがる。
「なるほど、時の指針書に書かれていた危険な魔法生物とは貴様のことか。ようやく出会えたぞ。消えてもらう!」
ベルマが剣を振りかざそうとした時、異形獣に吹っ飛ばされ、気を失った。
異形獣が主人公にも襲い掛かってきたので、返り討ちにする。
喜ぶリンカとシャンテ。
ジョニールも喜んでいる。
「シャンテの歌が化け物をコントロール不能にしたんです。よ!さすがはエテーネ歌姫!」
浮かない表情のシャンテ。
「でも、私、歌姫なんかじゃない。」
ベルマが意識を取り戻した。
「指針監督官はエテーネ軍の特務機関だ。我々に刃向かうということは、すなわち国家への反逆である。」
「エテーネ王国の名に泥を塗った罪は重い!お前たちは一人残らず牢獄行きだ。全員まとめて処刑してやる。」
「貴様もだ!こざかしい冒険者め。反逆者として処罰を受けるがいい!」
どこからか声が聞こえる。
「さて、処罰を受けるのはどちらだろうな。」
ベルマが声がする方を見ると、そこにはエテーネ王国軍とその指揮官クオードがいた。
王国軍兵士に捕らえられるベルマたち。
リンカが尋ねる。
「あなたは?」
「エテーネ王国軍、軍団長クオード。」
リンカが驚く。
「なに?軍団長だって?それならあいつらの仲間じゃないか。」
クオードが首を横に振る。
「軍団長の権限において、現時点をもって指針監督官ベルマとその部下たちの身柄を拘束する。」
「一介の軍人でありながら、おのが職分を越え国民を脅迫した罪、その上、得体の知れない怪物を使役して国民に危害を加えた罪。」
「軍法にのっとり、この者を追って処罰する。それ相応の刑が待つと心得るがいい。」
ベルマが連行される。
「そんなバカな。指針書に従った私が何故罰せられるのだ?こんなデタラメは指針書のどこにも書かれていなかった。」
「くそ、何もかも貴様のせいだ。指針書通りに事が運ばなかったのは、すべて薄汚いよそ者が介入したせいだ!」
クオードが諭す。
「哀れだな、指針監督官ベルマ。優先すべきは指針書に従うことより、民の幸せを守ることだとなぜわからん。」
ベルマたちは連行されていった。
頭を下げるクオード。
「俺の管理不行き届きであの者たちが迷惑をかけてしまったな。すまない。」
「奴らの横暴にはずっと頭を悩ませていた。処罰するタイミングを計っていたのだが、まさかこれほどの暴挙に出るとは。」
「しかも王国を騒がせている怪物を操るようなマネさえしてみせるとは、一体どういうことなんだ?」
「シャンテといったか。お前の歌声には異形獣を惑わせる特殊なチカラがあるようだ。その能力は軍にとっても非常に重要だ。」
「俺の責任において、お前とお前の家族を保護し、身の安全を保障すると約束しよう。安心するがいい。」
喜ぶシャンテたち。
「ありがとうございます!」
クオードが主人公に気づく。
「主人公だと?報告書を届けに来た主人公とは、あの時のお前のことだったのか。ありがちな名前で気づかなかったぞ。」
「お前にはいろいろと聞きたいことがある。落ち着いたら軍司令部まで来い。正門の通行許可は出しておく。」
クオードは引き上げていった。
主人公たちもゼフの店に戻った。
みんながカウンターの前に集まる。
シャンテが日記を持って話し始めた。
「この日記は記憶をなくす前に自分で書いたものだと信じていたわ。でもそうじゃないのよね。」
「私は魔法生物だからもともと記憶すべき過去そのものがなかった。」
「日記を書いたシャンテは誰なの?私はどうしてここにいるの?」
ゼフが言う。
「私が話しましょう。姉妹を引き取った保護者である私には、きちんと説明する義務があります。」
「これから話すのはあなたではない、リンカの本物の妹だった、人間のシャンテのことです。」
「両親と死に別れた幼い姉妹を引き取り、私は王都の片隅にこの店を開きました。」
「実の両親が恋しかったでしょうに、二人は寂しそうな素振りも見せず、強く真っ直ぐに育ってくれました。」
「リンカは父のような錬金術師を目指して、日夜修行に励み、魔法生物の研究をしました。」
「一方、妹のシャンテは天性の才を活かし、歌手としてその美しい歌声で王都の人々の心を癒やしていました。」
「王都の歌姫のウワサは隣国まで届き、リンジャハルの大劇場から招かれたシャンテは、初めて国外公演に臨みました。」
「シャンテがリンジャハルへと旅立った朝、あの時の嬉しそうな姉妹の姿を私は今でも忘れられません。」
「悲劇はその後に起きたのです。のちにリンジャハルの大災害と呼ばれた忌まわしい出来事。」
「突然現れた魔物の群れが都市を破壊し、人々をむごたらしく皆殺しにしました。」
「そう、劇場で歌っていたシャンテも例外なく巻き込まれ、命を失ったのです。」
「妹を失ったリンカの絶望は計り知れないものでした。」
「悲しみに泣き暮らし、世をはかなみ、ついには命さえ絶とうとしました。」
「ですがある日を境に、彼女は変わりました。自分の部屋にこもりがちになり、とある錬金術の研究を始めたのです。」
リンカが言う。
「日記だ。あの子の遺体をラウラリエの丘に葬ってしばらくしたある日、あの子の部屋に入ったら日記を見つけたんだ。」
「日記の最後のページにはあたしへのお礼が書かれていた。」
#歌手として自信がなかった私を励まして、勇気づけてくれたのは、姉さん、いつだってあなただった。
#たとえ命尽き果てるその日が来ても、私は姉さんのために歌い続けるわ。ずっと、ずっとよ。
「あたしももう一度あの子に歌ってほしい。心から強く願った。そして、決めた。」
「魔法生物を錬金しよう。シャンテそっくりの人型魔法生物を。」
「死んだ親父は魔法生物研究の第一人者だった。あたしは親父から研究途中だった人形魔法生物の秘術を譲り受けていたんだ。」
「親父さえ成し遂げられなかった人型魔法生物の練金。成功確率は低いけど、やるだけの価値はあると思ったのさ。」
「そんなあたしの望みを見透かしたように、時の指針書には魔法生物を作ってはならないと書かれていた。」
「それでもあたしはやった。シャンテにもう一度、どうしても会いたくて、思いを込めて、人型魔法生物を錬金した。」
「そしたら奇跡が起きたんだ。生まれたんだよ、見た目もそっくりで歌が大好きなシャンテが。」
「ああ、あたしの思いが通じたんだ、妹が蘇ってあたしのもとに帰ってきてくれたんだと本気で思った。」
「その後はお前も知っての通りさ。記憶がないのは怪我の後遺症だって嘘ついて、昔のシャンテの事を教え込んだ。」
「性格や口調、食べ物の好み、好きだった歌のこと、人間関係まで。お前はすべてを素直に信じてくれた。」
「だけどひとつだけ、本物のシャンテになりきれないところがあったんだよ。」
リンカが笑う。
「お前は歌が下手だった。」
「それでもお前はあたしのために歌が上手だった元の自分に戻ろうとして、必死にひたむきに努力し続けてくれた。」
「戻るべき自分なんてはじめからないのに。お前はこれっぽっちも疑わずにあたしを心から信じてくれたんだ。」
「何度も真実を打ち明けようと思った。でも、どうしてもできなかったんだよ。」
「お前に真実を告げたら、この暮らしが全部壊れちゃうんじゃないかと思って。怖かった。本当に怖かったんだ。」
「もう二度と、妹を失いたくないから。」
「ごめんな、シャンテ。今まで本当に、ごめん。」
泣いているリンカの手を優しく握るシャンテ。
「ええ、私辛かった。なんでも言い合える姉妹だと思ってたのに、隠し事されてたなんて、ショックだったわ。」
「だからこそ、これからはお互いになんでも言い合える、そんな姉妹になりましょう。」
「私は確かに本物のシャンテじゃなくて、姉さんに作られた魔法生物かもしれない。」
「でも私にとっての姉さんは、他の誰でもない、あなただけよ。」
「私はまぎれもない私自身の意思で、あなたのために歌いたいと思ってる。真実を知った今でも、心からそう思ってるわ。」
「姉さんのために歌い続けたい。ずっと、ずっとよ。」
「これまでも、これからも、私たちは姉妹よ。私はあなたの側にいる。姉さんのために歌う、歌姫になるわ。」
「それとも、歌が下手な妹じゃ駄目?」
ニッコにと微笑むシャンテと泣き崩れるリンカ。
二人はしっかりと抱きしめあった。
落ち着きを取り戻したシャンテが主人公に言う。
「主人公さん、あなたと出会わなければ一体どうなっていたかしら。」
「ベルマからみんなを救ってくれて、こうして姉さんとも分かり合えたのはすべてあなたのおかげよ。」
リンカも落ち着きを取り戻したようだ。
「もっとゆっくりしていってほしいけど、あの軍団長から呼び出されているんだよな?軍司令部まで来いって言ってたっけ。」
主人公は軍司令部のクオードの所へ向かった。
「やっと来たか、主人公。待ちくたびれたぞ。」
「それにしても貴様ときたら、またもや思いがけない場所に現れて、まるでボウフラのような奴だな。」
「初めて貴様に会ったときも、どうやって使用人たちの目をくぐり抜け、我が屋敷に潜り込んだのかと考えを巡らせたものだ。」
「いいか?俺はクオード。現エテーネ国王であるドミネウスの息子であり、王国軍を指揮する軍団長でもある。」
「貴様が屋敷で狼藉を働いたすぐ後に、第一王子であった父が王位を継いでな。それで屋敷を引き払い王宮へ越したのだ。」
「おかげで家の者が屋敷の墜落に巻き込まれなかったのは幸いだった。」
「そう、貴様を呼んだのはその件だ。貴様は辺境の様子を見てきたのだろう?現場の状況についてもっと詳しく話を聞かせてくれ。」
主人公はバントリユ地方で体験したことをクオードに話した。
「屋敷の惨状はそれほどであったか。」
「それに報告書にもあった異形獣。指針監督官がそれと同種の生物を操っていたことも見過ごせないな。」
「よしわかった。この件についてはさらに調査を進めよう。もう下がってよいぞ。」
主人公はメレアーデから預かった記憶の赤結晶のことをクオードに話した。
「なんだと?貴様が屋敷を出ていく時、俺に渡すようにとメレアーデ姉さんから記憶の赤結晶を預かっただって?」
「おかしいな。姉さんはそんなこと一言も言っていなかったのに。」
「とにかく早くそれをよこせ!」
主人公はクオードに記憶の赤結晶を奪い取られてしまった。
「もう用は済んだな。ご苦労であった。今度こそ下がってよいぞ。」
主人公は、クオードと一緒に見るようにメレアーデから言われていることを伝える。
「はあ?姉さんからは俺と一緒に記憶の赤結晶を見るように言われているだと?」
「仕方あるまい。だがそこで大人しくしていろよ。」
クオードが記憶の赤結晶を発動させると、メレアーデの姿が投影された。
投影されたメレアーデは、ドレスではなく、旅人のような服を着ている。
「クオード、主人公、私の声が届いていますか?」
「これからあなた達二人に大事な使命を託します。私が言うことをどうか心にとめてください。」
「おそらく今、王都キィンベルでは王宮へ至る道が閉ざされていることでしょう。」
「今からあなた達は共に行動し、協力して王宮を目指すのです。」
「それは苦難をともなう道となるでしょうが、あなた達二人なら必ずや成し遂げることが出来ると信じています。」
「クオード、あなたが胸の内に秘めた疑いは正しい。自分を信じ、突き進みなさい。」
「それから主人公。王宮で私と再会できたらどうか願いを聞いてほしい。」
「頼みましたよ、二人とも。願わくばあなた達の選ぶ道が正しき未来へと至らんことを。」
メレアーデの姿が消えた。
「どういうことだ?まさか姉さんは王宮への道が閉ざされているということを予見でもしていたのか?」
「いや、他でもない姉さんが言うんだ。信じるしかあるまい。」
「だが今王宮へ向かえとは簡単に言ってくれる。」
「主人公、今の話を聞いていただろう?至急軍が管理する転送の門まで来い。王宮へ至る道はそこにしかない。」
転送の門の前で、クオードと従者が何やら揉めている。
「ダメですよ、クオード様。この状況で転送の門を使うだなんて、無茶すぎます。」
従者の名前はディアンジというようだ。クオードが怒る。
「黙れディアンジ!これは俺が決めたことだ。異論は認めん。」
ディアンジが肩を落とす。
「そうおっしゃられましても。今王都からあなたがいなくなったら。」
クオードが主人公の姿に気づく。
「ん?ああ、主人公。来たのか。それじゃあ早速出発しよう。」
「これこそが我が軍が管理する転送の門。中に入った人間を各所に点在する別の門まで転移させる事ができるんだ。」
「この門からはエテーネ王宮にも転移が可能。許可ある者しか使用は認められていないが、主人公の同行は俺が許可する。」
「さあ、行くぞ。」
ディアンジがなおも止める。
「ちょっと待って下さい!あなた、どこのどなたか存じませんが、正気ですか?」
「現在この門は使用禁止になっているんです。この門を使った人たちがどうなっているか、あなただって知っているでしょう?」
「いいですか、今この門を使った人たちは全員が行方知れずとなっていて、一切消息がつかめなくなっているんです。」
「これは前代未聞の失踪事件じゃないかって軍部ではウワサになっているんですよ。」
「とにかく、こんな状況で転送の門を使おうだなんて正気の沙汰とは思えません。」
クオードが言う。
「そんなことわかっている、ディアンジ。だがこうしていても状況は何一つ変わらないじゃないか。」
「俺が調査を命じてからはや数日、これといった成果は得られず、このままではいたずらに時を過ごすばかり。」
「転移自体は作用しているようだし、門を使った人間は転移先で何かしらの事件に巻き込まれていることも考えられる。」
「ここで手をこまねいているだけでは何もわからぬ。だから俺は自身の目で原因を確かめるためにも転移を試みるぞ。」
「それに、俺には何としてでもエテーネ王宮へと向かわねばならん理由があるのだ!」
その時、ディアンジが持つ小さなハープのようなものが音を奏でた。
「うわわ、ザグルフです!これはきっとザグルフからの連絡ですよ。」
「どういうことだ?ザグルフには俺から指示があるまで自宅にて待機と命じていたはずだが?」
ディアンジが困った顔をする。
「それがあいつ、時の指針書も無視して、クオード様に内緒でこっそり転送の門を使おうとしたんです。」
「止めたのですがあいつときたら強情で。それでなんとか連絡はつくようにと伝声の琴を持たせて送り出したんですよ。」
その時突然、伝声の琴が光りだし、ザグルフの声が聞こえる。
「ディアンジ・・聞こえているか?・・」
「星華の・・・星華のライトが・・・あれば・・」
「クオード様・・・星華のライト・・・アイツの・・・正体を暴き・・ここから脱出出来る・・」
ここで通信が途切れた。
ディアンジが言う。
「ですが星華のライトなんかが必要だなんて、一体どういうことなんでしょう。さっぱり意味が分かりませよ。」
「ふん、まあいい。詳しい状況はわからないが、とにかくザグルフは生きていたんだからな。」
「それにヤツが発した言葉。星華のライトがあればここから脱出出来る。そう言ったように聞こえた。」
「俺はザグルフのもとへ星華のライトを届けるために転送の門を使う。もう文句はないな、ディアンジ。」
「あのライトは今どうなっている?例によって壊れてしまったのか?」
ディアンジが答える。
「はい、そうなんですよ。持っていくのであればまた練金から始めなければなりません。」
「よし!ではすぐにライトの作成に取り掛かってくれ。完成次第出発とする。」
「俺は一旦軍団長室に戻っているからな。出来るだけ早く頼むぞ。」
ディアンジの家で話を聞く主人公。
ディアンジは主人公にお茶を出してくれるが、途中でつまずいてこぼしてしまう。
「私はディアンジといいます。クオード様の個人的な臣下でして、これでも一応錬金術師をやっております。」
「あなたは主人公さんですね。覚えましたよ。」
「先程連絡のあったザグルフは、私と同じくクオード様の臣下でして。いえ、錬金術師ではないのですが。」
「いわゆる密偵というんでしょうか。探索や情報収集といった仕事に才能を発揮するタイプでして。」
「そんな役どころのせいか、あいつは自分のチカラが役立つかもと危険を承知の上、独断で転送の門を使ってしまったのです。」
「これまで行方知れずとなった者は生死すら不明でしたから、ザグルフが生きていることには心底ほっとしたのですが。」
「ザグルフが口にした星華のライト。あれ、過去に私が研究し錬金したものの、まだ実用化できていない試作品なんですよ。」
「星華のライトは特殊な練金素材を使った照明器具なんです。まるで満点の星空のように周囲を照らす、はずだったのですが。」
「実際に錬金したライトはやたらに眩しすぎたり壊れやすかったりと、明るさと耐久性がどうにも不安定でしてね。」
「ずっと研究を続けてはいるのですが、未だに実用化の目途はたっていないのですよ。」
「ザグルフが何故今になってあんな試作品を欲しがるのか訳が分かりませんが、必要だと言うなら錬金するしかありません。」
「そこで主人公さんにお願いですよ。王都の北東門を越えた先、ティプローネ高地に星落ちる谷という場所があるんです。」
「そこへライトの素材を取りに行きたいのですが、この谷には凶悪な魔物がおりましてね。ぜひあなたにご同行お願いしたいのです。」
「私、戦いの心得はないので戦闘能力は皆無。それに見ての通りのどんくささ。道中一人では心もとないのですよ。」
「どういった事情かは知りませんが、あなたもクオード様と一緒に転送の門を使い王宮を目指しているんでしょう?」
「あなたにも悪い話ではないはずですよ。どうですか、主人公さん。私に同行して頂けませんか?」
主人公はディアンジと共に星落ちる谷へ向かう。
星落ちる谷にいた凶悪な魔物を倒し、練金素材である星の彩晶石を手に入れた。
家に戻り、星華のライトの練金を始めるディアンジ。
「私はさして才能もない無力な錬金術師です。こんな私があの方のために出来ることがあるならどんなことでもして差し上げたい。」
「それがあの方を危険な場所に送り出すことであっても。」
「あの人はなんというか、行くと決めたらとことん行ってしまう人なんですよ。自分の信じたものに真っ直ぐなんです。」
「こっちの心配なんてこれっぽっちも気づいてないと思いますがね。ははは。」
「私これでも以前は王立アルケミアで働く錬金術師だったのです。クオード様とはそこで初めて会いました。」
「王立アルケミアでは毎年、国王や有力者の前で研究の性格の成果を発表する機会があるんですよ。当時の私も参加することになったのですが・・・」
「当時からいつも失敗ばかりだった私は、案の定発表会でも失敗してしまいましてね。有力者の怒りを買ったのですよ。」
「その後もアルケミアに戻って一人練金を続けても、ライトの生成が思うようにいくことはありませんでした。」
「そんな私でしたからね、重要な席での失敗によりアルケミアを追われるのに時間はかかりませんでした。」
「そしてついに、アルケミアからクビを言い渡され途方に暮れていたその時、私の目の前にクオード様が現れたのです。」
「行くあてがないなら俺のもとに来い、そして必ずや貴様の信じる練金を成功させろと言って、クオード様はその場で私を自身の個人的な臣下として迎え入れてくださったのです。」
「その時は嬉しさの反面、なんて物好きな人と思ったものですが、後からこんな話を聞いたのです。」
「実はクオード様自身、王族という身であらせられながら時渡りのチカラが弱く、幼少期に苦労されたんだとか。」
「今こそ武功を重ね、軍団長という地位にまでのぼり詰めましたが、子供の頃に受けたお父上からの風当たりは強かったようです。」
「クオード様は誰よりも努力し、自らの手で成功への道を切り開いたお方。」
「だからこそ最初から出来ないと決めつけることがお嫌いだったのでしょう。」
「クオード様はこんなしがない錬金術師の私にまで可能性を見出し、信じてくださったのです。」
「星華のライトの改良は続けておりますよ。未だ壊れやすくて完成品には程遠いのですがね。」
転送の門へ向かうと、ディアンジが完成した星華のライトを持って、クオードと一緒にやって来た。
「うむ、一応は完成したようだな。ご苦労であった。」
ディアンジが伝声の琴をクオードに差し出す。
「それからこれもお持ちください。ザグルフに持たせたものと同じ伝声の琴になります。」
「転移した先で何があるかわかりませんから。いつでも連絡してきてくださいね。」
主人公とクオードは転送の門の中に入った。
すると警報が鳴り響き、急激に視界が暗くなっていく。そして主人公は気を失ってしまった。
主人公が目を覚ますと、目の前にドレス姿のメレアーデがいた。
「よかった、気がついたようね。あなた、屋敷の外で倒れていたのよ。」
「あなたは確か、クオードの幼友達で大親友の主人公さんだったわよね。心配しないで、クオードも一緒よ。ほら。」
隣を見ると、クオードがベッドに座っていた。頭痛がするようで頭をおさえている。
「どういうことだ?ここは墜落したはずのドミネウス邸。」
メレアーデが笑う。
「ふふ、何を言っているのクオードったら。うちが墜落?そんなことあるはずないじゃない。」
メレアーデの姿に初めて気づくクオード。
「姉さん?メレアーデ姉さんがどうしてここに?」
「どうしてって言われても、ここは私のお屋敷なんだし。もう、なに?さっきから。変なクオードね。それにあなた。主人公さんに迷惑かけちゃダメよ。」
「剣の修業に熱心なのは良いことだけど、倒れるまで主人公さんを付き合わせるなんて。そんな無茶ばかりしていると、いくら親友だからって主人公さんに愛想つかされちゃうわよ。」
笑い出すクオード。
「何を言うかと思えば親友だって?俺とコイツが?それだけはエテーネ王国が3回滅んでもありえない。」
「またクオードったらそんなこと言って。主人公さんとは幼い頃から一緒に剣の修業をする仲じゃないの。」
困惑するクオード。
「俺は夢でも見ているのか?王都の転送の門を使ったら墜落した屋敷に?しかも主人公が俺の親友だって?一体何がどうしたっていうんだ。」
その時、召使いが部屋の中に入ってきた。
「メレアーデ様、お待たせしました。お飲み物を持ってきましたよ〜。」
なんと召使いは、メイド姿のザグルフだった。
「ザグルフ、貴様、ふざけているのか!貴様は偵察に出たのではなかったのか?そんな格好で何をしている!」
ザグルフがくねくねしながら答える。
「偵察?何のことかわからないです〜。私はクオード様が幼少の頃より仕えているメイドのザグルフちゃんで〜す。」
「どいつもこいつもいいかげんにしろ!これ以上茶番に付き合う気はない。俺は屋敷の様子を確認してくる。」
クオードが部屋を出ていったので主人公も後を追う。
転送の門の前にクオードがいた。
「くそ、なんで開かないんだ。」
「俺は屋敷で目覚めたことに気づいた時、ついに俺の中のチカラが覚醒して、時間を移動したのかと思ったんだ。」
「だが違う。これは断じて時渡りなどではない。」
「先程邸内の様子も見てきたが、屋敷の人間の中には王都で転送の門を使い行方知れずとなった者が何人も紛れていた。」
「王宮にいるはずの姉さんがいたことから考えて、それ以外の連中も王宮側から門を使い、ここに迷い込んだ者なのだろう。つまり転送の門を使った者は、なぜか皆この屋敷の人間だと思い込んだまま、ここで時を過ごしているということ。」
「一体何故そのようなことが起きているのか、皆目見当もつかないが。今はこの異変を解明するしかないようだ。」
「見ろ、ここの転送の門は開きもしない。俺も貴様もこのままじゃ屋敷から出られないということさ。」
「さて、どうしたものかな。頼みの綱であるザグルフもあの様子では全くアテになりそうもないし。」
「そうだ、星華のライトだよ、あれをザグルフに見せれば何か思い出すかもしれない。」
持ち物が全てなくなっていることに気づくクオード。
「ない、俺の荷物がなくなっている。ライトも伝声の琴も全部だ。」
「おそらくさっき気を失っている間に。くそ、なんだかずっと後手に回ってしまっているようだな。」
手分けして荷物を探す主人公とクオード。
主人公は隠し部屋にクオードの荷物を発見した。
伝声の琴が光っていたので手を触れてみる。
「クオード様ですね?やっとつながりましたよ。私です、ディアンジです。」
「クオード様が連絡をくださらないから・・そちらの様子が気になって私の方から連絡をしたのですよ。」
その時、クオードがやって来た。
「おお、よくこの場所を見つけたな。ここは隠し部屋になっているんだ。声が聞こえたから来てみたんだが。」
「ん?それは伝声の琴じゃないか。ちょっと貸してみろ。」
伝声の琴をクオードに渡す。
「俺は怪我もなく無事だ。こっちのことは何も心配いらない。だからもう連絡は不要だ。今後二度とこちらから連絡することはないと思う。じゃあな。」
クオードは伝声の琴を壊してしまった。
「さてと、もうこんな狭い所に用はないはずだろ?またあとでいつものように剣の修業もしような、主人公くん。それじゃ。」
クオードは何処かへ行ってしまった。
主人公はクオードの荷物から星華のライトを取り出し、クオードの後を追った。
クオードは大広間でメレアーデとチェスを楽しんでいた。側にメイド姿のザグルフもいる。
主人公はメレアーデに星華のライトをあてる。
メレアーデに影が出来ないことに気づく主人公たち。
笑い出すメレアーデ。
「まさかそんな粗末なライトでバレてしまうとは。」
メレアーデは魔物に姿を変えた。
「だけど私の正体がバレても問題はない。あなた達は全員、この場所で永遠の時をさまようだけ。」
魔物は何処かへ姿を消してしまった。
正気を取り戻すクオードとザグルフ。
「ザグルフ、どうやら正気に戻ったようだな。転送の門の異変を調べるために貴様を追ってきたというわけだ。そしてまさに今、真相の尻尾をつかんだ。」
「先程の魔物がこの屋敷で起きている異変の元凶に間違いないだろう。とにかくヤツの足取りを追うのが先だ。」
「俺は廊下のほうを探してこよう。主人公はこの辺りを探してくれ。」
ザグルフに話を聞くと、この部屋の中に違和感がある場所があるという。主人公はそこにある絵画を調べてみた。
屋敷には似合わない不思議な印象の絵画だった。
ずっと見ているとだんだん吸い込まれそうな気持ちになって、気がつくと本当に絵画の中に吸い込まれてしまった。
主人公の後をクオードが追ってきた。
「ザグルフから貴様が絵画の中に吸い込まれてしまったと聞いたんだ。だから俺も急いで追いかけてきた。」
「ここは一体なんだ?どうして絵画の中にこんな世界が広がっている?」
「いや、そもそも屋敷そのものがあの魔物によって作り出されたもの。そういう相手だと考えるのが自然か。」
「それにしても、まさかザグルフが俺以外のヤツとまともに喋れるとはな。ちょっと驚いた。」
「危なっかしい喋り方だっただろう?それでも主人公はザグルフの意図を理解し、ここにたどり着いたというわけか。」
「なるほどな。ザグルフのやつは、なんというか少々人見知りでな。他者と言葉を交わすのが極端に苦手なのだ。」
「もとは軍の密偵部隊にいたのだが、あの性格のせいで持て余されていたのを俺が個人的な部下として引き取った。」
「難があるという意味ではディアンジも同じか。あいつはそそっかしくてすぐにドジをふむからな。」
「主人公、貴様、あいつらが俺の臣下であることを奇妙に思ってるんじゃないのか?」
「ふん、いいさ。皆陰で噂しているのは知っている。しかしそんなことはどうでもいい。」
「一見なんの取り柄もないただのでくのぼう。だがそんなあいつらにも他の者にはない特別な才がある。」
「ザグルフは目端が利く。何事にも注意深くどんな違和感も逃さない。それは貴様も目の当たりにしただろう?」
「ディアンジは錬金術の腕こそ平凡だが、やると決めたら最後まであきらめない強き心を持っている。」
「あいつらは上っ面に見えるものだけで他人からダメなやつと決めつけられたが、決してそんなことはない。」
「そう信じてやるヤツがひとりくらいいたっていいだろう?」
「ふん、無駄話が過ぎたな。なぜ俺は貴様にこんな話を。」
「先を急ごう。さっきの魔物は必ずやこの道をたどった先にいるはずだ。とっととかたをつけるぞ、主人公。」
一番奥の部屋に逃げた魔物がいた。
「ここまで追ってくるとは思わなかったわ。ほころびを生じさせたのは、そう、主人公。」
「私は形あって実体なきもの。光と影の織りなす境界の刹那。刹那はすべてを取り込みやがて永遠となる。」
「私はあなたとともに穏やかな時を過ごしていたいだけ。ここに残るというなら命を奪ったりしない。あなただって私と一緒にいることで安らぎを感じていたでしょう?」
クオードが否定する。
「見くびるな!そんな表面だけ取り繕った見かけの安らぎに何の価値がある?」
「自分の道なら自分で決めるさ。今までだってそうしてきた。それはこれからも。」
「俺の行く道を阻むと言うのなら、全力で貴様という障害を取り除くだけだ!」
主人公とクオードは協力して魔物を倒した。
魔物は消滅し、クオードが剣をおさめる。
「俺はこんなところで足踏みしているわけにはいかないんだ。」
「やるじゃないか、主人公。俺も剣術にはそれなりに自信があったが、貴様の強さは実践で磨かれたものだな。」
「メレアーデ姉さんが貴様と一緒に行動しろって言ったこと、今ならその言葉の意味がわかる気がする。」
「姉さんはきっと主人公の中にある強き心、幻にも惑わされぬ屈強な意志を見抜いていたのだな。」
その時突然屋敷が崩壊し、まばゆい光に包まれる。
気がつくと、屋敷に囚われていた人々全員が転送の門の中に集まっていた。
「見ろ!ここは軍が管理する転送の門だ!オレたち助かったんだ!」
転送の門の外に駆け出す人々。
クオードが言う。
「そうか、あの魔物を倒したことであそこから戻ってくることが出来たのか。」
「おそらくこれで転送の門も正常に使用出来るようになるのだろう。俺たちで成し遂げたのだな。」
「だがあの屋敷はなんだったのか。メレアーデ姉さんに化けていた魔物は何を目的にしていたのか。」
その時、傍らに落ちていた道具に気がつくクオード。
「なんだ、これは。光を映し出す道具のようだが。」
「これは!エテーネ王国の紋章!?」
「まさかこの道具のせいで転送の門が?もしそうだとすると、これは・・・。いや、憶測だけで語るのはやめよう。」
「ザグルフ、その道具を回収しておいてくれ。こちらで少し調べてみろ。」
「俺たちも戻るぞ。いつまでもこうしているわけにもいかん。」
「主人公、ここを出たらひとまず軍団長室まで来てほしい。こたびの件の礼もせねばならんからな。」
主人公は転送の門を出て軍団長室に向かった。
「来たか、主人公。さあ、こちらへ。」
ディアンジも来ていた。
「ああ、主人公さんも無事でよかったですよ。私、皆さんが帰ってきたと聞いて飛んできたんです。」
「いやあ、伝声の琴がつながらなくなった時はどうなることかと思いましたが、連絡のつかなくなっていた者全員を連れて戻ってきてくださるとは、いやはや、さすがは我らのクオード様ですよ。」
クオードが首を振る。
「いや、今回のことはとても俺一人だけのチカラでは解決出来なかった。」
「ディアンジ、貴様の研究の成果、星華のライトがついに役立ったのだ。まさかあんなに影を目立たせるとはな。」
「ザグルフは敵の欠陥とこのライトの真価に気づいていたからこそ、最初の通信でライトさえあればと連絡して来たのだな?」
ザグルフがしどろもどろ答える。
「は、はい。い、以前ディアンジの研究、ラ、ライトで映し出したものを見た時、影が目立つのにき、気づいて。」
ディアンジが喜ぶ。
「今まで研究を続けてきたものがこんな形でクオード様の役に立ったなんて、びっくり仰天。ハッピーさんですよ。」
「貴様の研究の粘り勝ちといったところか。ひいてはよき仲間を持ったことに感謝するんだな。」
「それは俺もか。」
「ディアンジ、出立の時は不安も多くあっただろう。俺を信じ、送り出してくれたこと、感謝する。」
「ザグルフ、単身で敵陣に乗り込み、的確な情報をもたらしてくれたな。勇気を持って行動してくれたこと、感謝する。」
「そして主人公。ザグルフにも負けず劣らない観察力に、幻にも飲み込まれることのない屈強な意志。」
「何よりその真の強さが皆を救ってくれた。最後まで共に戦ってくれたこと、心から感謝するぞ。」
「これからもよろしく頼むぞ、ふたりとも。それから主人公もだ。」
「さて、転送の門だが、俺たちが帰ってきてからはもう問題なく使用できるのだな?」
ディアンジが答える。
「はい、それはもう。軍の皆さんで確認したようで、王宮までバッチリ行って帰れたようです。」
「よし、俺は少し王都を離れるが、ディアンジとザグルフの二人は連絡があるまでこちらで待機していてくれ。」
「主人公、ようやく王宮への道が開いた。これから俺たちはメレアーデ姉さんの言葉に従ってエテーネ王宮へと向かうぞ。」
「準備が出来たら転送の門まで来い。俺は先に行って待っているからな。」
「ああ、ひとつ伝え忘れていた。転送の門で見つけた道具、幻灯機と名付けたが、ディアンジに調べるよう命じてある。覚えておいてくれ。」
主人公とクオードは転送の門からエテーネ王宮へ向かった。
エテーネ王宮は浮遊島にあり、空に浮かんでいる。
エテーネ王宮の中へ入る。
「俺たちが今立っている場所は王都の上空に浮かんでいる王宮の中だ。」
「俺はこれから父に、ドミネウス陛下に転送の門復旧の件について報告しなければならない。その際、チカラを貸してくれたお前にもぜひ同行してもらいたいんだ。」
「事実、まやかしのドミネウス邸から脱出できたのはお前のおかげだしな。」
クオードと共に王座の間に向かう。
「ドミネウス陛下、軍団長クオード、只今帰還しました。」
ドミネウス王が答える。
「うむ、おもてを上げよ。」
「転送の門が不調をきたしているのは余も承知している。お前が王座に参じたということは、門の復旧がかなったのだな?」
「は、その通りでございます。」
「私が参上いたしましたのは、転送の門の件でぜひとも陛下にご報告したいことがあるからです。」
「それは転送の門の不調の原因です。」
王の側近が話に割って入る。
「原因ですか。私が思うに、この度の事故は門の老朽化が招いたことであるかと。」
クオードが側近を睨みつける。
「不調の原因は老朽化ではなく、門の内部に仕掛けられた怪しげな魔道具のせいだったのです。」
「その魔道具、仮に幻灯機とでも呼びましょう。その幻灯機のチカラが転送の門を通過する者に作用し、怪しげな空間に連れ去っていたのです。」
「そのせいで私と、ここにいる主人公も一時怪しげな空間に囚われてしまったのですが、主人公の活躍により、どうにか難を逃れ、王都側の転送の門にしかけられた幻灯機を発見するに至ったのです。」
ドミネウス王が主人公を見る。
「指針書を持っておらぬようだな。ということは異国人か。」
「まあ、よい。して、幻灯機やらは?」
「配下の錬金術師に調査させています。何か分かり次第ご報告いたしましょう。」
ドミネウス王が言う。
「あい、わかった。軍団長クオードならびに主人公とやら、此度の件、大儀であったな。」
「余はこれより時見の神殿にこもる。我らエテーネの歩む道が正しき未来へと繋がらんことを。」
「エテーネ王国に栄光あれ。」
ドミネウス王が去っていった後、クオードが主人公に説明する。
「時見の神殿にこもり、全国民の持つ時の指針書の書き換えを行う。重大な国王の責務だ。」
「さて主人公、もう少しだけ付き合ってもらうぞ。覚えているよな?姉さんから託された俺たち宛の記憶の赤結晶の内容を。」
「二人で協力して王宮を目指せだとか、王宮への道は閉ざされているだとか、まるでこれから起こることをすでに知っているかのような予言めいた内容だったよな。」
「しかもお前を名指しして頼みを聞いてほしいなんてことも言っていたな。」
「まあ、そのへんの疑問は姉さんに会いさえすれば解けるはずだ。」
主人公とクオードはメレアーデの部屋に向かった。
「遅いじゃないのよ、クオード。あなたが王宮に来たって知らせを聞いて私ずっと待ってたのよ。」
いつもと違い、たじたじのクオード。
「ごめん、ちょっと野暮用があってね。別に姉さんのことをないがしろにしたってわけじゃないよ。」
「姉さん、こいつの顔を覚えているかい?」
主人公の顔をじっと見るメレアーデ。
「え、まさか、あなた主人公なの?やっぱり主人公なのね。久しぶりじゃないの。よく来てくれたわ。」
「半年前、父が王位を継いでドミネウス邸からこのエテーネ王宮に越して来たの。私も王女様なんて呼ばれるようになって。」
「それはそうと、あなたったらあの時は勝手にいなくなって私ずいぶん探したのよ。」
「せめてさようならの一言くらいあってもよかったんじゃない?」
「でもまた会えて嬉しいわ。」
「そんなことよりも姉さんには聞きたいことがあったんだ。これは一体何なんだ?」
メレアーデに記憶の赤結晶に込められた映像を見てもらった。
「何なのかしら、コレ。全然記憶にないんだけど。」
「私のそっくりさんじゃないわよね?」
メレアーデは全く身に覚えがない様子だ。
「本当に覚えてないのかい?誰がどう見たって姉さんじゃないか。」
さらに考えて込むメレアーデ。
「んー、こんなのを記憶した覚えは全くないのだけど、あ、でもね、今二人に頼みたいことがあるのは当たってるわ。」
メレアーデが記憶の赤結晶をドレスのポケットにしまう。
「しばらく転送の門が使えなかったでしょ?パドレア邸にいるマローネ叔母様が今どうしてるかって心配だったのよ。」
「転送の門が直ったのならこれから叔母様のお宅に伺って様子を見てこようと思うのだけれど・・・」
部屋に兵士が入ってきた。
「王女陛下並びに王子殿下、ご歓談の最中失礼致します。ジャベリ参謀より王子殿下を会議室へお連れするよう申し付けられて参りました。」
兵士がクオードだけに耳打ちする。
「王立アルケミアの件です。」
「わかった、すぐに行く。」
「姉さん、すまないがマローネ叔母様の家には主人公と一緒に行ってくれ。急な任務で同行出来そうにないんでね。」
「そういうことだから頼んだぞ、しっかり姉さんをエスコートしてくれ。」
クオードは主人公にそう言うと、そそくさと行ってしまった。
「あの子ったら薄情ね。昔は姉さん姉さんって私のスカートをつかんで離さなかったのに。」
「ちょっと寂しい気もするけど、あなたと二人だけってのも気軽でいいかもね。」
「もちろん付き合ってくれるでしょ?なにせあなたは私のお願いを聞くためにわざわざ会いに来てくれたんだし。」
「マローネ叔母様が住むパドレア邸には転送の門から行けるわ。」
主人公とメレアーデは、転送の門を使ってパドレア邸へ向かった。
「案内するからついて来て。」
「あ、私ったらうっかりしてたわ。まだ叔母様のことを説明してなかったわね。」
「マローネ叔母様っていうのは、お父様の弟であるパドレ叔父様の奥様にあたる方よ。」
「早くに母を亡くした私たち姉妹の遊び相手になってくれた人で、私にとっては、そうね、歳の離れたお姉さんのような人。」
「まだ小さかった頃、マローネ叔母様にはよくこのお庭で遊んでもらったわ。そのときはクオードも一緒で。」
「たまにだけど、叔父様も遊んでくれてね。そうなるとクオードはきまって剣術の稽古を叔父様にせがんだものよ。」
「クオードったら、叔父様を負かしたら手加減されてたとも知らず、大喜びでね。ほんとおかしかったわ。」
「小さな男の子の剣の相手なんて、本来なら父親のすることでしょう?なのにお父様ったらクオードにも私にもかまってくれなかったばかりか、私たちがここへ遊びに行くのも禁じたの。」
その時、屋敷の中から大きな音がして窓ガラスが割れた。
「何なの!?叔母様が心配だわ。急いで様子を見に行きましょう!」
屋敷の中に入ると、大きなシャンデリアが落ちていて花瓶や物が散乱していた。
女性の使用人に付き添われながら生後間もない赤子を抱いたマローネが逃げている。
メレアーデが大声で呼ぶ。
「叔母様!!」
メレアーデに気がついたマローネが足を止めて声をかける。
「逃げなさい、メレアーデ!ここは危険です!」
マローネを追って異形獣が現れた。
マローネは異形獣に襲われているようだ。
その異形獣を必死に食い止める一人の剣士がいる。
「マローネ様!お早く!立ち止まらないで!自分にかまわず行って下さい!」
その剣士は片手剣2刀流だ。すてみで天下無双を放つが異形獣にはあまり効いていないようだ。
マローネが大広間から逃げていくのを確認した剣士はギガブレイクを2発連続で放ち、異形獣を吹っ飛ばす。
剣士がメレアーデに気づいた。
「メレアーデ様!?お逃げ下さい!そいつが起き上がる前に!」
そこへもう一匹の異形獣がやってきてマローネを追っていく。
剣士はマローネを救うため、異形獣の後を追っていった。
剣士が吹っ飛ばした異形獣も起き上がり、マローネを追っていく。
「あんな化け物が2匹も。叔母様は引き返せと言ったけど、駄目だわ。助けを呼びに行ってたらとてもじゃないけど間に合わない。私たちで叔母様たちを助けるのよ!」
主人公とメレアーデはマローネの後を追った。
マローネ達は地下1階に追い込まれていた。
剣士が1匹の異形獣のツノを折るが、残りの1匹が使用人を吹っ飛ばし、マローネの精神エネルギーを吸い始める。
使用人がなんとか起き上がりマローネに近づく。マローネは苦痛で顔を歪めている。
気を失いそうになりながらも大事に抱えていた赤子を使用人に託す。
「こ、この子を・・・お願い・・・」
マローネの精神エネルギーを吸い終わって逃げようとする異形獣に、剣士が猛然と突撃する。
渾身の一撃を放ち、異形獣を消滅させた。
剣士がマローネに駆け寄る。
「マローネ様!しっかり!」
マローネの意識はない。
どうやら異形獣に精神エネルギーをすべて吸い取られてしまったようだ。
メレアーデがやっと追いついた。
マローネの様子を見て言葉を失う。
「叔母様!?ま、まさか・・?」
「一刻も早く王宮へ戻り、叔母様を王宮医師に診せましょう。」
「おぎゃあ、おぎゃあ・・・」
使用人が抱きかかえている赤子が泣いている。
「あ、ええと、ご子息様はご無事です。」
「ねえ、主人公、叔母様を私のお部屋に運ぶから手伝ってちょうだい。」
剣士は異形獣のツノも一緒に持ち帰ることにした。
主人公たちはパドレア邸を後にし、マローネ夫人をエテーネ王宮にあるメレアーデの私室へ運び込んだ。
元気に泣いているマローネの息子に使用人が声をかける。
「ご安心下さい、ご子息様。お母様はお側におられますからね。」
医師がマローネの容体を確認する。
「うーむ、手持ちの気付け薬は効果がないようですな。このような状態だと、自然に目覚めるのを待つほかありませんな。とにかく今はマローネ様の回復力を信じるほかありません。」
「そんな・・・パドレ様になんと言えば・・・」
剣士は項垂れながら部屋を出ていった。
メレアーデが言う。
「主人公、あの人についていてあげて。先生と話した後、私もすぐに行くから。」
主人公が剣士に近づこうとした時、ドミネウス王がやってきた。
「お前はたしか、クオードと一緒にいた異国の者か。」
「ここは神聖なるエテーネ王国の中枢だ。素性の知れない異国の者にうろちょろされたくはないのだがな。」
剣士がドミネウス王の前にやってくる。
「ん?貴様、戻っていたのか。」
剣士が答える。
「お久しゅうございます、ドミネウス様。いえ、国王陛下。」
「王弟殿下の消息につきましては後ほどご報告させて頂きます。」
ドミネウス王が言う。
「まだ探しているのか。ムダなことを。あやつはもう死んだのだ。」
「あれほどの大災害に巻き込まれては生きていようはずがない。」
剣士が胸に手をあてて反論する。
「しかし、自分は生還しました!わが主、パドレ様もきっと・・・」
メレアーデが騒ぎを聞きつけてやってくる。
「ちょっとどうしたの。そんな大声をだして。」
「お父様、珍しいですわね。ここにいらっしゃるなんて。」
「聞いたぞ、メレアーデ。魔物に襲撃されたパドレア邸へ乗り込んで行ったそうだな。」
メレアーデが答える。
「ええ、そのおかげでマローネ叔母様を救い出すことが出来ました。」
ドミネウス王がメレアーデを叱りつける。
「この愚か者が!エテーネ王国の王女たる者がおのが高貴なる身分を忘れて危険に身を投じるなど言語道断。」
「正しき未来を選択し、臣民を導く。その血を決して絶やさず後世に、未来に繋いでゆくことこそ王族の勤め。」
「お前には王族としての自覚が足りておらぬようだな。」
メレアーデが言い返す。
「ハッキリおっしゃって下さい。王族の勤めだ何だと言いながら、結局は私が叔母様のお家に行ったのが気に入らないだけ、そうなのでしょう?」
「叔父様を嫌っているからと言って、子供にまでそれを押し付けないで!」
メレアーデを平手で殴り飛ばすドミネウス王。
「余の許しがあるまでこの部屋から一歩も外に出るな。よいな、メレアーデ。」
剣士がドミネウス王に言う。
「陛下、失礼ながら躾とはいえ、ご息女に手をあげるなど・・・」
「王室のことに貴様ごとき下賤の者が口出しするな!それと死んだ愚弟のこともな。これ以上の捜索は不要だ。」
そう言うと、ドミネウス王は立ち去っていった。
「少し風にあたりに。」
剣士はそう言って何処かへ行ってしまった。
「お父様ったら下賤の者だとかパドレ叔父様は死んだとか、いちいちトゲのある言い方をして、なんて心無い。」
「風にあたりにとか言ってたからテラスにでも行ったのかしら。なんだか心配だわ。」
「ねえ、主人公。私のことはいいからちょっとテラスに行って様子を見てきて。」
メレアーデにそう言われ、主人公はテラスへと向かった。
テラスに剣士がいた。
「ん?そなたは。そういえばお互いバタバタしていてまだ名乗ってすらいなかったな。」
「自分はファラスという。エテーネ王国軍の兵士でもなければ王宮に使える役人でもない。」
「ドミネウス陛下の弟君であるパドレ様ただ一人に忠誠を誓う一介の従者だ。」
剣士は名前をファラスと名乗った。
ファラスと言えば、ヒストリカ博士と一緒に海洋都市リンジャハルの歴史を調べている際に手に入れた手記を書いた人物の名前だ。
あの手記を書いた人物が目の前にいるファラスだとすれば、手記に書かれていた主とはパドレ王弟ということになる。
パドレ王弟は記憶の結晶に想いを残していた。
主人公のことを自分の息子だと言い、この世界を愛し、強く生きろと言っていた。
ということは、マローネは主人公の母親、マローネが命がけで守った赤子の息子は主人公ということになるが。
「5000年前の歴史 ファラスの手記」
ファラスが主人公のことを訪ねてきたので、名前を名乗った。
ファラスがニヤリとしながら意味ありげに頷く。
「そうか・・・主人公というのか。」
「パドレ様は公務で海洋都市リンジャハルへ赴かれることとなり、自分もお供した。」
「だがリンジャハルでは想像を絶する大災害にみまわれ、パドレ様とは別れ別れに。」
「もちろん探した。瓦礫の中を、廃墟となった町を、くまなくな。」
「だが見つからなかった。報告のために久しぶりに戻ったところ、あの化け物が屋敷に紛れ込み・・・くそ!」
「自分がついていながら、マローネ様をお守り出来なかった。これではパドレ様にあわせる顔がない。」
ファラスは懐から異形獣のツノを取り出す。
「しかし空中に浮かぶ屋敷にあのような魔物が一体どうやって侵入したのか。」
そこへメレアーデがやって来きた。
「メレアーデ様!お父上の言いつけに背いて部屋から出られては。」
メレアーデは澄まし顔だ。
「ふふ、いいのよ、これくらい。誰かさんがあまりにも暗い顔をして出ていくものだから心配になったの。その、飛び降りるんじゃないかって。」
「ご冗談を。このファラス、そのような弱きな考えは思いついたこともありませんぞ。」
メレアーデが声を出して笑いだした。そして、ファラスが持っている異形獣のツノを見る。
「それ、なんなの?」
ファラスが答える。
「屋敷を襲った化け物のツノです。あの化け物はマローネ様の身体から生気のようなものを吸い取り、この中に収めたように見えました。」
メレアーデは異形獣のツノに赤い宝石が埋め込まれていることに気がつく。
「化け物というか、魔法生物ではなくて?ほらここに宝石がついているでしょ。錬金術で生み出された生物には触媒に利用した宝石が身体のどこかにあるそうよ。」
ファラスが異形獣のツノをじっくりと観察する。
「ふむ、魔法生物ですか。主人公よ。そなたはどうだ?思い当たることがあるならなんでもいい。ぜひ意見を聞かせてくれ。」
主人公はこれまでに何度か異形獣と呼ばれる魔物に遭遇したことを伝えた。
「ほう、異形獣と名付けられた魔法生物か。もし異形獣が錬金術の産物であるなら、錬金術の研究機関である王立アルケミアに問い合わせるのが一番だな。」
メレアーデが言う。
「その王立アルケミアなんだけど、転送の門が復旧したのに、何故かあそこだけ行けないらしいのよ。」
ファラスが思案する。
「ふむ、では旧知の仲を頼りましょう。自分の友人が王都で錬金の店を開いてましてね。聞けば何かしら分かるかもしれません。」
「ではメレアーデ様。自分が戻るまでマローネ様の看病、よろしく頼みます。」
ファラスはそう言うと、すぐに駆け出していった。
メレアーデが主人公に言う。
「ねえ、主人公。叔母様を救うため、ファラスに手を貸してあげて。記憶の赤結晶の内容を覚えてるでしょ?叔母様を救ってほしい。これが私からあなたへのお願いだったんだわ。」
「正直、いつあんな伝言を吹き込んだのか覚えがないのだけれど、きっとあれはこの時のためにあったのね。」
「私はお部屋に戻って叔母様の看病に最善を尽くすわ。あなたは王都に向かってファラスを追ってちょうだい。」
主人公は王都キィンベルに向かうため転送の門へ向かった。
王都キィンベルに着くと、身軽な服装のメレアーデに声をかけられた。
「こんにちは、主人公。私の願いに応えて記憶の赤結晶を届けてくれてありがとう。」
「きっと今は自分が何をなしたのか気づいていないのでしょうね。」
「少し歩きましょうか。」
「あなたの一連の行いが、滅びの未来を回避するための最初の1歩となったのです。」
「運命という激流にあらがうことは難しい。未来を変えようとがむしゃらに行動しても結局同じ滅びの未来へ流されてしまう。」
「ですが、激流の中にあっても、別の流れに至る未来への分岐点は確かに存在するのです。大切なのは歩みを止めないこと。」
「今はもどかしいでしょうが、一歩一歩望んだ未来に向けて歩んで下さい。それが唯一の方法なのですから。」
「今日は頼みごとがあって来たのではありません。ただお礼を言いに来ただけ。」
「それに主人公は私が頼まなくてもマローネ叔母様を救うためファラスを手助けしてくれるのでしょう?」
「そしてキュルル。そこにいるのでしょう?今後も主人公のよき友として支えになってあげて下さいね。」
キュルルがエテーネルキューブから姿を現す。
「何故ボクを知っているキュ。お前は何者なんだキュル?」
メレアーデはその質問には答えない。
「願わくば、あなたたちの選ぶ道が正しき未来へとつながっていますことを。」
そう言うとメレアーデは走り去り、曲がり角で姿を消した。
キュルルが追いかける。
「見失ったキュル。あの女、只者ではないキュ。」
「顔はそっくりだけど、王宮にいたメレアーデと本当に同一人物なのキュル?」
「それより主人公。今は錬金術師の店に行ったファラスとかいう男を追うキュ。」
主人公がゼフの店に行くと、ファラスがゼフと話をしていた。
「主人公じゃないか。どうしてここに。」
ゼフが驚く。カウンターには異形獣のツノがおいてある。
「なんとまあ、二人は顔見知りでしたか。世間は狭いとはよく言ったものです。」
「それで主人公さんはどういったご用向きでいらっしゃったのです?」
主人公はメレアーデからファラスを手助けして欲しいと頼まれたと伝えた。
「メレアーデ様、お心遣い感謝します。」
「このファラス、必ずやマローネ様を救ってみせるとお約束いたします。」
ゼフが言う。
「そういうことでしたら、ぜひとも主人公さんにも話の続きを聞いて頂きましょう。」
「私が研究員として王立アルケミアに所属していた時の話です。」
「このツノの持ち主である異形獣という魔法生物については目にしたこともありませんが。」
「しかし、この輝き、忘れもしません。」
「当時研究室では、錬金術で生み出した宝石に人間の精神エネルギーを保存しておく実験が繰り返されていました。」
「精神エネルギーを溜め込んだ宝石が、ちょうどこのツノの宝石と同じ色の輝きを放っていたものです。」
思案するファラス。
「精神エネルギーを吸い取られたままだとどうなってしまうのだ?まさか・・・」
「それは私にもわかりかねますね。その分野の研究は始まったばかりで、まだまだ未知の部分が多かったので。」
「とはいえ、私があそこをやめてからだいぶ経っていますからね。今なら解明が進んでいるかもしれません。」
「精神エネルギーに関する研究の詳細を知りたければ、当時の主任研究員、アルケミアの現所長に聞くのが一番でしょう。」
「結局王立アルケミアか。転送の門の不具合で行く手段がないからわざわざお前を訪ねて来たんだがな。」
「おっと、そうでしたね。」
「ではヨンゲ所長の家を訪ねてみては?運が良ければ会えるかもしれませんよ。」
ファラスは異形獣のツノを持って、一人で駆け出していった。
ヨンゲ所長の家に行ってもファラスの姿がない。
机の上にあるヨンゲ所長宛ての手紙に目がとまる。
#バントリユ地方に出現したあれの噂は自由人の集落にまで届いている。
#ワシが抗議の辞任をして王立アルケミアを去った後もキサマはあの忌まわしい研究を続けていたのだな。
#おおかた所長の地位をくれてやるとでも言われ、研究を続行したのであろう。この俗物めが。
#悪いことは言わん。あれにまつわる資料をただちに破棄し、今後二度とあの研究には手を出すな。
#禁断の研究を続ける者は、いつか必ず手痛いしっぺ返しを食らうだろう。
#ワグミカより
ファラスがやって来た。
「ここにいたか、主人公。行き違いにならず、よかった。」
「ゼフの店で別れた後、自分は転送の門を使わずに王立アルケミアへ行く手段を探していたのだが、なんでも所長が住むこの家に、王立アルケミア直通の秘密の通路が隠されているらしいのだ。」
「だが今のところ、それらしきものは何処にも見当たらんな。」
「ところで主人公、さっきからお前は何を手にしているんだ?」
主人公はヨンゲ所長に宛てられた手紙をファラスに見せた。
「うーむ、忌まわしい研究とは何か。気になるところだが、今はこの手紙の差出人について考えるとしよう。」
「内容から察するに、ワグミカなる差出人は、かつて王立アルケミアで所長を務めていた人物のようだな。」
「自分が調べたところによると、なんでも歴代の王立アルケミアの所長はいずれもこの家に住んでいたという話だ。」
「当然、先代所長のワグミカもここに住んでいたのだから、秘密の通路のありかを知っていると考えられる。」
「現役の所長に会えないなら、先代の所長から通路のありかを聞き出すのも一つの手だろうよ。」
「手紙によると、今、ワグミカが暮らしているのは自由人の集落らしいな。よし、早速訪れてみるとしよう。」
ファラスは駆け出していった。
自由人の集落に着くと、ファラスの姿が見当たらない。
とりあえず、ワグミカと話をしてみる。
ワグミカは小さな女性で幼そうに見えるが、どうやら外見だけのようだ。
昼間から酔っ払っている。横にはモモンタルという魔法生物がいて、ワグミカの世話をしているようだ。
「人生はクソだ。生きるに値しない。」
寝言を言っているようだ。ワグミカが目を覚ます。
「ふにゃ?なんじゃ、お前さん。このワグミカに何の用じゃ?」
主人公は王立アルケミアへの秘密の通路のありかを聞きたいと伝えた。
「なんじゃ、お前もか。こうも立て続けに物好きが来るとはのう。」
「さっきもファラスとかいうオッサンが秘密の通路のありかを聞きに来おったぞい。」
「暑苦しい男じゃった。鬱陶しいんで、さっさと通路を開く方法を教えてお帰り願ったところじゃ。」
「よいか?屋敷の2階にあるタンスが秘密の通路の入り口になっておる。」
「そのタンスに暗証番号を打ち込めばあら不思議。王立アルケミアに一瞬で行ける便利な通路が開けるんだぞい。」
「暗証番号は7456じゃ。さあ満足したろう。帰った帰った。」
主人公はヨンゲ所長の家に行き、タンスに暗証番号を入力した。
タンスの扉が開き、王立アルケミアへの道が開かれた。
ファラスがやって来る。
「おお、暗証番号を入力したのか。まったくワグミカ殿にも困ったものだ。肝心の暗証番号を言い忘れるとは。」
「集落にとんぼ返りしたらしたで、とっくに主人公に教えたと言われるし、骨折り損のなんとやらだな。」
「だがお前がアルケミアに行く前に追いつけてよかった。ここからは自分も一緒に行かせてもらうぞ。」
タンスの中を覗き込むファラス。
「この向こうに見えるのが王立アルケミアなのか。なんとも奇っ怪な。このタンス、よもや魔物のたぐいではあるまいな。」
「入ってみないことには始まらんか。よし、自分が先に行ってみよう。」
タンスの中に飛び込むファラス。どうやら無事王立アルケミアに移動できたようだ。
主人公もタンスの中に飛び込んだ。
突然、ヨンゲ所長が主人公たちの前に走ってきた。何かから逃げているようだ。
「くそ!こんなところにも!」
ファラスが声をかける。
「そなたがヨンゲ所長か?」
「何だ、貴様らは!王国軍ではなさそうだな。さしては殺し屋か!?」
「おのれ、おのれ、国王め!そうまでして私を・・。」
何処かへ逃げ去っていくヨンゲ所長。
「待ってくれ!そなた何か誤解しているぞ!」
異形獣が現れ、ヨンゲ所長を追いかけている。
「あの化け物、ここにも異形獣が。」
「追いかけるぞ、主人公。きっとあの者がヨンゲ所長だ。死なれてしまっては元も子もない。なんとしても話を聞かねば。」
何匹もの異形獣を倒しながらヨンゲ所長を追う。
王立アルケミアの地下室でようやくヨンゲ所長に追いついた。
「用済みとなれば全員口封じか。この薄汚い国王の犬め!」
「落ち着いてくれ。そなた王立アルケミアの所長ヨンゲ殿だな?」
ヨンゲ所長はなおも取り乱している。
「ぐ、やはり私の命が目当てか。そうやって汚れ仕事を続ければな、やがて貴様らも私と同じ運命をたどることになるんだぞ。わかっているのか?」
「今から手にかける相手の死に様こそ未来の自分たちの末路であると覚えておけ。」
「待て待て、自分と主人公は国王陛下とは無関係だ。だから落ち着け、いいな?」
「危害を加える気などない。むしろ教えを請いたくて追ってきたのだ。なのに殺す道理はないだろ?な?」
ヨンゲ所長が落ち着きを取り戻した。
ファラスが異形獣のツノを見せる。
「これが分かるな?異形獣に精神エネルギーを吸われ、意識不明となった者を救いたい。自分たちはその手立てを知りたいだけだ。」
ヨンゲ所長がなおも疑う。
「本当に、本当にドミネウスとはなんの関係もないのだな?」
ファラスが異形獣のツノをしまい、尋ねる。
「なぜそこまで国王陛下を恐れる?何があったというのだ?」
ヨンゲ所長が答える。
「人の精神エネルギーを吸収し、収集する異型の魔法生物、ヘルゲゴーグの錬金を指示したのが他ならぬ国王だからだ。」
「まとまった数のヘルゲゴーグを国王に引き渡したとたん、練金に携わった私たちを口封じのため・・・くそ!」
ファラスが驚く。
「ヘルゲゴーグというのは異形獣のことをさしているのか。いくらなんでも一国の王がそのような非道な行いに出るとは。」
「にわかには信じられんな。それだけ聞いて信じろと言うにはあまりに事が大きすぎる。」
ヨンゲ所長が言う。
「ここに来るまでに通ってきた研究棟でかすかに光が漏れている扉を見てきたはずだ。その扉の奥、先進研究区画にすべての証拠が揃っている。精神エネルギーに関する研究機器もな。」
ファラスが聞く。
「研究機器だと?そうだった。精神エネルギーを奪われた者の治療手段は?」
ヨンゲ所長が言う。
「治療?大げさな。ツノに蓄積された精神エネルギーを導力器を介して患者に戻すだけのことだ。」
「では治るのだな!?」
ヨンゲ所長がカギを差し出す。
「このカギで先進研究区画へ入れる。機密研究室まで私を護衛しろ。その後の身の安全も保証するなら・・・」
ヨンゲ所長がそこまで言った時、白い色をしたヘルゲゴーグが現れた。
「強化型ヘルゲゴーグ!?国王め、どうあっても私を葬り去るつもりか!」
強化型ヘルゲゴーグがヨンゲ所長を襲い、ヨンゲ所長は死んでしまった。
主人公が強化型ヘルゲゴーグを倒す。
ファラスがヨンゲ所長の亡骸の側にいる。
「すまぬ、救えなかった。」
主人公はヨンゲ所長が持っていた先進研究区画のカギを拾った。
「たしか研究棟にそのカギで開けられる扉があるとヨンゲ殿は言っていたな。」
「よし、研究棟に引き返すぞ。」
主人公とファラスは研究棟へ向かった。
研究棟にヨンゲ所長の時の指針書があったので読んで見る。
#国王陛下より精神エネルギーを収集する能力のある魔法生物を錬金を依頼される。
#さらに精神エネルギーより時渡りのチカラを抽出する装置を錬金せよとのこと。すべて陛下のご意向に沿うべし。
主人公はヨンゲ所長の国王への告発を裏付ける時の指針書の記述を発見した。
ファラスも時の指針書を読む。
「たしかにヨンゲ殿の言っていたとおり、陛下御自ら異形獣を開発せよとの指示をなさっていたようだ。」
「たとえ何人であろうと指針書の内容は容易には改ざんできないはず。」
「となれば異形獣を使役し、マローネ様をあのような目にあわせたのもみな陛下の仕業ということに。」
「この事実も捨て置けんが、今の自分にとってもっとも大切なことはマローネ様をお救いすることだ。」
「ヨンゲ殿の指針書は、主人公、お前が預かっておいてくれ。」
「ヨンゲ殿は導力器と呼んでいたな。それらしいものは・・・」
ファラスが導力器を見つける。
「これなのか?おお、精神エネルギーを物質にたくわえたり人体に戻したり出来るとこの本に書いてあるぞ。」
「名は精光導力器というのか。よし、希望が見えてきた。これならマローネ様をお救い出来るかもしれん。」
「精光導力器は自分が持っていく。マローネ様のもとへ一刻も早く戻ろう。」
主人公とファラスは、マローネのもとへ向かった。
ファラスは精光導力器をマローネがいる部屋に運び込んだ。主人公も部屋に入ろうとした時、クオードがやって来て声をかけられた。
「叔母様の治療のためにファラスと駆けずり回っているそうだな。その後進展はあったのか?」
主人公はクオードに王立アルケミアへ行って治療器具を手に入れてきたことを話した。
「転送の門を介さず・・そんな秘密の通路があったとはな。」
「王立アルケミアに行ったのなら、その、何か見つけてこなかったか?」
「陛下の、父の悪行を示すような証拠を。」
主人公はヨンゲ所長の指針書をクオードに渡した。
クオードは指針書を真剣な眼差しで読んでいる。
そこへ部屋からメレアーデが顔を出した。
「主人公、今から叔母様の治療を始めるからあなたも付き添って。あら、クオードも来ていたのね。あなたもいらっしゃい、早く。」
主人公は部屋に入っていったが、クオードはまだ部屋の外で指針書を読んでいる。
精光導力器の中に異形獣のツノを入れ、装置を作動させる。
ツノからマローネに精神エネルギーが戻され、マローネが目を開けた。
「ああ、ファラス。」
ファラスは片膝をついて申し訳なさそうに言う。
「マローネ様、自分がついていながらお守り出来ず、面目次第もございません。」
マローネは使用人が抱えている赤子を見ながら言う。
「良いのです。この子さえ無事なら。」
メレアーデに支えられながら身体を起こすマローネ。
「メレアーデ、あなたもよく無事で。」
「心配なんていらなかったのに。私には頼もしい護衛がついていたのよ。主人公っていうね。」
メレアーデが主人公のことをマローネに紹介する。
主人公の名前を聞いて、マローネは少し驚いている。
「まあ・・主人公というの。ふふ・・・いいお名前・・・。」
マローネは少し疲れてしまったようだ。
部屋を出ようとする主人公にファラスが近づいてくる。
「主人公よ、本当に世話になったな。チカラになってくれたこと、まこと感謝の念に堪えぬ。」
「この恩義には必ず報いると約束しよう。まあ、気長に待っていてくれ。」
「それにしても遅いわね。クオードったら何をやってるのかしら。」
メレアーデが部屋を出て指針書を読んでいるクオードの側に行く。
「クオードの薄情者!どうして叔母様に顔を見せて差し上げなかったの?」
その質問には答えず、クオードは指針書を差し出す。
「姉さんもこれを読んでみてくれ。王立アルケミアの所長のものだ。」
驚きの表情で指針書を読むメレアーデにクオードが言う。
「許しがたい行為だ。こんな人間が国王だなんて。」
「お父様が異形獣を!?きっと何か訳があったのだわ。」
動揺するメレアーデにクオードが言う。
「叔母様にも同じことが言えるかい?どんな理由があればあんな化け物を錬金し、人にけしかけるのを正当化出来るんだ。」
「主人公、お前も覚えてるよな?転送の門に仕掛けられた幻灯機を。」
「あれからどうしても気になって、王家に伝わる秘宝の目録を調べてみたら、あの幻灯機らしきものを見つけたんだ。」
「それで俺は、父が一連の事件に加担していると確信したのだが、まさか首謀者だったとは。」
「指針書を読むかぎり父は、大量の精神エネルギーを収集する目的で異形獣を使役していたようだな。」
「そして精神エネルギーから時渡りのチカラを抽出するための装置を開発させている。本命は時渡りのチカラということか。」
話を立ち聞きしていたジェリナンという使用人が言う。
「こんなことがございました。ドミネウス様は弟君のパドレ様に比べ、時渡りのチカラの資質に劣っておりました。」
「それを理由に先代陛下はドミネウス様よりもパドレ様を可愛がられ、王位継承権の順位を入れ替えるとまでおっしゃったのです。」
「ドミネウス様の中では、即位された今でも時渡りのチカラを理由に継承順位を下げられそうになった経験がシコリとなり・・・」
クオードが話をさえぎる。
「ああ、もういい。私情に流される身勝手な者に、大事な玉座を任せられるものか!」
クオードはヨンゲ所長の指針書をもって何処かへ行ってしまった。
「大丈夫かしら、あの子。何かとんでもない事をしでかそうとしているんじゃ。」
メレアーデが主人公に言う。
「お願い。クオードを追いかけて!私じゃいざという時に止められないから。」
クオードを追いかける主人公。
クオードは王座の間に入っていった。
クオードと向き合うドミネウス王。
「クオードよ。お前の言う火急の件とやら、時見の神殿にて未来を予見する余の責務を妨げるに値する用件なのであろうな?」
クオードは決意を固める。
「ドミネウス陛下。あなたを国民弾圧の罪で告発します。速やかにご退位ください!」
ドミネウス王は余裕の表情だ。
「ほう、余を王座から引きずりおろそうとするからには、無論、相応の確信があってのことなのであろうな。」
「わが国を騒がせた異形獣と呼ばれる魔物。あれはあなたの命により王立アルケミアで錬金された魔法生物だったのでしょう。」
「そればかりか完成後は口封じのため異形獣をけしかけ、錬金に携わった者たちすべてを闇にほうむろうとさえした。」
「今も王立アルケミアへ入れないのは、異形獣の襲撃を受けて、かの施設が壊滅しているからに他ならない。」
ドミネウス王の側近であるワトス大臣が言う。
「妙ですな、転送の門が使えないのにいかようにして軍団長は王立アルケミアの現状を知り得たというのですか?」
クオードが答える。
「ある者が転送の門を使わず王立アルケミアへ行く秘密の通路を発見し、ヨンゲ所長にお会いしたのです。」
「残念ながら所長は亡くなってしまわれたが、彼の指針書を持ち帰ることに成功しました。この中に次のような記述があります。」
指針書を開きドミネウス王に見せる。
「国王陛下より精神エネルギーを収集する能力のある魔法生物の錬金を依頼される。」
「さらに精神エネルギーより時渡りのチカラを抽出する装置を錬金せよとのこと。すべて陛下のご意向に沿うべし。」
クオードが指針書を閉じて言う。
「異形獣にまつわる騒動の数々。裏で糸を引いていたのはあなただったのですね、陛下。」
「事実無根であるとおっしゃるなら、今この場にてご説明を!」
ドミネウス王の表情は変わらない。
「身の潔白を証明せよ、そう言いたいのだな?クオード。」
「だがその前に、ヨンゲ所長の指針書を持ち帰ったある者とは誰だ?答えよ。」
クオードが答える。
「主人公という者です。我がエテーネの臣民ではありませんが、転送の門の復旧にも功ある信の置ける者です。」
ドミネウス王が言う。
「信頼を得てふところに入り込み、ニセの証拠で揺さぶりをかける、よくある陰謀だ。」
「得体の知れぬ異国人が持ち込んだ証拠など信用に値せんわ!その指針書が本物であるとお前は証明できるのか?」
「余は証明できるぞ。その指針書が偽りの物であるとな。」
ドミネウス王が自らの指針書を開いてクオードに見せる。
「お前の指摘した箇所と同じ日付だ。余の指針書のどこにも異形獣の錬金を依頼せよ、などとは書かれておらん。」
「この矛盾、諸君らはどうとらえるか?」
「どちらかの指針書が偽物だとしよう。それは余の所持する物か?もしくはそこの異国人がクオードに渡した物か
?」
がっくりとうなだれるクオードの肩に手をのせるドミネウス王。
「クオードよ。余はお前を咎めはしない。国を想う気持ち、痛いほど伝わってきた。」
「このような暴挙に出てしまったのもニセの証拠をつかまされ、疑心暗鬼の落とし穴にはまってしまったからであろう?」
ドミネウス王が主人公に持っている杖を振りかざす。
「真に罪があるとすれば、貴様である!衛兵、この者を捕らえよ!罪状は内乱の扇動、及び我が国で最も罪深い指針書の偽造である。」
衛兵が主人公を捕らえようとする。
クオードがなおも食い下がる。
「お待ち下さい、陛下!その者に罪はございません!」
ドミネウス王が一括する。
「哀れなり、我が息子よ。まんまと欺かれ、恥辱にまみれてもなお、罪人に情けをかけようとするか。」
主人公をは捕らえられて、地下牢に入れられてしまった。
そこに指針監督官のベルマがやってくる。
「ククク、傑作だな。最高の眺めじゃないか。貴様のような薄汚いよそ者にはやはり牢獄が似合っているぞ。」
「私を覚えているか?主人公。元指針監督官ベルマだ。少し前までは今の貴様と同じように収監されていたが、ドミネウス陛下から恩赦をたまわり、新たに矯正執行官というやりがいのある仕事を頂いたのだ。」
「貴様のような犯罪者を更生させて、エテーネ王国のために尽くす従順な存在に生まれ変わらせるのが私の任務。」
「どんな無価値なクズであろうとまばゆい黄金のごとき価値ある人間に私が矯正してやろう。」
「ククク、今日はぐっすり眠るがいい。明日を楽しみにな。」
主人公はベッドに横たわり眠りについた。
「ニャア、ニャア・・」
ネコの鳴き声で目を覚ます主人公。
鳴き声のする方をみると、黒猫のチャコルがいた。
隣に巾着袋が置いてある。
「にゃんにゃん!」
巾着袋を開いて欲しそうなので、開いて中身を取り出した。
中には命の石が3個入っていた。
そして巾着袋の中には手紙も入っていた。
#明日、あなたは処刑される。その時が来たら、黄金の釜に命の石を投げ入れて。
「にゃおーん」
チャコルは帰っていった。
主人公は再びベッドに入り眠りについた。そして夜が明けた。
ベルマがやってくる。
「目は覚めたか、ゴミ虫。さっさと起き上がって牢から出ろ。」
主人公は外の広場に連れ出された。
広場には黄金の釜がグツグツ煮だっている。
釜のまわりをエテーネの国民が囲み、広場の最上段にはドミネウス王がいた。
「エテーネ王国に極刑はない。その甘さが犯罪者をつけあがらせてきたのだ。罪にはそれに見合う罰が必要である。」
「ために、第49代エテーネ王国ドミネウスの名において、黄金刑の復活を宣言するものである!」
手を叩き、沸き上がるエテーネ国民。
黄金の釜の前に立たされる主人公。
エテーネ国民に紛れてディアンジ、ザグルフ、ファラスの姿がある。
ベルマが言う。
「重罪人、主人公!黄金の釜が汝に更生の輝きを見出したのなら、今一度汝を信じよう!」
「罪深き主人公に黄金の審判を!」
主人公は黄金の釜に命の石を3個投げ入れた。
すると黄金の釜から3体のゴールドマンが現れ、広場で暴れだした。
エテーネ国民は皆逃げ出していく。
「主人公さん、こっちですよ!」
ザグルフが先導し、主人公は逃げ出した。
ベルマはゴールドマンに殴り飛ばされ意識を失っている。
ディアンジが煙幕で視界を遮る。
「よかった主人公さん、ご無事でなによりですよ。煙幕をしこたまたいておきました。早いとこずらかりましょう!」
ゴールドマンが追ってくるが、ファラスが加勢する。
「ここは自分が!」
逃げる主人公に、ドミネウス王が追ってきた。
「逃さんぞ!国賊め!国王たる余の刃をもって、貴様に裁きを下してくれよう。」
迫りくるドミネウス王。そにクオードが加勢した。
「血迷ったかクオード!今すぐ剣をひけい!」
クオードが言う。
「ここは俺が食い止める!主人公はエテーネを離れろ!迷惑をかけてすまなかった。」
ディアンジが炎の壁を作り逃げようとするが、ドミネウス王は炎の中を平然と歩いてくる。
「こうまでして父に歯向かうとは、本当にお前は聞き分けのない息子だ。」
ドミネウス王の服が炎に焼かれる。
その様子を見てクオードが驚く。
「なんなんだ、貴様は。父上はどうした?」
ドミネウス国王の胸には巨大な赤い宝石が埋め込まれていて、身体は操り人形のようだ。
「余こそエテーネの王。余の意にそわぬ者は殺して殺して殺しつくすのみ!」
主人公とクオードが協力してドミネウス王の人形を倒した。
駆けつけた国王軍の兵士たちにクオードが言う。
「大臣に急ぎ報告せよ。陛下は得体の知れぬ替え玉であった。替え玉の謀略により罪人にしたてられた主人公は潔白であったとな。」
「格好がつかんな。お前を助けるつもりだったのに逆にお前に助けられてしまうとは。」
「ぎりぎりになってすまなかった。言い訳にもならんが、軟禁されてて駆けつけるのが遅れたんだ。」
クオードが壊れた人形を見る。
「幻灯機と同じ刻印。これも王家の秘宝のひとつなのか。」
「秘宝の目録に目を通した時、このような人形があったのを覚えている。」
「容姿だけにとどまらず人格までもそっくりにマネて、あたかも本人のように振る舞う。錬金術の秘奥たる遺産だ。」
人形の側に何かが落ちているのに気がつくクオード。
そこにファラスがやって来た。
「おーい、主人公!無事で本当によかった!お前が処刑されてしまうとメレアーデ様から聞いた時には気が気でなかったぞ。」
クオードが拾ったのはカギのようなものだった。
「これは・・時見のカギか?」
突然、人形が爆発して跡形もなく消えてしまった。
「ち、証拠隠滅か。」
ファラスが言う。
「黄金の釜に命の石を放り込み、魔物を生み出して混乱を誘うとは。メレアーデ様はたいした策士ですな。」
クオードが驚く。
「姉さんの指示だったのか!?」
「ええ。陛下に主人公の助命を嘆願しにいく一方で最悪の場合を考え、我々に手紙で指示を出していました。」
「しかし妙ですね。作戦を立てておいてこの場にお見えにならないというのは。」
クオードは焦った表情だ。
「くそ、嫌な予感がする。」
駆け出すクオードをファラスが呼び止める。
「クオード坊っちゃん、どちらへ!」
「国王の執務室だ!父に会いに行ったなら姉さんは執務室に向かったはずだ。」
「あと、坊っちゃんはやめろ!」
ファラスが主人公に頼む。
「主人公よ。そなたを見込んで頼みたい。クオード坊っちゃんをお助けしてくれ。」
「自分はマローネ様とお子をお守りせねばならん。」
「陛下の替え玉と言い、メレアーデ様のことと言い、どうにも胸騒ぎがして仕方だないのだ。」
「姉弟のこと、くれぐれも頼んだぞ。」
主人公はクオードを追って執務室に向かった。
「主人公、どうしてここに?」
主人公はファラスに頼まれたことを伝えた。
「そうか、ファラスが。あのおせっかいめ。」
「いいだろう、一緒に来てくれ。この先、何があるかわからんしな。お前が一緒なら心強い。」
クオードが先程拾ったカギを見せる。
「この時見のカギは、代々のエテーネ王に受け継がれてきたもので、これがなければ何人もこの先の時見の神殿には入れない。」
「執務室に入ったまま姉さんは出てきてないと聞いたんだが、ここにいない以上、時見の神殿にいる可能性が高いな。」
クオードが扉の鍵穴に時見のカギを差し込むと、ゆっくりと扉が開いた。
エレベータで下へ移動する。
「俺たちが目指しているのは、王宮の下にある時見の神殿、その最奥に位置する時見の祭壇と呼ばれる聖域だ。」
「そこには時見の箱がまつられており、箱を介して時渡りのチカラを発動させることでエテーネの祖先は未来を予見してきた。」
「災害や飢饉のおとずれを事前に知り、対策を講じることで被害を最小限におさえる。」
「古来エテーネの民は、時見の箱と交信者である祭司長の言葉を頼りに、最良と思える未来を選び取ってきたんだ。」
「その祭司長の末裔が俺や姉さん、エテーネ王家の血脈というわけだ。」
「だがいつからか、国王は時の指針書を作って民衆に配るようになり、日々の行動や生き方にまで口をはさみだした。」
「指針の通りに生きれば良き生が約束される。逆に言えば指針に反するのは悪だと断ずるようになる。人とはそういうものだ。」
「こうして指針に従えという見えない強制力が国全体を覆い、息苦しさを生むことになる。この空気は誰にもどうすることも出来ない。だが、俺なら・・・」
クオードと主人公は時見の神殿の最奥、時見の祭壇に向かった。
時見の祭壇の中には巨大な箱が宙に浮かんでおり、黄色く光り輝いている。
エテーネルキューブを巨大にしたようなものだ。
「あれが時見の箱なのか。」
謎の装置を発見するクオード。
「何か一つだけ光っているぞ。」
装置に駆け寄り覗き込むと、中には意識を失っているメレアーデがいた。
「姉さん!返事をしてくれ姉さん!」
装置を叩くが返事がない。装置から黄色い光が放出され、その光は時見の箱に吸収されている。
装置を観察し、ボタンがあったので押してみると扉が開いた。
装置から出ていた黄色い光の放出が止まる。
メレアーデが目を開いた。
「ああ、クオード。ここは?」
クオードが心配そうに顔に手を添える。
「しっかりして!何があったんだ?」
「お父様に主人公の処刑をやめてもらおうと・・・」
そこで主人公がいることに気づくメレアーデ。
「ああ、主人公。よかった、無事だったのね。」
再び意識を失ってしまった。
ドミネウス王の怒鳴り声がする。
「装置に触れるな!」
時見の部屋から出てくるドミネウス王にクオードが言う。
「父上、生きておられたのですね。てっきりあの人形に命を奪われ入れ替わられてしまったのではと。」
「政務など人形任せで良いのだ。時見の祭司である余の貴重な時間を雑事になぞ費やせるものか。」
クオードが問う。
「ではご自分の意志で替え玉を?」
ドミネウス国王は答えない。
「なんて無責任な!それが国王のすることか!」
「黙れ、口答えをするでない!メレアーデを装置に戻せ!」
クオードが怒る。
「何を言っているんだ!こんなに弱っているんだぞ!」
時見の箱を見上げるドミネウス。
「もっと時渡りのチカラを注がねばならん。メレアーデはお前と違い優秀だからな。必ずや箱を満たしてくれるであろう。」
クオードも時見の箱を見上げる。
「時渡りのチカラ。あの箱のために集めていたのか。」
「ヘルゲゴーグだけではチカラの収集が追いつかなくてな。時見の箱がその真価を発揮するには膨大なチカラが必要なのだ。」
クオードが言う。
「それで異形獣を放ったというのか。マローネ叔母さんも被害にあったんだぞ!」
「効率よく集められると思ったのだがな。高純度の時渡りのチカラを抽出するならやはりこの方法が良い。」
「さあ、もう気は済んだだろう。メレアーデを装置に戻すのだ。」
「あと少しで時見の箱が余にエテーネ王国の滅びを回避する未来を見せてくれる。」
「滅びの未来を回避すれば、余の名前は救国の王として末代まで、いや、未来永劫語り継がれるであろう!」
「救国の王として名を残せれば、愚弟など家系図を汚す惨めなシミ。虫食い穴にも等しくなる!」
クオードが決意を固める。
「パドレ叔父さんへの劣等感だけでこれだけのことをしでかしたのか。」
「ちがう!滅びの未来を回避するためだ!」
「お前にはまだわからんのだ。王の双肩に王国の未来と臣民の命。その全てがかかっていることの重さがな。」
クオードが反論する。
「あなたこそ訳のわからないことを!滅びの未来とか、さっきから何を言っているんだ!」
「今はわからずともよい。いかなる犠牲を払おうとも、我が王国の栄光を永遠のものとするだけだ。」
ドミネウス王が時見の箱を仰ぎ見る。
「時見の箱よ!神殿の祭司たる余に繁栄と栄光の未来を見せよ!」
時見の箱が光り輝く。
ドミネウス王の身体を黄色い光輪が包み込む。
「ふはは、見える!見えるぞ!」
ドミネウス王が驚く。
「なんと!?そのような他愛のないことで・・・」
主人公を睨みつけるドミネウス。
「滅びの回避のために手をつくしていたが、箱の未来予知が上手く行かなかったのは貴様が存在していたからなのだな。」
ドミネウス王が主人公に近づくが、クオードが立ちふさがる。
ドミネウス王が怒鳴りつける。
「どけい!時見の箱に悪しき影響を与える雑音め!余が手ずから排除してくれようぞ!」
クオードが剣を構える。
「正気か!崇高なる王座を汚す暗愚の王め!貴様に聖王たる資格はない!」
「歯向かうか、この愚か者めが!つくづくお前には失望した。」
時見の箱に杖を掲げるドミネウス。
「箱よ!余にチカラを貸せ!」
時見の箱が光り輝き、ドミネウスの身体を光輪が包み込む。
ドミネウスは魔物に姿を変えた。
「化け物め!二度と貴様を父とは呼ばぬ!」
クオードと主人公は協力してドミネウスを倒した。
クオードが言う。
「崇高なる王座を汚した罪、万死に値する。だが聖域を汚すわけにもいくまい。」
「あなたには退位してもらう。命があるだけ有難く思うがいい。」
元の姿に戻ったドミネウスが言う。
「調子にのるのも大概にしろ。荒事しか能のないクズめが!」
「ここをどこだと思っている?祭司である余こそ神殿の支配者!何人も余を従わせることあたわず。」
「箱よ!今一度余にチカラを!」
ドミネウスは再び魔物に姿を変えた。
「もっとだ!もっとチカラをよこせ!」
「エテーネ王国の未来のためならばどのような苦痛も受け入れてみせよう!」
ドミネウスはより凶暴な魔物に姿を変えた。
「慈悲である。一瞬で息の根を止めてやろう。」
クオードは一撃で吹っ飛ばされ、意識を失ってしまった。
「主人公よ。我が王国を永遠のものとするため、その身を捧げよ!」
襲い掛かってくるドミネウスを主人公が倒す。
元の姿に戻るドミネウス。
「時見の箱の加護を受けた余が、指針書も持たぬ異国人ごときにおくれを取るとは。」
「箱よ、もっとだ!余にチカラを!エテーネの未来のために!」
時見の箱から光が失われる。
「どうした、箱よ!応えろ!」
その時、何者かがドミネウスの心臓を背中から一突きで貫く。
後ろを振り返るドミネウス。
背後には謎の黒衣の剣士が立っていた。
「この俗物が。」
この剣士は何処かで見たことがある。
ナドラガ神を主人公が倒し、ナドラガ神の身体が崩壊をはじめた時にいた謎の黒衣の剣士だ。
その黒衣の剣士はこう言っていた。
「竜神の宿す、創生のチカラ。もらいうける。」
そして黒衣の剣士は竜神の心臓を手に入れ、姿を消した。
その黒衣の剣士がここにいる。
ドミネウスが最後の気力を振り絞って言う。
「・・・お前は?」
ドミネウスは黒衣の剣士に見覚えがないようだ。
黒衣の剣士はドミネウスにトドメを刺した。
黒衣の剣士は主人公に微笑みかけたあと、時見の箱に近づき手をかざす。
時見の箱が光を取り戻す。
しかし黒衣の剣士は手をかざすのを止めようとはしない。
何かのチカラを時見の箱に注ぎ込んでいるようだ。
キュルルが慌てた様子で現れる。
「あれはヤバそうだキュル。命が惜しかったら一刻も早くここを離れたほうがいいキュ。」
黒衣の剣士が言う。
「箱よ!チカラを解き放て!」
時見の箱がさらに輝きを増す。
キュルルが驚く。
「キュキュキュ!大規模な時空転移の予兆だキュル。」
クオードが目を覚ます。
「早く・・姉さんを・・。主人公、持ちこたえてくれ。」
メレアーデはまだ意識を失っている。
「よかった。まだ息がある。」
黒衣の剣士が笑いながら言う。
「フ、たっぷりと吸っておけよ。長い旅路になるのだから。」
時見の神殿の床が崩れ落ちる。
エテーネ王宮では大量のヘルゲゴーグが人々を襲っている。
ファラスも交戦しているが、数が多すぎる。
主人公は空中に投げ出され、落下している。
時見の神殿は黄色い光に包まれ、消えてしまった。
キュルルが落下しながら言う。
「たった今未来が変わったキュル!もうこの時代にとどまる理由はないキュ。ボクらの時代に帰還するキュ。」
主人公はエテーネルキューブを起動し、現代へ戻った。
目を覚ますと、そこは賢者ルシェンダの執務室だった。
「よかった、目を覚ましたようだな。心配したぞ、主人公。」
「覚えがないかも知れんが、そなた城門前の橋の上で倒れていたところを衛兵に発見され、運び込まれたのだ。」
キュルルが現れる。
「主人公、すまなかったキュル。落下中のドサクサだったからいくつか手順をはぶいて強引に時間跳躍を実行したキュル。」
「そのせいで主人公の身体に負担をかけてしまったキュル。」
賢者ホーローがやって来た。
「大体の話はキュルルに聞いたぞ。今回もワイルドかつデンジャラスな旅路だったようじゃな。」
「うむ、おぬしの活躍の場は5000年前のエテーネ王国にまで広がってしまったか。感慨深いのう。」
賢者ルシェンダがキュルルに聞く。
「キュルルよ。まだ詳しく聞いてなかったが、未来が変わったと言っていたな。ドミネウス王の野望をくじいたことが、どう滅びの回避につながるのだ?」
キュルルが賢者ルシェンダの方を向く。
「滅びが回避できたとは言ってないキュ。」
賢者ルシェンダが驚く。
「なんだと!?」
そこへ一人の兵士が慌てた様子でやって来る。
「大変です!ルシェンダ様!とんでもないモノが現れ・・あれをなんと言い表してよいものやら・・」
「とにかく口で説明するよりもご自身の目で確認して頂いたほうが早いかと存じます。テラスまでご足労下さい。」
テラスへ移動する主人公たち。
賢者ルシェンダが言葉を失う。
「なんなのだ、あれは・・・」
賢者ホーローが言う。
「雲か、いや、卵のようにも・・・なんじゃ?わしわ幻でも見とるんか・・・」
キュルルが言う。
「荒廃した未来でボクと主人公が見た、世界に滅びをもたらす存在だキュ。」
賢者ルシェンダが上空を再び見上げる。
「あれか、お前たちが未来で見たというのは・・」
キュルルが言う。
「ボクの感知した未来の変化はこのことだったんだキュ。」
「未来は変わり、滅びの未来の訪れが早まったキュル。」
「あれこそが、この世界に滅びをもたらす終焉の繭なんだキュル。」
レンダーシアの上空に巨大な白い繭が浮かんでいる。
繭のまわりは瘴気が渦巻いている。
そして・・繭の中では巨大な赤い目が怪く光っている。
一旦、執務室に戻る主人公たち。
「あまりの衝撃に言葉もでんな。今のところあの繭による被害報告は届いていないが。」
「あのような不気味なモノがなんの害意もなくただそこにあり続けるなどという事は決してないだろう。」
「キュルルの言うように、あれが我々に滅びをもたらす存在だというならば、何をもってしても排除せねばならん。」
「まずは近日中に調査隊を結成し、あの繭についての情報を集めてみる。」
「その結果いかんで、アンルシアや勇者の盟友であるそなたにも協力をあおぐことになるだろう。」
「今すぐどうこうという訳ではないが、覚悟だけはしておいてくれ。」