賢者ルシェンダに呼ばれた主人公は真グランゼドーラ城にある賢者の執務室に向かった。
「おお、主人公か。待っていたぞ。よく来てくれた。」
「早速だが用件に入らせてもらおう。」
「少し前にある人物を保護してな。」
「その者は我らとも因縁浅からぬ人物―黒衣の剣士パドレだ。」
「ホーローから彼は時渡りの術でいずこかへ旅立ったと聞いていたのだが。」
「どういう訳か城の前で意識不明の状態で発見されたのだ。」
「それでも看病の甲斐あってつい今しがた目覚めたのだが、どうも衰弱が酷いようでな。」
「パドレ殿には今3階の近衛兵詰所で休んでもらっている。」
「見舞いがてら様子を見に行ってもらえないだろうか。」
近衛兵詰所に向かった主人公はパドレと再会した。
「ああ、主人公か。どうやら賢者殿が気を利かせて呼んでくれたようだな。」
「何から話したものか・・」
「俺が妻を―マローネを救うべく時渡りをしたのは覚えているだろ?」
「俺が向かったのはキュロノスがこもる時獄の迷宮と呼ばれる時空の狭間だ。」
「しかし向かったはいいが、それまでの戦いで時渡りの力を消耗していたのがまずかったのだろうな。」
「時獄の迷宮に入ることも出来ないまま時空の狭間から弾き出されてしまった。」
「今は悠長に回復を待ってるだけの余裕はない。」
「すぐにでも時渡りの力を回復させなくては。」
キュルルがエテーネルキューブの中から主人公に囁いた。
「以前メレアーデが時渡りの力を消耗して寝込んでたけど、今はケロッとしてるキュ。」
「何かいい方法を知ってるかも知れないキュ。」
「メレアーデはエテーネの村にいるから相談しに行ってみるキュ。」
主人公は新エテーネ村にいるメレアーデの所に向かった。
「時の球根を取りに行った時の事を覚えてる?」
「私あの時の時渡りが原因で長らく寝込んでいたのよ。」
「そんな時お見舞いに来てくれたシンイさんが特別な豆を分けてくれたの。」
「何でもシンイさんのお祖母様が大好物だった豆で、一口食べれば元気ハツラツになるって言われて。」
「それで本当かしらと思いつつその豆―ハツラツ豆を食べてみたら、なんと嘘みたいに元気になれたの。」
「きっとハツラツ豆には時渡りのチカラを回復させる栄養素が含まれているんだと思うわ。」
「だからハツラツ豆を食べればパドレ叔父様も元気になるはずよ。」
「ハツラツ豆はこの村にいるシンイさんに頼めば分けて貰えると思うわ。」
主人公はシンイにハツラツ豆を分けてもらい、パドレのもとに持っていった。
「ほう、青々とした新鮮な豆だな。」
「ちょうど小腹が空いていたところだ。」
「遠慮なくいただこうか。」
パドレは夢中でハツラツ豆を食べた。
「ふう、なかなか美味かったぞ。」
「おお!体中に時渡りのチカラが漲ってくる。」
「この豆は一体・・」
主人公はパドレにハツラツ豆とはエテーネの村に伝わる食材であると説明した。
「エテーネ王国の民の末裔が暮らす村か。」
「そのような村なら時渡りのチカラを回復させる食材が伝わっているのも頷けるな。」
「礼を言うぞ、主人公。」
「今なら時獄の迷宮へ行けそうだ。」
パドレは身支度を整え、出立の用意を始めた。
「俺は魔獣を操り世界に恐怖と混乱をもたらした。弁解の余地もない。」
「魔獣との戦いに身を投じてきたお前には話しておかねばなるまいな。」
「無限獣ネロスゴーグ、喪心獣ゾンテドール、憑依獣ザルボーグ、増殖獣バイロゴーグ・・4体の魔獣とは何だったのかを。」
「かつて俺は神墟ナドラグラムで竜神の心臓を奪取した。」
「王立アルケミアに隠されていた特殊な魔獣の卵を孵化させるため、竜神の心臓に宿る膨大なエネルギーを必要としていたからだ。」
「そうして生まれた4体の魔獣達に俺はアストルティアの歴史に名を刻む恐るべき魔獣達の能力を与えた。」
「魔獣の能力を成長させ、その絶頂期を見計らい魔獣ごと終焉の繭に吸収させるのが時見の箱―キュロノスの計画だったのだ。」
「その計画もお前の活躍により完璧なものにはならなかったが。」
「しかし魔獣の肉体を吸収した繭の中の生命体は確実に完成しつつある。」
「そしてキュロノスは繭から羽化した生命体におのが精神を移すことで完全無比の肉体を手に入れんとしているのだ。」
「人の世を・・世界を終わらせるそのために。」
「キュロノスの支配下にあった俺は、それを未来を守るためと信じ込まされ奴の思うがままに使役させられていた。」
「実際はその全てが世界に仇なす行為だった。」
「時獄の迷宮に行きキュロノスを倒す。」
「それが罪を重ねてきた俺に出来るせめてもの罪滅ぼしだ。」
メレアーデがやって来た。
「また一人で行くつもりなのね。」
「無茶よ。回復したばかりなんでしょ?」
パドレが言う。
「メレアーデ・・お前が無事で安心した。」
「しかしこの時代に来ていたとは。」
「俺のせいだな。本当にすまない。」
「私は大丈夫よ。色々あったけど主人公に助けてもらえたから。」
「それよりも叔父様、行くなら私も連れて行って。」
「何か手伝えることがあるかも知れないわ。」
「主人公だってそう思うでしょ?二人で叔父様を助けましょうよ。」
パドレが言う。
「時空の狭間にある時獄の迷宮には一度でもそこへ到達した者しか行くことが出来ない。」
「いかに時渡りのチカラが強かろうと時獄の迷宮に入るのは不可能だ。」
「今は一刻を争う時だ。」
「ただマデ神殿になら時獄へと至る特別な方法があるかも知れない。」
「所詮言い伝えに過ぎないが。」
「すっかり世話をかけたな、主人公。」
「無事にやり遂げたら改めて礼に来よう。」
「それまでメレアーデのことを頼む。」
「メレアーデも気持ちだけで充分だ。」
「絶対マローネを救い出してみせる。だからあまり心配するな。」
パドレは時獄の迷宮に旅立って行った。
「心配するなって言われてもそんなの無理だわ。」
「パドレ叔父様の言うマデ神殿というのは王都キィンベルの北西にある禁足地よ。」
「そこに時獄の迷宮へと至る手段が・・」
「考えても始まらないわね。」
「まずは王都に行ってマデ神殿に入るにはどうすればいいかを探ってみましょう。」
エテーネルキューブからキュルルが現れた。
「どうやら方針は決まったキュね。」
「王都キィンベルを目指してエテーネルキューブ起動キュ!」
主人公とメレアーデは5000年前の王都キィンベルに時渡りした。
「エテーネ王宮が健在ならマデ神殿の事も調べられてんでしょうけど・・」
「仕方がないわね。王都の人達にマデ神殿の事を聞いてみましょうか。」
主人公達が王国軍司令部に行くと、そこにはなんとクオードの姿があった。
クオードが兵士と話しをしている。
「黒曜の隕石孔には誰も近づかせるな。」
「異変があったらすぐに知らせろ。どんな些細なことでもな。」
主人公達の姿に気づくクオード。
「姉さん!それに主人公・・」
兵士は部屋を出て行った。
メレアーデが驚く。
「クオードなの?生きていたのね!」
「背なんかすっかり高くなって。弟っていうよりもむしろお兄さんね。」
「姉さんは変わらないな。記憶の中の姉さんのままで嬉しいよ。」
「エテーネに帰ってからすぐ姉さんの捜索を始めたんだが手がかりすら見つけられず手詰まりだった。」
メレアーデが言う。
「そう。心配かけたみたいね。」
「あなたは10年以上もウルベア地下帝国で過ごしていたそうね。」
「そして処刑されたとも。一体どういう事なの?」
エテーネルキューブを手に取るクオード。
「ああ、こいつのおかげでね。」
「主人公の弟と俺のために作った二つのエテーネルキューブ。これはその一つだ。」
「あの時・・深手を負い地面に激突する寸前にこいつが発動して俺はこの時代に還ってこれた。まさに奇跡だったよ。」
メレアーデが聞く。
「そのエテーネルキューブを作るためグルヤンラシュと名乗ってガテリアの人達に酷いことをしたって本当なの?」
「この時代に・・エテーネ王国に戻るにはああする他、道はなかった。」
メレアーデが言う。
「弁解しないのね。」
「一つの国家を地上から消し去って。」
「一体どれだけの人命が失われたことか。」
「クオード、ねえ、分かってるの?」
「あなたがやったことの意味を。」
「民の幸せを守る王になるって私に誓ったわよね?異国の民になら何をしたって平気だっていうの?」
「俺を責めて気が済むのならいくらでも責めればいい。」
「だがどんな犠牲を払おうともあの時代で果てる訳にはいかなかった。」
「エテーネ王国を滅亡から救うまで俺は死ねない。この命はエテーネのために使う。」
「・・そうか。まだ知らないんだな。我が国に迫る滅びの危機を。」
「俺は未来のウルベア帝国で、この時代―エテーネ王国が跡形もなく水没し滅亡したという歴史を知った。」
「原因は地脈エネルギーの急激な枯渇によるものらしい。」
「そして今まさにそれが起こっていることが確認された。」
「だがエテーネ王家につらなる者として俺はこの国を、アストルティアの歴史からみすみす消させるつもりはない。」
「国を救うために帰ってきたんじゃないとすると、他に事情があるのか?」
主人公は封印されているマデ神殿に入るための手段を探していると伝えた。
「マデ神殿―あそこは王家の祖先によって封印された禁足地だったはず。」
「詳しく調べるなら古文書を当たるしかない。」
「いいだろう。何か理由があるようだし、神殿に入る方法は俺が探そう。」
「代わりに水没の阻止に協力して欲しい。」
「姉さん、俺の事を信用してくれないか。」
「確かにこの手は血で汚れている。」
「だがエテーネの救済に繋がるなら約束を違えたりはしない。」
「それだけはこの命にかけて誓える。」
溜息をつくメレアーデ。
「どうしてウルベアやガテリアの人達にも今と同じだけの思いやりをかけてあげることが出来なかったの。」
キュルルが現れた。
「メレアーデには抵抗感があるみたいキュね。」
「けどクオードと手を組むのがもっとも効率的キュ。」
「遠回りしてる時間はないキュ。」
メレアーデが言う。
「いいわ。申し出を受けましょう。」
「滅亡の淵に立たされたエテーネを救うのはあなただけでなく私の務めでもあるのだから。」
「ただしやるからには絶対に成功させるわよ。」
「この国に生きる全ての人達の未来を守り抜いたその時、クオード、私はあなたを赦します。」
「必ずエテーネを救ってみせる。」
「早速だが計画の話に移ろう。」
「まず王都の自宅にいるディアンジを訪ね、あいつの話を聞いてやって欲しい。」
「計画にはある錬成物が必要なんだが、どうも苦戦しているようでな。」
「チカラになってやって欲しいんだ。」
「俺の方は計画全体を指揮しつつ、マデ神殿への入り方を調べておく。」
「それとエテーネの滅亡については無用な混乱を避けるためにも一切口外しないでくれ。」
「では頼んだぞ。」
主人公とメレアーデはディアンジの家に向かった。
「やや、主人公さんじゃないですか!いらっしゃい。お久しぶりですねえ。」
メレアーデの姿に気づくディアンジ。
「メレアーデ様!私は幻でも見てるんでしょうか。」
「幻ではないから安心して。」
「私達はクオードに頼まれて来たのよ。」
「ディアンジ、私達あなたを手伝うために来たのよ。」
「地脈エネルギーの枯渇でエテーネが水没する。」
「この危機をどうにかするための計画が進行中だと聞いたけど上手くいってないの?」
ディアンジが言う。
「実はそうなんです。」
「私の腕が未熟なばかりに計画に必要な地脈の結晶の錬金に手間取ってまして。」
「出来れば自力で完成させたかったのですが、この上はどなたか優秀な錬金術師の方に代役を頼もうかと。」
「かなり高度な錬金術ですから相当な実力のある錬金術師でないと・・すぐには思い当たりませんが。」
「そういうことなら私と主人公で地脈の結晶を錬金出来そうな人を捜すわ。」
「主人公は頼りになるから大丈夫。」
ディアンジから地脈の結晶のレシピを受け取った主人公は、メレアーデと一緒に自由人の集落にいるワグミカの家に向かった。
ワグミカを説得して地脈の結晶を錬金してもらった主人公達はディアンジの家に戻った。
主人公はディアンジに地脈の結晶を見せ、自由人のワグミカに錬金してもらった事などを話した。
「ワグミカ様と言えば私がアルケミアに勤めていたころ所長だったお方。」
「私からすれば雲の上のお人でしたよ。」
「錬金術から足を洗い隠居生活を送ってると耳にしましたが、そんなお方の心を動かすなんてさすがですよ。」
「そうそう、私の方でも作戦に必要なもう一つの道具―探知のロッドを完成させました。お受け取り下さい。」
主人公はディアンジから探知のロッドを受け取った。
「それではクオード様から伝えられた作戦の詳細をご説明しますね。」
「あまり知られていないことなんですが、大地の底に溢れる地脈エネルギーというもののおかげでこの島は支えられています。」
「ですがその地脈エネルギーが枯渇しつつあり、遠からずエテーネ王国は島ごと水没すると予測されているんですよ。」
「調査の結果、地の底に潜む何者かが地脈エネルギーの減少に関わっているという原因を突き止めました。」
「そこで地脈エネルギーが枯渇してしまう前に一旦手元に集めて退避させようというのがクオード様の作戦なんですよ。」
「ここでさっきお渡しした探知のロッドが大活躍なんですよ。」
「このロッドを使えば湧点という地上から地脈エネルギーを吸収できる場所が分かります。」
「湧点は王都キィンベル、エテーネ王国領、バントリユ地方に存在するので、この3つの湧点で地脈の結晶を使って地脈エネルギーを吸収して欲しいんです。」
「3ヶ所の地脈エネルギーの吸収が完了したらクオード様への報告をお願いします。」
3つの湧点で探知のロッドを使い地脈エネルギーを地脈の結晶に吸収した主人公は、クオードに報告した。
「よくやってくれた、主人公。」
「3つの湧点から地脈エネルギーを集めて来てくれたようだな。」
「今この大エテーネ島はディプローネ高地に埋蔵されている地脈エネルギーだけで支えられている状態にある。」
「ディプローネ高地にも湧点は存在するが、あえて残しておいたんだ。」
「地脈エネルギーを食い荒らす元凶は、唯一の餌場を求めてディプローネ高地にある黒曜の隕石孔を目指すだろう。」
「お前が黒曜の隕石孔に行けば地底の元凶は地脈の結晶に集められた莫大なエネルギーを感知して地上に出てくるはずだ。」
「なぜなら黒曜の隕石孔こそディプローネ高地の湧点であり、かの地には底知れぬ深さを持つ亀裂があるからだ。」
「出現した元凶を排除する手段はディアンジが用意している。」
「あいつには黒曜の隕石孔でお前を待てと命じておいた。」
「さああと一歩だ。」
「黒曜の隕石孔はディプローネ高地の東の端にある。」
「この国を水没の未来から救ってくれ。」
黒曜の隕石孔に向かうとディアンジが待っていた。
「あ、主人公さん!待ってましたよ!」
「あの亀裂のはるか下に水没の元凶が餌場にしている地脈エネルギーの湧点があるんですよ。」
「島にある3ヶ所の餌場を失った元凶は残された湧点、つまりこの真下に必ずやって来るはずなんですよ。」
「へへへ。まあ全部クオード様の受け売りなんですけどね。」
主人公は地脈の結晶をディアンジに渡した。
「今ここにあるのは地底の餌場の3倍に相当する量の地脈エネルギーなんです。」
「奴は餌場よりこっちに食いつくはず。」
「さあ食いしん坊さん。美味しい餌がありますよー。」
地底から魔物が現れた。
「でも大丈夫ですよ。」
「ちゃんと奥の手を用意してますからね。」
「あの魔物はヨンゲ所長の飼っていた魔法生物のメガロダインですね。」
メガロダインを錬金したツボに封印しようとするが、案の定失敗するディアンジ。
主人公はメガロダインを倒して消滅させた。
「あんな凶暴な奴を仕留めるなんて、さすがは主人公さんですよ。」
地脈の結晶に集めた地脈エネルギーを大地に返した主人公達はクオードのもとに向かった。
「その顔、どうやら水没の元凶を倒してくれたようだな。」
「ザグルフの直感は正しかった訳だ。」
ザグルフが言う。
「以前は感じられた元凶の気配が消えたので黒曜の隕石孔まで行って調査して来た。」
「・・と言う訳だ。」
「お前達の晴れやかな顔と合わせて考えれば計画の成功を確信出来たよ。」
「礼を言う、お前達。」
「エテーネの滅びは無事回避出来た。」
「地の底にうごめく元凶の存在に気付き居場所を特定したのはザグルフだったな。」
「お前の観察眼には何度も助けられた。」
「そしてディアンジ。計画に必要な数々の錬成物をよくぞ揃えてくれた。心から感謝する。」
「それから主人公に姉さん。こんな俺の言葉を信じてくれてありがとう。」
「時見の箱に頼りきっていた我が父―ドミネウスが成し得なかった滅びの回避を自分達のチカラだけで成し遂げたんだ。」
「ここは祝の宴でも設けたいところだが、お前には大事な用があるんだったな。」
「ディアンジ、ザグルフ、さがってくれ。」
「後でまた連絡する。」
ディアンジとザグルフは帰って行った。
「さて、マデ神殿の事だがな。」
「王宮消失に伴い古文書の大半が失われ、調べるのにはかなり骨を折ったぞ。」
時見の鍵を取り出すクオード。
「この鍵を覚えているか、主人公。」
「いにしえの時代に封じられたマデ神殿の扉はこの時見の鍵で解放出来るらしい。」
「こいつは王家の秘奥に通ずるための王たる者の証。」
「マデ神殿もまた秘奥の一つという訳だ。」
「今回は俺も同行する。」
「これが王としての最後の仕事になるだろうからな。」
「ディプローネ高地の北西にあるマデ神殿の扉を開きに行くぞ。」
マデ神殿の扉をクオードが時見の鍵で開けて中に入る。
奥にある部屋の前に行くと、中から声が聞こえてくる。
「引き返せ。この先へ進むこと、看過にあたわず。」
部屋に向かって叫ぶクオード。
「何者だ、怪しい奴め!」
「この神殿は我がエテーネ王家のものだ!」
「無知蒙昧なるマデ氏族の末裔が王家を名乗るか。無様なり。無様なり。」
「自ら封じた扉を開き、再び時見を請いに来たのであろう。」
「だがぬしらの思い通りにはならん。引き返すのだ。マデ氏族の末裔よ。」
メレアーデが言う。
「誤解があるみたいね。」
「時見を求めて来たんじゃないわ。」
「私達は時獄の迷宮への手がかりがここにあると聞いてやって来たのよ。」
「時獄の迷宮・・時の牢獄・・」
「時空の狭間と呼ばれるあの場所を、ぬしはなにゆえ目指すのか。」
メレアーデが答える。
「時見の箱を破壊するために。」
「ぬしらの祖先が生み出したあのおぞましき箱を壊しに行こうと言うのか。」
「面白い。話を聞いてやろう。」
「真っ直ぐ進み我もとへ参れ。」
時見の泉に入ると、見慣れない装置に座っている男がいた。
その男の容姿はキュルルとそっくりだ。
クオードが言う。
「先程の声の主は貴様だな?」
「魔物・・いや、魔法生物か?」
「キュレー。」
「やれやれ、建国の祖の一角たる偉人を相手に無礼極まりない奴だキュレー。」
「私の名は漂流者キュレクス。」
「エテーネ王国建国の祖たる初代国王レトリウスの大親友だキュレ。」
クオードが言う。
「キュレクスだと?つくならもう少しマシな嘘をつけ。」
「700年以上も昔の歴史上の人物だぞ。」
「そもそもキュレクスは人間のはずだ。」
漂流者キュレクスが言う。
「私はまごうことなきキュレクス本人。」
「アストルティアとは異なる世界より来訪した、言うなれば異界生命体だキュレ。」
「故に人間よりも遥かに長寿キュレ。」
「かたやレトリウスの子孫は着々と代を重ね、クオード、お前で50代目キュレね。」
「時見の箱に心を奪われた先王と違い、お前は時見に頼ること無く迫る滅びを上手いこと避けたキュレ。感心感心。」
「それにしても面白い姉弟だキュレー。」
「時渡りで別々の世界へ流され、それぞれ異なる時間を過ごしたキュレね。」
「なるほど。姉と弟で生体継続時間が逆転してるのも納得キュレ。」
メレアーデが言う。
「あなた・・本当にキュレクスなのね。」
「そう言ってるキュレ。」
「いい機会だから祖先に都合のいい歴史を吹き込まれたお前達に真の歴史を教えてやるキュレ。」
「そもそもお前達が宿す時渡りのチカラは私が盟友レトリウスに分け与えたチカラが子々孫々遺伝したものキュレ。」
「しかし私は人間を見違ったキュレ。」
「レトリウスがいかに高潔な人物であっても、その子孫まで同様であるとは限らない。」
「人間とは世代を重ねる生き物だと当時の私は理解していなかったキュレ。」
「エテーネを築いたレトリウスはとっとと死んでいったキュレ。」
「残された子や孫は王国の未来を見て欲しいと私を頼ったキュレ。」
「そうしてエテーネ王国は私の時見を活用し、自然災害や飢饉による危機を回避してみるみる栄えていったキュレ。」
「しかし最初こそ神のごとく敬っていた私を、祭司達―レトリウスの子孫は欲するままに時見を行うため・・謀ったキュレ。」
「当時の祭司長は錬金術で作った道具を用いて私から時見の源泉を奪った挙句、マデ神殿ごと私を封印したキュレ。」
「その後彼らは私の力の源から物言わぬ時見の能力だけを持った存在を生み出して、例の箱―時見の箱に詰めたキュレよ。」
「そして時見の箱と交信出来るのは時渡りの力を受け継ぐ建国王レトリウスの血筋の者のみ。」
メレアーデが言う。
「私達の祖先がそんな酷いことを行っていたなんて・・」
「返せるものならその時見の源泉をお返ししたいのですが、王宮が消えた今となっては失われてしまったかも。」
「いいや、まだ存在しているキュレ。」
「この島のどこかからかつて私の一部だった時見の源泉の波動を感じるキュレ。」
「奪われた時見の源泉はお前達の言葉で言うと球根みたいな形をしているキュレ。心当たりはないキュレ?」
メレアーデが言う。
「球根・・それってもしかして前に主人公と王家の温室に行った時に目にした巨大な球根。」
「あれがキュレクスさんの時見の源泉かも。」
「もし時見の源泉を返してくれたなら、お前達が行きたがっている時獄の迷宮へ行けるようにしてやるキュレ。」
主人公達は軍区画の転送の門から王家の温室に向かった。
「ねえ主人公。この大きな時の球根の親球が時見の源泉じゃないかしら。」
「以前ここに来た時もこの親球からは時渡りの力にも似た不思議な力を感じたのよ。」
その後主人公達は苦労して巨大な球根を掘り返し、その球根をキュレクスに届ける。
「おお、懐かしいこの波動。」
「まごうことなき時見の源泉キュレね。」
「奪われていたものを返されて礼を言うのもおかしな話キュレ。」
「けれど時見の源泉を奪ったのは遠い祖先の仕業でお前達ではないキュレ。」
「ここは素直にありがとうを言うキュレ。」
「では早速いただくキュレ。」
キュレクスは時見の源泉を体に取り込んで力を取り戻した。
「ブフィー。久方ぶりに真の力を取り戻したキュレ。」
「かつてない高ぶりを感じるキュレ。」
「700年ぶりの時見を試してみるキュレ。」
キュレクスが時見を始める。
「見える!時が見える!」
「・・エテーネ王国は間もなく滅びる。」
「お前達は700年の長きにわたり時見を繰り返して来た。」
「大津波、大飢饉、水没、様々な災厄を避けてきたが、それは運命を歪める事に他ならぬ。」
「運命を変えるその度に歪みは増大し、回避した幾多の災厄は束ねられより大きな災厄となって牙を剥く。」
「次なる滅びはこれぞ。」
「隕石の落下で滅ぶ未来が見えるキュレ。」
「王都を守る守護障壁があろうとも絶対に防ぎようがないキュレ。」
「水没する未来を回避した事によってより大きな災厄が襲ってくるキュレ。」
クオードがまた癇癪を起こす。
「ふざけるな!俺達のやったことが無意味だったとでも言うのか!」
「このペテン師め!お前の時見など誰が信じるものか!」
クオードは一人で帰っていった。
「やれやれ、せっかちな奴だキュレ。」
「でもお前達は動じていないキュレね。」
メレアーデが言う。
「あなたが真の時見の使いなら、隕石による滅びをも回避する未来を見せられる。そうですよね?」
「たとえ回避したそばから次の滅びが襲ってきたとしても、私達は黙って滅びを受け入れる訳にはいかないわ。」
「ブッフォフォ。肝の据わった奴だキュレ。」
「お前からは確かにレトリウスの血を感じるキュレ。」
「そんなお前には隕石落下を阻止するとっておきの秘策を授けてやるキュレ。」
「王都キィンベルの中央広場には永久時環と名付けられた砂時計のような構造物があるのを知っているキュレ?」
「永久時環はただの芸術作品ではないキュレ。」
「空中に散らばる微量な時渡りの力を抽出し、蓄える機能を備えた装置なのだキュレ。」
「かつてレトリウスと腹心のユマテルという錬金術師が子孫が起こすであろう過ちを予見して構造したものキュレよ。」
「あいつらはたいした知恵者だったキュレ。」
「永久時環を用いれば隕石という災厄さえもどうとでもなろうキュレ。」
「ただし永久時環を起動させるにはレトリウスの血をひく者―メレアーデよ、お前が資格者の証を身につける必要があるキュレ。」
「お前からはもっとも強くレトリウスの血を感じるキュレ。」
「ここを出て右手の通路を進めばマデ氏族の叡智が眠る祭具棟と呼ばれる場所に辿り着けるキュレ。」
「まず祭具棟へ行って花のリストレットを探し、それを身につけて戻ってくるキュレ。」
「話の続きはそれからキュレ。」
主人公とメレアーデは祭具棟に向かい、花のリストレットを探し出した。
メレアーデは花のリストレットを身につけ、キュレクスのもとに戻った。
「おお、戻ってきたキュレね。」
「花のリストレットは見つけたキュレね。」
「早速、永久時環の起動法を伝授するキュレ。」
「もっと側に来るキュレ。」
「脳に直接大量の情報を送るからちょっと具合が悪くなるかも知れないけど、じっと我慢して耐えるキュレよ。」
そこにマローネが現れた。
「私は正しき時の流れの守護者。」
「来るべき未来を妨げんとする者よ。」
「キュロノスの裁きを受けよ。」
マローネが時空に亀裂を作ると、そこからキュロノスが姿を現した。
「貴様がキュレクス。我が祖にして同等の能力を持つ個体。」
「なんとちっぽけな。失望を禁じ得ない。」
「なれど貴様の存在を許したとあれば、雑音なき世界を到来させる妨げとなる。」
漂流者キュレクスが言う。
「哀れな。時見を通じ、幾度となく人間達の闇を直視し続けた果てにお前自身が歪んでしまったキュレね。」
エテーネルキューブからキュルルが現れた。
どうやらキュルルは寝ていたようだ。
「騒がしいキュ!安眠妨害っキュよ!」
漂流者キュレクスがキュルルの存在に驚く。
「キュレレ?お前は私の・・」
キュルルに気を取られたスキをつかれ、キュロノスが放った光の楔がキュレクスの身体を貫く。
「邪魔者は排除した。」
「残るは時の異分子に協力する同祖の個体のみ。」
「なれど時見すら出来ぬ未熟な個体など手を下すに値せず。」
「我こそは唯一無二の時の支配者。並ぶ者なき究極の存在。」
キュロノスとマローネは姿を消した。
漂流者キュレクスが最後の力を振り絞る。
「小さき者よ・・私の側に・・」
キュルルが言う。
「僕の事はキュルルと呼ぶキュ。」
「お前を見てるとモヤモヤするんだけど、一体何者なんだキュ。」
「その様子だと私の事はおろか、自分が何者かも理解していないキュレね。」
「はやく私の手を・・取るキュレ・・」
「お前もまた私の力の源から分化した存在・・」
キュルルがキュレクスの手に触れる。
「それって親子みたいなものキュ?」
「親子という概念には当てはまらないキュレ。」
「私達は同一にして異質なる存在・・」
「時空の狭間をさすらう異界生命体・・」
「もう時間がないキュレ・・」
「キュルル、お前に私の知識と能力の全てを授けるキュレ。」
キュレクスがキュルルに力を送る。
「キュキュキュ!これは・・この膨大な知識は・・」
「・・そうかキュル。エテーネルキューブが作られた時に使われた時の球根・・」
「あれが僕に・・」
キュレクスの身体は光とともに消えてしまった。
キュルルがキュレクスの死を悲しんでいる。
「おかしいキュ。胸が・・胸が苦しいキュ。」
「シクシクと痛みが消えないキュ。」
「たった今出会ったばかりの相手に調子を狂わされるなんて理解不能キュ。」
「すみやかに気持ちを切り替えるキュ。」
キュルルが立ち直った。
「アイツから受け取った知識に永久時環の起動の仕方があったキュ。」
「隕石落下の未来を回避したかったら急いだ方がいいキュ。」
「分かったわ。王都の広場にある永久時環を動かしに行きましょう。」
メレアーデは先に一人で走って行ってしまった。
主人公も時見の泉を出ると、そこに黒猫のチャコルがやって来た。
チャコルは赤白く光り、メレアーデに姿を変えた。
「久しぶりね、主人公。」
「悪鬼ゾンガロンに猫の姿にされたでしょ。」
「あの時ラーの鏡の力で元の姿に戻れたんだけど、猫への変身能力は残っていたの。」
「その力を使って幾度となくあなたを導いて来たけれど、いつもいつも思わせぶりなことしか言えなくてごめんなさい。」
「決定的な事を伝えてしまうと、正しい未来への道筋が閉ざされてしまうかも知れないから。」
「これで最後になるというのに、やっぱりたいしたことは言えないわね。」
「ひと目でも顔を見れて良かった。」
「キュルル、あなたもよ。」
「これから私は最後の役目をまっとうするわ。」
「この島に生きる全ての民を守り、エテーネの未来を切り開いて見せる。」
「命に代えても成功させてみせるわ。」
「それが王家に生まれた者の務めだから。」
「二人ともさようなら。」
「願わくば私達の選ぶ道が正しき未来へと繋がっていますことを。」
キュルルが言う。
「キュロノスを倒して滅びの未来を回避出来たなら、僕達はきっと再会出来るキュ。」
「主人公を信じるキュ。」
「僕達は必ずキュロノスを倒すキュ。」
「キュロノスを倒したら迎えに来て。」
「ずっとずっと待っているから。」
メレアーデはキュレクスが座っていた装置がある時見の泉へ一人で入って行った。
キュルルが言う。
「あいつは全てを知ってしまったメレアーデだったキュね。」
「メレアーデにならって僕達も成すべき事をまっとうするキュ。」
「永久時環を動かしに王都へ向かうキュ。」
王都キィンベルに向かうと隕石が目前にまで迫っていた。
「そんな・・もう・・」
キュルルがメレアーデに言う。
「まだ望みはあるキュ。」
「王都を守るバリアが破壊される前に永久時環を起動させるキュ。」
「あれがキュレクスさんの言っていた王都を守る障壁。」
虚ろな表情のクオードがやって来た。
「クオード!今すぐ永久時環の封印を解いて!」
「時見の鍵があれば出来るはずだから!」
「あれを止めるだと・・」
「そんなこと出来る訳がない・・もうおしまいだ・・」
メレアーデが檄を飛ばす。
「しっかりしなさい、クオード!」
「皆が見ている。」
「王なら民の前で屈する姿を見せてはいけない。」
「永久時環は建国王レトリウスの遺産よ。」
「あれを使えばこの危機も乗り越えられるの。」
「でもその封印を解除するのはエテーネ王にしか出来ない。」
「私達は永久時環の前で待ってるから。」
「必ず来るのよ。」
「あなたがエテーネの国王ならば。」
メレアーデと主人公は項垂れているクオードを置いて永久時環に向かった。
永久時環の前に着いたがクオードに封印を解除してもらわないと動かせないので、クオードが来るのをじっと待った。
すると時見の鍵を持ったクオードがやって来て、しょんぼりしたまま永久時環の封印を解く。
「なんとか封印が解けたキュ。」
「次はメレアーデの出番だキュ。」
「まず永久時環に貯蔵された莫大な時渡りの力を使うために装置と使用者の同期を開始するキュ。」
「頭の中で命じるだけでリストレットが永久時環に意思を伝えてくれるキュ。」
メレアーデが永久時環との同期を始めると、マローネとキュロノスが現れた。
「汝らはこのまま滅びるべき存在。」
「これ以上時を歪めることは許されぬ。」
「消えよ。新たなる異分子。」
その様子をぼーっと見ていたクオードがやっと目を覚ます。
「狙いは姉さんか!」
マローネが力を使い果たして倒れ込む。
「所詮は代用品か・・」
「悪しき存在を産み落とした祖先の過ちを今代の王がこの手で断ち切る!」
「エテーネの歪みを正すため、滅びよ!時見の箱!」
キュロノスの力が弱まったスキをついて、クオードが一太刀を一太刀を浴びせる。
「グギイイアア!」
しかしすぐにキュロノスの反撃に合い、光の楔で身体を貫かれた。
「おのれ・・エテーネの血族め。」
「かりそめの物といえども、この我が器を損壊せしめるとは。」
「やむを得ぬ。」
「ここは退き壊れた器を捨て、真なる器の羽化を急ぐとしよう。」
「来る終焉の訪れを震えて待つがよい。」
キュロノスとマローネは消え去った。
メレアーデが永久時環との同期を終えたようだ。
「主人公・・私どうしちゃったのかしら。」
同期中、メレアーデの意識は無かったようだ。
キュルルが言う。
「驚いている場合じゃないキュ。」
「メレアーデ、今すぐ永久時環を操作して隕石の落下を食い止めるキュ。」
「念じるだけで出来るからやってみるキュ。」
メレアーデが永久時環を操作すると、隕石の落下が止まった。
「すごいわ。完全に止まった。」
「今はあの隕石の時間を遅らせただけキュ。」
「でもこれで隕石が地面に到達するまで約100年の時間が稼げたキュ。」
倒れているクオードに気がつくメレアーデ。
「クオード!ああ、なんてことなの・・」
「姉さん・・隕石はどうなった?」
クオードの最後を悟ったメレアーデが嘘をつく。
「大丈夫。隕石は消えたわ。」
「もう何の心配もいらないのよ。」
「もう何も起こらない。エテーネは救われたのよ。」
メレアーデがクオードの顔に手を添える。
「私はあなたを赦すわ、クオード。」
「幾千、幾万の憎しみが向けられようとも、私だけはあなたを赦す。」
「ありがとう、姉さん・・」
「知られるのが・・怖かった・・」
「姉さんに・・グルヤンラシュの・・」
メレアーデが言う。
「あなたがやったことを聞いたときはショックだったし、悲しかったわ。」
「叱り飛ばしてやりたかった。」
「でもね、何があっても私はクオードのお姉さんよ。」
「あなたを憎んだり嫌いになったりなんて出来ないわ。」
クオードがエテーネルキューブを取り出す。
「姉さん・・エテーネを・・頼む・・」
「一人にして・・ごめん・・」
クオードは息を引き取った。
メレアーデが涙をこらえながらエテーネルキューブを受け取る。
「では行きましょう、主人公。」
「私達にはまだなすべき事があります。」
キュルルが言う。
「いよいよ時獄の迷宮に向かうキュね。」
「そのための知識はキュレクスからしっかり受け継いでいるキュよ。」
「時獄の迷宮に行く方法だけど、キューブにちょっとした設定を施すだけで行けるようになると判明したキュ。」
「二人ともキューブを出すキュ。」
「早速設定し直すキュ。」
二つのエテーネルキューブに設定施すキュルル。
「上手くいったキュ。」
「行きましょう、時獄の迷宮へ。」
「みんなでマローネ叔母様を救い出し、キュロノスを倒しましょう。」
主人公とメレアーデはそれぞれのエテーネルキューブを使って時獄の迷宮に向かった。
時獄の迷宮に着くと、そこはエテーネ王宮の中だった。
「着いたキュ。ここが時獄の迷宮だキュ。」
メレアーデの姿が見当たらない。
「大変キュ!メレアーデがいないキュ!」
「どうしてこんな事に・・」
「ちょっとキュレクスの知識をあさってみるキュ。」
「・・どうやら時獄の迷宮は人それぞれの心の在り様によってその構造が変わる特殊な法則に支配されているらしいキュ。」
「メレアーデはこことは別の場所に到着しているはずキュ。」
「探索してるうちにきっと合流出来るはずキュ。」
「見覚えがあると思ったらここは懐かしのエテーネ王宮だったキュね。」
「キュロノスは自分の根城として利用するため、時空の狭間にエテーネ王宮を飛ばしたのかも知れないキュ。」
「立ち止まってても始まらないキュ。」
「はぐれたメレアーデを探しつつ奥へ進んでみるキュ。」
主人公が奥に進んで行くとパドレと出会った。
「主人公なのか?」
「俺の事が見えているのだな。」
「どうやら本物のようだ。」
「もう分かっていると思うが、迷宮と化したこのエテーネ王宮では扉の先がまったく別の場所に通じていることもある。」
「しかも過去や未来にさえだ。」
「お前達も別の時間の自分の姿を見てきたんじゃないのか?」
「それにしてもたいしたものだ。」
「まさか本当に時獄の迷宮まで追って来られるとはな。」
「確かキュルルと言ったか。」
「開祖レトリウスの友キュレクスより生ぜしキュロノスと同等の存在。」
「お前の助力があったればこそここまで来ることが出来たと言う訳か。」
キュルルが言う。
「言葉や文字を介さなければ情報伝達も満足に出来ない生き物はつくづく不便キュねえ。」
「仕方がない。手っ取り早く教えてやるキュ。」
キュルルがパドレの頭に情報を流し込む。
「・・なるほど。」
「漂流者キュレクスの力を継いだか。」
「同行していたメレアーデとは到着時にはぐれてしまったようだな。」
「だが進み続ければいずれ合流出来るはずだ。」
「そしてマローネを助け出す機会もきっと巡って来るだろう。」
「キュロノスの事だが、エテーネ王宮の下に時見の神殿があったのを覚えているな?」
「奴はその最奥を拠点にしていた。」
「4体の魔獣のチカラを取り込んだ今、キュロノスは繭から羽化するのを時見の祭壇でじっと待っているはずだ。」
「羽化した究極の肉体が奴の手に落ちれば間違いなく世界は終わりだ。」
「だからそうなる前にキュロノスをたたく。」
「先に進めば、いずれ別々の場所に飛ばされてしまうかも知れない。」
「それでも同じ目的に向かって進み続ければ道は再び交わるはずだ。」
「さあ行こう、主人公。」
扉を進むと早速パドレとはぐれてしまった。
先へ進むと過去のエテーネ王宮に迷い込んでしまった。
ファラスとマローネがいる。
主人公の姿は見えていないようだ。
マローネが抱えている赤子の主人公が光り輝いている。
「おやめなさい、主人公!」
「そのチカラは・・」
それを見たファラスが驚いている。
「これは・・坊っちゃんの身に一体何が・・」
マローネが言う。
「恐怖のあまり時渡りのチカラが暴走しているのです。」
「ああ・・こうなってしまってはもう・・」
赤子の主人公は時渡りをしてどこかに消えてしまった。
「坊っちゃんはどこへ?」
「分かりません・・」
「けれど今ならまだ主人公を追いかけることが出来ます。」
「あの子のチカラの残滓から時渡りの軌跡を追えば、そう遠くない時代に辿り着けるはず。」
ファラスが言う。
「ならば自分もお連れ下さい!」
「すぐ坊っちゃんを追いかけましょう!」
マローネが言う。
「馬鹿なことを!」
「チカラを持たぬ者が時を渡れば恐ろしい呪いが降りかかるのですよ!」
「このまま坊っちゃんとマローネ様を見捨てたとあれば、このファラス、主に申し訳が立ちませぬ!」
マローネが溜息をつく。
「・・分かりました。」
「では主人公の時渡りの軌跡を追いましょう。」
マローネが時渡りのチカラを使うと、ファラスの身体だけが光り始めた。
「マローネ様!これはどうした事です?」
「共に時を渡るのでは?」
「どの道、私には二人の人間を時渡りさせるようなチカラはありませんから。」
「ごめんなさい、ファラス。」
「あの子を―主人公を守って下さい!」
ファラスを時渡りさせたマローネはその場に倒れ込んでしまう。
「ああ・・私は何という事を・・」
キュルルが言う。
「主人公、全ては過去の出来事キュ。」
「その人とは言葉を交わすことも触れることも出来ないキュル。」
「今はひたすら前に進むしかないキュ。」
主人公が時獄の迷宮を進んで行くとメレアーデと出会えた。
「え!主人公?」
「良かった!もう会えないんじゃないかと思ったわ。」
「二人に再会できて嬉しいわ。」
「この時獄の迷宮では誰もがそれぞれの道を行くことでしか先へ進めない仕組みになっているようね。」
「私もここに来るまでにいろいろな場所へ迷い込んだわ。」
「場所だけでなく時間もバラバラで。」
「それどころか私の記憶にない場面で主人公と会っていたりもしたわ。」
「あれは何だったのかしら。」
キュルルが言う。
「それは多分未来に起こることキュ。」
メレアーデが驚く。
「未来なの?」
「あれはいずれ私が行うべき事?」
「今から未来のことを思い悩んでもどうにもならないキュ。」
「今出来るのはキュロノスのいる神殿を目指して進み続けることだけキュ。」
主人公とメレアーデはそれぞれの道を進んで行く。
主人公が扉をくぐると宇宙船アルウェーンの中だった。
しかも以前ごみ処理機に挟まれそうになった事があるゴミ処理場の中だ。
「ここはちょっと前に来たプクリポ達の宇宙船キュ。」
「メレアーデの姿が見当たらないキュ。」
「またはぐれてしまったキュ。」
「まあ今の僕達に出来るのは合流出来ると信じて進み続ける事だけキュ。」
「とりあえずこの場を切り抜けるキュ。」
主人公がごみ処理機を操作して停止させると次の扉が開いた。
以前ごみ処理機を停止して助けてくれた何者かは主人公自身だったようだ。
扉を進んでいくと主人公の弟がいた。
「兄ちゃん!主人公兄ちゃんなんだろ?」
「ああ!良かった。幻じゃないんだね。」
「こんな場所で兄ちゃんと出会えるなんて夢にも思わなかったよ。」
「だけどここは一体どういう場所なんだろう。」
「もうずっとこの建物の中を彷徨ってるんだけど、いくら進んでもいっこうに出られないんだ。」
キュルルが言う。
「それには僕が答えるキュ。」
弟が驚く。
「キュルルじゃないか!」
「そうか。兄ちゃんがおいらのキューブを使っているんだね。」
「僕と主人公は世界の滅亡を阻止するため、ここ時獄の迷宮に乗り込んで来たんだキュ。」
弟が言う。
「兄ちゃん、またそんな大事に首を突っ込んでるんだね。」
「ついこの間ナドラガンドで大変な目にあったばかりだってのに。」
「弟にとってはナドラガンドで別れた直後でも、主人公にとってはウルベア地下帝国で別れて以来キュよ。」
弟が驚く。
「え、そうなの?」
「あれ?ってことはさ、もしかしてあの時キュルルもウルベアにいたんじゃ・・」
「水臭いなあ。なんで姿を見せてくれなかったのさ。」
「ウルベアにいた頃の弟は、まだ僕と面識がなかったキュ。」
「不必要な情報を与えたくなかったキュ。」
弟が言う。
「偉そうなこと言って、本当はまたグースカ眠りこけてただけじゃないの?」
「けど、そんな物言いも懐かしいや。」
「おいらの代わりに信頼できる友達が兄ちゃんを支えてくれてるなら心強いよ。」
「世界の滅亡の阻止だっけ?」
「おいらにも協力させてよ、兄ちゃん。」
「いつも迷惑かけっぱなしだったからね。」
「ようやくおいらの錬金の技を兄ちゃんの役に立てられるかと思うと嬉しいよ。」
すると弟の身体が青白く光だし、身体がどんどん透明になっていく。
「あ、まただよ!」
「くそ・・酷いや。こんな時に。」
「せっかく兄ちゃんに会えたのに!」
「忘れないで、兄ちゃん!」
「どんなに時が過ぎても、この先何が起こっても、おいらはずっと兄ちゃんの味方だから・・」
弟は消えてしまった。
これが時渡りの力を持たない者が時渡りをした時に降りかかるという呪いなのだろうか。
「消えちゃったキュル。」
「まったく弟はとことん落ち着きのない奴キュね。」
「気を取り直して先を急ぐキュ。」
扉を進んでいくと過去のエテーネ村に着いた。
そこにパドレがやって来る。
「どうやら俺が見えているな。」
「過去の幻影でなく時獄の迷宮に来ている主人公に相違ないようだ。」
「どうも俺には見覚えのない村だ。」
「お前には分かるか?」
主人公はここがエテーネの民の末裔達が暮らす村だとパドレに説明した。
「エテーネの民の末裔達の村か。」
「ここがそうなのだな。」
「しかし浮島も街灯も見当たらん。」
「王国が誇る高度な錬金術は失われてしまったか。」
そこに赤子の主人公が輝きながら空から降りてくる。
時渡りをしてここに辿り着いたようだ。
「主人公!なぜ俺の息子が!」
アバ様がやって来た。
「カメ様、どうなされましたか?」
赤子の主人公を発見する。
「赤ん坊じゃと?」
「これは一体どういう事じゃ・・」
赤子の主人公を抱きかかえるアバ様。
「おお、よしよし。泣くでない。」
「一人で寂しかったのかい?」
「ババが一緒にいてやるでな。」
「やや!産着に刺繍が。」
「主人公・・これがおぬしの名かえ?」
「うむうむ、主人公というのか。」
「他に手がかりは・・これはもしや・・」
「古代エテーネ王国の紋章ではないか!」
「おぬしを包んでいたあの輝き・・」
「古代エテーネの民は不思議な術が使えたというが、よもや・・」
「真実は分からぬがこれだけは言える。」
「おぬしはカメ様の申し子じゃ。」
「カメ様から授かった子じゃ。」
「この村の一員として立派に育ててやるぞ。」
「そうじゃ、年寄りの家で暮らすより子供を欲しがってるアーヴ夫婦のもとに預けたほうが良いじゃろうな。」
「この先、弟か妹が出来るかも知れんしのう。」
「少しでも賑やかな家庭で暮らすことがお前さんにとっても幸せじゃろうて。」
その様子を見ていたパドレが言う。
「俺の子が流れ着いたここは一体いつの時代なのだ?」
キュルルが言う。
「わざわざ探そうとしなくてもお前の息子ならほら、目の前にいるっキュ。」
「だいぶ生体継続時間は進行してるけど、この時代に出現した赤ん坊と主人公はまごうことなく異時間同位体キュ。」
パドレが主人公に聞く。
「本当にさっきの赤ん坊はお前なのか?」
主人公は頷いた。
「やはりお前なのか・・」
「だが俺の記憶の中の主人公はいつまでも赤ん坊のままでな。」
「こんなに成長してるとは思いもよらなかった。」
「なんという、その・・親子の再会を祝って握手でもしないか?」
キュルルが言う。
「無理しなくてもいいキュよ。」
「親子の問題は時が解決してくれるキュ。」
「でもキュロノスは待ってくれないキュ。」
「そうだったな。」
「今成し遂げなければならぬのは妻を助け、時見の箱を破壊することだった。」
「扉の先にマローネが待っているはず。」
「今は前へ進むぞ、主人公。」
ついにマローネがいる時見の神殿前の広場に辿り着いた。
パドレは先に到着していた。
タイミングよくメレアーデもやって来た。
「お前達が来てくれて助かった。」
「広場にマローネがいるのが見えるな?」
「マローネの救出に役立つだろうと思って、お前が俺に使った胡蝶の護符を持って来たのだ。」
「これでマローネを解放する。」
「まず気付かれないように近づきたいのだが。」
「お前達のチカラを貸してくれるか?」
「頼みたいのはおとり役だ。」
「俺が胡蝶の護符を使えるようマローネを挑発して気を引きつけて欲しい。」
作戦は上手くいき、マローネがキュロノスを呼び出す前に胡蝶の護符を使うことが出来た。
パドレはマローネの意識の中に入り、マローネを救い出した。
「二人とも、面倒をかけたな。」
「おかげでマローネを救い出すことが出来た。」
「マローネの精神世界で蝶を追い、キュロノスの支配を断ち切った。」
「目を覚ませばきっと元通りのはずだ。」
「だが俺達はキュロノスの始末を急がねばならん。」
「ここで目覚めを待つのはあまりに時間が惜しいな。」
メレアーデが覚悟を決める。
「私が叔母様を連れて脱出するわ。」
「叔父様と主人公は先にキュロノスを倒しに行って。」
「叔母様を安全な場所にかくまったあと、私もすぐにあとを追うから。」
パドレが言う。
「いや、お前が戻る必要はない。」
「キュロノスとの決着は俺達に任せておけばいい。」
「そんな・・いえ、叔父様の言う通りね。」
「私がいるとかえって足手まといになるだけだもの。」
「でもおかげで気づけたわ。」
「私にしか出来ない事があるって。」
エテーネルキューブを取り出すメレアーデ。
「クオードが託してくれたこのキューブがあれば、今の私なら自分の狙った通りの時代に飛ぶことが出来るはず。」
キュルルが言う。
「メレアーデ、もしかしてこれから長い長い旅路へ歩み出そうと考えているキュね。」
「主人公、これまであなたは私の知らない私に何度も導かれてきたはずよ。」
「エテーネ王宮の牢獄や1000年前のグランゼドーラ王国・・」
「黒猫の姿に変身していた私に。」
「どんな妨害にあおうとも、あなたが必ず今この時代に到達出来るよう私が導いてみせる。」
「この時獄の迷宮で私は私の成すべきこの先の事を見てきたのよ。」
パドレが言う。
「メレアーデ、どうやら思っていたよりずっとお前は強くなっていたのだな。」
「マローネの事は頼んだ。」
「俺達はキュロノスを倒し、アストルティアの未来を守り抜く。」
「主人公、次に会えるのはきっと墜落前のドミネウス邸。」
「私があなたと初めて会ったあの日ね。」
「再会できるのを楽しみにしているわ。」
メレアーデはエテーネルキューブを使い、マローネとともに時渡りした。
パドレとともに時見の神殿に向かう。
「俺がキュロノスの傀儡だった頃はこの先が時見の神殿だったはずだが。」
「奴のことだ。俺達を妨害するため、神殿にも手を加えているだろうな。」
神殿へ向かうエレベーターに乗り込む。
「エテーネの村でお前を拾ったご婦人は知り合いの夫婦にお前を預けると言っていたな。」
「どんな人達なんだ?今も健在なのか?」
主人公はパドレにエテーネの村の両親の事を話した。
「立派な方に育ててもらったのだな。」
「今のお前を見ていればよく分かる。」
「その方達には感謝してもしきれない。」
「だが本音を言えば、成長していくお前のそばでお前と同じ時間を過ごしたかった。」
「マローネとて同じ思いだろう。」
「そうだ、マローネはお前が自分の息子だと知っているのか?」
首を横に振る主人公。
「全て終わったら一緒にマローネに会いに行こう。」
「行方不明の夫が成長した息子を連れて帰ってきたとあれば、あいつもさぞやびっくりするだろうな。」
エレベーターが時見の神殿に到着した。
「エテーネ王国とキュロノスの因縁を断つ。」
「それが王族として生まれた者の義務だ。」
「兄上ドミネウスは時見に依存したがためにキュロノスのいいように利用された。」
「俺は俺でキュロノスの傀儡と成り果て、奴の企みに手を貸してしまった。」
「そしてこの手で兄上を・・」
「決してあがなうことの出来ない罪だ。」
「だからこそ俺はこの身に代えてでもキュロノスを討たねばならない。」
「お前もまた自らの運命と世界の未来を切り開くためこの戦いに身を投じたのだろう?」
「巻き込みたくないなどと思うのは、それこそ親の身勝手だな。」
「全てを俺の手で終わらせるつもりだったが、事ここに至っては是非もない。」
「情けない父だが手伝ってくれ。」
「主人公、お前のチカラが必要だ。」
主人公とパドレは最奥にある時見の祭壇に向かった。
時見の箱が壊れて空になっている。
「時見の箱が・・」
天井に終焉の繭がある。
「ならばキュロノスはあの中に!」
「来たか、時の異分子よ。」
「我は究極の肉体を手に入れる。」
「そして世に蔓延る不完全な生命体を跡形も無く一掃してくれよう。」
パドレが剣を構える。
「させるか!生まれる前に果てるがいい!」
終焉の繭に斬撃を浴びせると、中から新たな肉体を手に入れたキュロノスが生まれ落ちた。
「そんな攻撃では傷一つつかぬな。」
「この肉体ならば我が復讐も果たせよう。」
「かつて際限なく繰り返された時見の果て。」
「我は貴様ら人間どもの醜悪さ、邪悪さを幾度となく目の当たりにしてきた。」
「なんとも不完全かつ惰弱な存在に使役させられてきたものよ。」
「その絶望の念が我に悟りを与えた。」
「不完全な生物どもは世界を蝕み雑音を生み出す害悪に過ぎぬ。」
「故に絶滅させなければなるまいと。」
「代々の王を我の意のままに操るのは容易かったぞ。」
「時見の託宣でほんの少し不安を植え付けてやれば充分だった。」
「そして我の望みを叶えるのに不可欠な時渡りの使い手―パドレ。」
「お前を堕とすため、あの俗物―ドミネウスを利用せてもらった。」
「かくして我は究極へと至った。」
「あとは世界中の不完全な生物を一掃し、完全なる生命として我のみが存在すれば良い。」
「時の異分子よ。その命を差し出し、我の完全性を示すための礎となれ。」
「黙れ!呪われた異形の怪物め!」
「お前などにこの世界の未来を好きにはさせぬ!」
「いくぞ!主人公!」
主人公とパドレは襲いかかってくる時獄獣キュロノスを倒した。
「世界にとって不要なのは貴様の方だったようだな。」
「主人公、悲願を達成出来たのもお前の協力あってこそだ。礼を言う。」
キュルルが言う。
「主人公!何かがおかしいキュ!」
「キュロノスは確かに生命活動を停止してるキュ。」
「でもそれなのに存在の消滅が認められないキュ。」
その時、時獄獣キュロノスだけの時間が巻き戻り、終焉の繭が再び現れた。
「羽化する前の状態に時間を戻したんだキュ。」
終焉の繭からキュロノスの声が聞こえてくる。
「教えてやろう、不完全な生物達よ。」
「我の完全性とは敗北の事実さえ覆して何度でもやり直せる事にある。」
「そしてその度に我はより強く、より究極へと近づいていくのだ。」
「時渡りのチカラを持つお前達は、我を高みへと押し上げる良き道具であった。」
「だがそれももう終わりだ。」
「時の牢獄に未来永劫囚われるがよい。」
「アストルティアの文明を破壊し尽くし、一切の不完全が排除された雑音無き清浄なる世界を創造しよう。」
「この創造をもって我は時間と空間を支配する神となる。」
キュロノスが放った術により、時の牢獄に囚われてしまった主人公とパドレ。
キュルルが言う。
「ここは時間が圧縮された空間キュ。」
「外の世界と時間の流れる速さが違うキュ。」
「長居すると外の世界ではどんどん時間が経ってしまうキュよ。」
「キュレクスの知識によれば圧縮された時間に時渡りのチカラで介入し、時空の裂け目を作れば脱出できるキュ。」
「そういう事なら早速その裂け目の作り方を教えてくれ。」
キュルルがパドレの頭に情報を流し込む。
「・・主人公に教えるのは不要だ。」
「この役は俺が引き受ける。」
「そう言えば主人公。まだお前から一度も呼んでもらっていなかったな。」
「父さんと呼んでくれないか?」
主人公はパドレの事を「父さん」と呼んだ。
「嬉しいよ、主人公。」
「俺の願いが一つ叶った。」
「いつの日か我が子に父さんと呼んでもらう。」
「乳飲み子だったお前と過ごしていた頃、どれほど望んでやまなかったことか。」
パドレは時渡りのチカラを宿した剣で空間に裂け目を作った。
その裂け目に時渡りのチカラを流し続けるパドレ。
「先に行け!」
主人公はその裂け目を通って時の牢獄を脱出した。
しかしパドレがなかなか出てこない。
「主人公、キュロノスを倒してくれ。」
「そしてマローネの事を頼む!」
裂け目が閉じてしまった。
キュルルが言う。
「時空の裂け目は開いた側の空間から常に時渡りのチカラを放出し続けないと維持することが出来ないキュ。」
「つまり時の牢獄から脱出するにはどちらかが残るしかなかったキュ。」
「それを先に知ったパドレは即座に主人公を行かせることを選んだキュね。」
「さすがの決断力と言わざるを得ないキュ。」
「キュロノスの波動を現代に感じるキュ。」
「パドレの意志を継げるのは主人公だけなんだキュ。」
「キュロノスを倒しに行こうキュ。」
現代の世界に戻ると、そこはすでに破壊し尽くされた世界だった。
「キュキュキュ!これは一体・・」
「間違いなく現代に・・主人公の時代に時渡りしたはずキュ。」
「・・全てが死滅してるキュ。」
「誰もいない。生命の息吹をまったく感じ取れないキュ。」
「生きているのは僕と主人公だけ。」
「もしかしてここは僕らが回避しようとしてきた滅びの未来キュ?」
「僕らが時の牢獄で過ごしたのはたった数分だったけど、現実の世界では数ヶ月も経過していたみたいキュ。」
「その間にキュロノスは宣言通りアストルティアを滅ぼしてしまったキュ。」
上空にある終焉の繭からキュロノスの声が聞こえる。
「不快な雑音を感知。」
「・・時の異分子か。」
「我を討たんがために追ってくるとは凄まじいまでの執念よ。」
「だが全てが終わった後に現れるなどまさに不完全の象徴とも言うべき愚行。」
「我が世界を完全なものとするため排除する。」
終焉の繭から時元神キュロノスが生まれ落ちた。
「我は全ての時間と空間を統べる者。」
「唯一にして絶対なる永劫の支配者。」
「神の座に至った我に抗う雑音どもは全て等しく無力であった。」
主人公は襲いかかってくる時元神キュロノスを倒した。
しかし再び時間を巻き戻そうとするキュロノス。
「キュキュキュ!」
「また時を操って復活しようとしてるキュ!」
「僕が介入してキュロノスの時間操作を妨害するキュ!」
術を放ちキュロノスの時間止めるキュルル。
「あまりもちそうにないキュ・・」
「今のうちにキュロノスにトドメを・・」
「時渡りのチカラを凝集した刃でならキュロノスの核を・・チカラの源を破壊できるキュ!」
「目の前に刃を作るつもりで時渡りのチカラを集中させるキュ!」
「主人公ならきっと出来るキュ!」
主人公は時渡りのチカラを凝集して刃を作った。
「赤く光ってるところを貫くキュ!」
「その奥に奴のチカラの源があるキュ!」
主人公は時渡りのチカラを凝集した刃でキュロノスの核を破壊した。
キュロノスが苦しむ。
「おのれ・・時の異分子・・」
「おのれ・・エテーネ人・・」
「だがこの滅びは絶対不変の終着点。」
「幾度時を渡り未来を変えるべく小細工を重ねたところで叶わぬと知れ。」
「未来永劫アストルティアに再び生命が満ちることは無いであろう!」
キュロノスは消滅した。
消滅したあとには「戦渦の種」が残されていた。
主人公は戦渦の種を手に入れた。
「残念だけどキュロノスの言ってた通り、滅びの未来はすでに確定してしまったキュ。」
「これから過去にさかのぼってやり直そうとしても時間の修正力が働いて必ず世界は滅びてしまうはずキュ。」
「ずっと未来を変えるために戦ってきたけど、僕達は失敗したんだキュ。」
「主人公はこれからどうしたいキュ?」
「まだ人のいる時代に戻ってみるキュ?」
「・・キュキュ!」
「大規模な時渡りの予兆キュ!」
「巨大な何かが迫っているキュ!」
突然、主人公の前に島が出現した。
そしてキュロノスが宿していた時渡りのチカラが島に引き寄せられる。
「キュロノスが宿していた時渡りのチカラが、たった今現れたばかりの島に引き寄せられているキュ。」
「僕らも行って確かめてみるキュ!」
出現した島に向かうと、そこは王都キィンベルがある大エテーネ島だった。
「これは・・5000年の時を超えてエテーネ王国が島ごと現代に現れたキュ?」
「こんなとてつもないこと、一体誰がどうやって・・」
「覚えてるキュ?5000年前のマデ神殿でもう一人のメレアーデが時見の泉に入っていったのを。」
「こんな大それた事をやってのけるのは、あのメレアーデだけキュ。」
「時見の泉にはキュレクスがアストルティアに渡って来るために作った航界船があったはずキュ。」
「航界船には時渡りのチカラを動力にして周囲の空間ごと完全に時渡りさせる驚異のテクノロジーが備わっているキュ。」
「あの船の持つ機能と永久時環に残っていた時渡りのチカラを使って、いずれ隕石に滅ぼされるはずの故郷を救おうとしたキュね。」
「これだけのことをやったからには身体にも相当な負担がかかってるはずキュ。」
「今も無事かどうか。」
「きっとメレアーデは自分が平和に暮らしていた5000年後の世界を世界を思い浮かべて王国を時渡りさせたキュル。」
「でもこの滅んでしまった世界ではメレアーデも時渡りして来た人達も誰も浮かばれないキュ。」
キュロノスが宿していた時渡りのチカラが王都キィンベルの中央広場にある永久時環にどんどん吸収されていく。
「キュロノスが宿していた時渡りのチカラがみるみる吸収されていくキュ。」
「これだけの量があればもしかしたら・・」
「ちょっと永久時環を確かめてくるキュ。」
永久時環の前に向かう主人公とキュルル。
「僕達は幸運に恵まれてるっキュ。」
「二つもの奇跡が同時に起こったキュ。」
「1つ目の奇跡は僕達の倒したキュロノスが莫大な量の時渡りのチカラを残していったことキュ。」
「二つ目は5000年前の世界で時見の泉にこもったメレアーデがエテーネ王国を現代に時渡りさせたことキュ。」
「この二つの奇跡によって永久時環がキュロノスの時渡りのチカラをみるみる吸収して満タンになったんだキュ。」
「これが何を意味するかというと、満タンの時のみに使える永久時環の究極の秘技―因果律操作が可能ってことキュ。」
「主人公、心して聞くキュよ。」
「因果律操作とは僕らに倒されたキュロノスの時間のみをその時点で固定してそれ以外のあらゆる物の時間を滅亡前に戻せるという神業だキュ。」
「つまりキュロノスの存在を消滅させたままこの世界を再生できるってことキュよ。」
「ただし因果律操作は極めて難易度の高い危険な賭けであることは伝えておくキュ。」
「失敗するとキュロノスが復活して全てはふりだしに戻ってしまうキュよ。」
「無理して危ない橋を渡るよりも、キュロノスを倒したこの世界でのんびり暮らす選択もあるキュ。」
「よく考えて欲しいキュ。」
「世界を再生させるか、今のこの世界で生きていくか。」
「主人公はどちらを望むキュ?」
主人公はこの世界で生きていく選択をした。
「この世界で生きていく。それが主人公の選択キュね。」
「主人公は今までよくやったキュ。」
「ここを旅の終着点として静かに羽を休めるのも悪くないキュ。」
「当面は宿を利用するとしていずれは自分の家を手に入れたいキュね。」
「僕もちょっと考えてみるキュ。」
「家のことに限らず悩みがあれば何でも相談にのるから気軽に話しかけて欲しいキュ。」
「そう言えば王立アルケミアの所長の家が空き家になっていたキュね。」
「住まいの問題は早々に解決しそうキュ。」
「ただ僕と主人公で住むにはちょっと広すぎる物件キュ。」
「どうしたキュ?あまり乗り気じゃなさそうキュね。」
「念の為もう一度聞いておくキュ。」
「世界を再生させるか、今のこの世界で生きるか。」
「主人公はどちらを望むキュ?」
主人公は気が変わって世界を再生させる選択をした。
「世界を再生させる。それが主人公の選択キュね。」
「大事なことだから最終的な意志を確認したいキュ。」
「危険を承知の上で世界を再生させると決断したキュね?」
主人公は頷いた。
「主人公の覚悟は伝わったキュ。」
「キュロノスの死という事象を維持したまま世界の時間を戻すのは主人公が考えている以上に繊細な作業キュよ。」
「もししくじったら、ただキュロノスを復活させただけってことになりかねないキュ。」
「けれどアストルティアを元通りにしたいという主人公の意志は固いキュね。」
「主人公がそう望むなら、ここまで頑張ってくれたご褒美に僕が一肌脱いでやらないでもないキュ。」
「上手くいったらお礼に特大チョコレートをプレゼントして欲しいキュ。」
「成功を祈って見守ってて欲しいキュ。」
キュルルは永久時環で因果律操作を始めた。
王都キィンベルの時間が止まり、キュルルがなおも操作を続ける。
因果律操作は成功し、時間が止まっていた王都キィンベルの時間が動き出した。
空は青々としていて世界の滅亡の時ではない。
世界の滅亡を感じさせるあの空は無くなった。
永久時環に貯まっていたキュロノスの時渡りのチカラは空っぽになっている。
キュルルの身体は半透明になり、力なく主人公の手の上に落ちてきた。
「キュロノスの存在は感知できないキュ。」
「因果律操作は成功したキュ。」
「これでアストルティアは元通り。」
「でも今回ばかりはヘロヘロキュ。」
キュルルの身体がどんどん透明になっていく。
「キュロノスを倒すのにかなり消耗して、それに加えて因果律操作まで・・」
「さすがにちょっと無理をしすぎたキュル。」
「僕はキュルクスやキュロノスみたいに成熟してないから・・」
「大きなチカラを使うのは存在への負担が大きいキュ。」
「今回は身体を維持するチカラまで使い切ってしまったみたいキュ。」
「どうやらここでお別れキュ。」
「でも悲しむ必要はまったくないキュ。」
「時の妖精は、肉体が消滅すると存在まで失ってしまう君達とは格が違うキュ。」
「もうこんな風に話せなくなるけれど、僕は世界の一部となってこれからも主人公を見守っていくキュ。」
「君は僕の友達キュ。」
「友達の為にやれることがあるっていうのはちょっと誇らしい気分キュ。」
「楽しい旅路だったキュ・・主人公・・」
「マデ島の時見の泉でメレアーデが主人公が来るのを待っているキュ。」
「迎えに行ってやるといいキュ・・」
キュルルの身体は消えてしまった。
平和になった現代のアストルティアに王都キィンベルとそこに住むエテーネ王国の人達がそのまま残っている。
主人公は飛竜に乗って現代のマデ島に向かった。
マデ島でシスターをやっているマザー・リオーネに話を聞く。
「かつてエテーネという名の王国がマデ島と地続きだった大エテーネ島に存在していた存在していたと文献には記されています。」
「出現したあの島は位置的に大エテーネ島と一致しているのですが・・」
「はるか昔、大エテーネ島は一夜にして水没してしまいエテーネ王国は滅んだはず。」
「だとするとあの謎の島は一体・・」
主人公は現代のマデ島の地下にある時見の泉に向かった。
主人公が時見の泉の扉に触れると、招き入れるように扉が開かれた。
中に入ると、時見の泉がある部屋だけの時間が止まっていた。
主人公が泉に足を踏み入れると、止まっていた時間が動き出す。
泉の中央にあるキュレクスがアストルティアに渡って来るために作った航界船に触れると、中からメレアーデが出てきた。
メレアーデは時渡りのチカラを使い切ってしまったようで、髪が白髪になっている。
「あ・・主人公。迎えに来てくれたのね。」
「またあなたに会えるなんて夢のよう。」
「約束を守ってくれてありがとう。」
「私の時渡りのチカラは尽き果ててしまったようね。」
「けれどやり遂げたんだわ。」
「あなたが迎えに来てくれたということは、エテーネ王国の時渡りに成功した。」
「ここはあなたが暮らす5000年後なの?」
「良かった。本当に良かった。」
「私、エテーネを救えたんだわ。」
「ここで別れた時のキュルルの言葉―必ずキュロノスを倒すって言ってくれたでしょ。」
「二人を信じてこの装置で王都の永久時環に働きかけて王国を時渡りさせたの。」
「過去の私が永久時環を起動させた後にね。」
「その代わり私は5000年前のマデ神殿に一人取り残されてしまったわ。」
「もしマデ神殿が無くなっていたら、私も無事ではいられなかったでしょうね。」
「ねえ、叔父様とキュルルは?」
主人公は今までに起きた事を話した。
「こんな事って・・」
「もう、二人に会えないなんて・・」
「私、とても信じられないわ。」
「時の停止した5000年の眠りの中で、そんなはずないのにずっと夢を見ていた気がするの。」
「平和になったこの時代で、叔父様、叔母様、クオードやファラス・・みんなで幸せに暮らしていく夢を。」
「主人公、ここを出ましょう。」
「ちゃんとエテーネを救えたかどうか自分の目で確かめたいわ。」
マデ島の現在の様子を見て驚くメレアーデ。
「見る影もない・・」
「ほとんど沈んでしまったのね。」
メレアーデは海の向こうに大エテーネ島を見つけた。
「あれは・・キィンベル!」
「良かった。絶望の未来から大勢の命を救えたんだわ。」
「だけど、あの懐かしい空の色はもう見られない。」
「エテーネ王宮も失われたまま。」
メレアーデが腕につけていた花のリストレットが散ってしまう。
そしてメレアーデは涙を流し、髪につけていたリボンをほどいた。
「この時代では存在しないはずのエテーネ王国を復活させてしまった。」
「私は歴史を歪めてしまったのね。」
「でも迫り来る滅びに立ち向かい、必死に生き抜こうとすることが間違いだと思いたくないわ。」
「クオード、誓うわ。」
「あなたが命を賭けて守り抜いたエテーネ王国が、この時代の人々に受け入れてもらえるように尽くすと。」
「それが私達の選んだ道がより良い未来へ繋がったという何よりの証だから。」
「そうよね。」
メレアーデは涙を拭い、王都キィンベルへと向かった。
その後主人公は現代の王都キィンベルにある王国軍司令部軍団長室にいるメレアーデに会いに行った。
「ふふふ。ここに私がいてびっくりした?」
「エテーネ王国を頼むってクオードに託されたことを覚えてるでしょ?」
「あの時の約束を守らないとね。」
「と言ってもあの子の後を継いで女王になる気はないわ。」
「今の私は国家のまとめ役といったところかしら。」
「クオードのような手腕はふるえないけれど、国民一人一人と手を取り合ってこの国を良い方向に導いていくわ。」
「昔クオードがよく言っていたの。」
「全ての民が指針書から解放されればエテーネはさらに発展するって。」
「ここに来るまで長い道のりだった。」
「もし良ければあなたには私の旅路の全てを聞いて欲しいの。」
「主人公。あなたにとって私と離れていた期間は短いものだろうけど、私からすると結構な年月だったのよ。」
「気を失った叔母様を連れて時獄の迷宮を脱出したところで別れたのよね。」
「あの後まずエテーネ王国に戻ったわ。」
「叔母様をかくまうのにうってつけな場所はどこかって考えた時に真っ先に思い浮かんだのがパドレア邸だったから。」
「でもあそこは異型獣に壊されて荒れ放題のままになっていたでしょ?」
「そこで建物の修繕をしつつ、叔母様のお世話を任せるためのメイドや使用人を集めたの。」
「本音を言うと私がつきっきりで叔母様のお世話をしたかったのだけど、私にはやるべき事があったから。」
「どうにか意識を取り戻すまで回復した叔母様をパドレア邸に残し、私は使命を果たすために時渡りをしたわ。」
「クオードから引き継いだエテーネルキューブでね。」
「時獄の迷宮を進む中で知り得た自分の成すべき事をなぞるために。」
「最初の行き先は堕ちる前のドミネウス邸よ。」
「時期は最初に主人公と出会う半年前くらいかしら。」
「屋敷には当然過去の自分がいるから私は猫の姿になって潜り込み、ペットとして自分に飼われたの。」
「自分に飼われてみてつくづく思ったわ。」
「猫ちゃんをあまりかまいすぎるのも良くないわね。」
「やがてあなたが現れて記憶の赤結晶を託したわ。」
「その後すぐ父が王位を継ぎ、みんなでエテーネ王宮へと移ったの。」
「王宮ではクオードと共に現れたあなたが記憶の赤結晶を過去の自分に手渡すのをそばで私も眺めていたのよ。」
「その先はあなたを黄金刑から救うために命の石を届けたり、救出の段取りを記した手紙をファラスに届けたりと忙しかったわね。」
「王宮が消える直前、適当な理由をつけて使用人や兵士を王都へ逃がそうとしたのだけど、救えたのはほんの僅かだった。」
「エテーネ王宮の消失を見届けた後、私はこの時代から1000年程前のグランゼドーラ王国へと向かったわ。」
「神儀の護堂に閉じ込められたあなたとカミルさんを救うためアルヴァンさんを連れ出したり、見張りの塔で待つシュトルケさんのもとへあなたを導いたりもしたっけ。」
「あの時は走り通しで大変だったわね。」
「その後私は最後の役目を果たすため、また5000年前のエテーネに戻ったわ。」
「マデ神殿の時見の泉の前で会ったのを覚えてる?」
「あの直後、泉の中にあるキュレクスさんの航界船に乗り込んだの。」
「歪められた運命によって生じる滅びの災厄からエテーネ王国を救うには、島を丸ごと安全な時代に飛ばすしかないと考えて。」
「私は船の機能を使い、あなたによってキュロノスが倒された未来を思い浮かべながら大エテーネ島を時渡りさせたわ。」
「そしてマデ島だけが5000年前に残り、私は時見の泉の時間を凍結させて長い長い眠りについたの。」
「時渡りのチカラの無い者が時渡りをすると呪いにかかるという言い伝えがあるわ。」
「時渡りの呪いによりどんな症状が出るかは千差万別。」
「言い伝えが正しければこの国の民は全て呪いを受けたことになる。」
「その危険性は理解していたけれど、今エテーネ王国の時渡りによって呪われた人は一人もいないはずよ。」
「時渡りの呪い―それは時間を移動したことで生じる運命の歪み。」
「時渡りのチカラだけがその歪みの影響から身を守ってくれる。」
「今回の時渡りは永久時環に集められた膨大な時渡りのチカラで島全体を覆うことでなされたから大丈夫という訳。」
「ただ呪いとは無関係だけど、人の身で航界船を使ったことで私の時渡りのチカラは完全に無くなってしまったみたい。」
「今回ばかりはどれだけハツラツ豆を食べても回復しなさそう。」
「まあ、あれだけの事をやったのだから命があるだけマシかもね。」
「私がこれからやろうとしているのは、この部屋をエテーネ王国の仮の政庁としてみんなの不満や要望を聞き取る事よ。」
「クオードのような手腕はふるえないけれど、国民一人一人と手を取り合ってこの国を良い方向に導いていくわ。」
「昔クオードがよく言っていたの。」
「全ての民が指針書から解放されればエテーネはさらに発展するって。」
「かつてクオードが思い描いた未来を実現させるためチカラを尽くすわ。」
「あの子は誰よりもこの国を愛していた。」
「それだけに故郷が滅亡したという事実に耐えられなかったのでしょうね。」
「強すぎる思いが非道な行いに走らせたけど、もしクオードがいなければエテーネ王国は確実に滅んでいたと思う。」
「この国に今日があるのはあの子のおかげ。」
「私はクオードの罪を赦した者の責任としてあの子の意志を引き継ぐわ。」
「主人公と話せていい息抜きになったわ。」
「これからもいつでも会いに来て。」
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