ドラゴンクエストX(DQ10) ネタバレストーリー まとめ

ドラゴンクエストX(DQ10)のメインストーリー、サブストーリーのまとめ

エピソード33 魔界大戦

魔仙卿に呼び出された主人公がゴダ神殿に向かう途中、ジャディンの園にイルーシャがいた。
「ここはにぎやかね。」
「命の声に満ちているの。」
「それに光も。」
「闇の中であなたは私を照らしだした。」
「あなたの光はまた私を導くの?」


魔仙卿がやってくる。
「ここにいたか、イルーシャよ。」
「この者はいまだ自分の名前以外思い出せぬようだ。」
「この地でしばし保護していたが、依然その正体はわからぬまま。」
「だがひとつだけわかっていることがある。」
「イルーシャが結晶より現れた時、そなたの体内の魔瘴を取り除いたであろう。」
「この者には魔瘴をあやつるチカラがある。」
「魔瘴を止める方法とはそのことだ。」
「そなたにイルーシャと共に魔界をめぐり、各地の魔瘴塚を封じ込めてほしいのだ。」
「イルーシャはそなたと一緒ならば引き受けると言うのでな。」
「なぜかこの娘はそなたになついているようだ。」
「魔瘴塚がある地はジャリムバハ砂漠、ゲルヘナ幻野、ベルヴァインの森の3箇所だ。」
「どの魔瘴塚からでもかまわぬ。」
「3つの魔瘴塚の封印に成功したら再び我のもとに来るがよい。」
「頼んだぞ。」


主人公はイルーシャとともにジャリムバハ砂漠の魔瘴塚に向かった。
魔瘴塚を見たイルーシャが言う。
「あなたはそこにいて。」
イルーシャがイバラの巻かれた両手を高く上げると、金色の光を放ちながら全ての魔瘴を自分の身体に取り込んだ。
「うっ・・」
少しよろけるイルーシャ。
主人公の頭の中にイルーシャの記憶の一部が流れ込む。
両膝をつき祈りを捧げるイルーシャ。
上空から闇の手が出現し、イルーシャを押しつぶした。


主人公が気がつくと魔瘴塚は消え去り、水が湧き出るオアシスになっていた。
「終わったわ。」
「見えたのね?」
「私は大丈夫。」
「さあ、次の場所に行きましょう。」


ベルヴァインの森の西・オジャロス大公の領地にある魔瘴塚に向かうと、エルガドーラ王太后の弟・オジャロス大公がいた。
「ここは魔瘴が噴き出す魔瘴塚です。」
「近づいたら危ない。」
「はやく離れたほうがいいですぞ。」


イルーシャが言う。
「私なら大丈夫。それを止めにきたの。」
イルーシャは両手を高く上げ、身体に全ての魔瘴を取り込んだ。


魔瘴塚は消え、水が湧き出る泉になった。
それをみたオジャロス大公が驚く。
「いやー、すごいすごい。」
「これは驚きましたな。」
「おっと、申し遅れましたな。」
「ゼクレス魔導国のオジャロスという者です。」
「以後お見知りおきを。」
「領地内の魔瘴塚が活性化しはじめたと聞いて様子を見に来ていたのですが、あなたのおかげでもう安心だ。」
「それにしても魔瘴を操るなんて素晴らしチカラですな。」
「あのような奇跡ははじめて見ましたぞ。」
「大いなる闇の根源から生まれし魔瘴と近しい存在。」
「あなたこそまさに魔瘴の巫女とお呼びするに相応しい。」
「おっと、そろそろ姉上との約束の時間だ。」
「姉上は時間に厳しいからのう。」
「キミたち、魔瘴塚を止めてくれて助かった。」
「ゼクレス魔導国を代表して礼を言いましょう。」
「それでは失敬しますぞ。」


主人公とイルーシャがゲルヘナ幻野の魔瘴塚へ向かうと、魔王ヴァレリアとベルトロがいた。
「日に日に魔瘴が活性化してるようです。」
「いよいよ大魔瘴期も近いってことですかねえ。」
「そんで亡国ゴーラの近くに位置する我らバルディスタが一番危ないってワケですなあ。」


魔王ヴァレリアが言う。
「忌々しい。」
「大魔王選定の儀などというくだらぬ茶番で無駄な時間を使った。」
主人公の姿に気づく魔王ヴァレリア。
「貴様、なぜここに?」
「見かけないカオがあるな。」
「フン、まあいい。」
「さあ、国に帰りアストルティアへの侵攻準備を再開するぞ。」
「我らにはもはや一刻の猶予もない。」
魔王ヴァレリアとベルトロは去っていった。


「あなたはそこにいて。」
イルーシャは両手を高く上げ、身体に全ての魔瘴を取り込んだ。


魔瘴塚は消え、水が湧き出る泉になった。
「終わったわ。」
「さあ、3つ終わったから魔仙卿のところに戻りましょう。」


主人公とイルーシャはゴダ神殿・謁見の間に向かった。
「どうやら魔瘴塚の封印は終わったようだな。」
「言わずとも我にはわかるぞ。」
「見事な働きであった。」
「魔瘴塚の魔瘴を封じることができるとは。」
「イルーシャの魔瘴を操るチカラはやはり本物のようだ。」
「してどうであった?」
「イルーシャは何かを思い出したか?」


主人公はイルーシャと共に見た記憶らしき情景のことを話した。
「ふむ、黒き手とな?」
「それはまさしく大いなる闇の根源を象徴するものだが。」


そこに魔物の幻影が現れる。
「お初にお目にかかります。」
「私はゴーラの国の長老、ヌブロと申します。」
「直接そちらにお伺いできなかったゆえ、こうしてお話させていただくことをお許しくださいませ。」


魔仙卿が言う。
「ゴーラと言ったな。」
「魔幻都市ゴーラ。」
「先代大魔王・マデサゴーラの本拠であった地だ。」
「だがもとより魔瘴の深き地だったゴーラは、ある時その大噴出によって滅びた。」
「誰もがそう思っていたはずだ。」


ヌブロ長老の幻影が言う。
「ホッホッホ。おっしゃる通りです。」
「ですが少数の民は難を逃れ今もなおゴーラの地で暮らしておるのです。」
「かろうじて生き延びた我々ですが、さらなる魔瘴の増加に苦しんでおります。」
「このままでは遠からずゴーラは完全に死の大地となり果てます。」
「そこで、そちらにいらっしゃる魔瘴の巫女様。」
「あなた様をゴーラへとご招待したいのです。」
「あなた様のおチカラは邪眼樹を通して拝見させていただきました。」
「イルーシャ様であればゴーラの深き魔瘴をも鎮められましょう。」
「どうかおチカラをお借りできませぬか?」


イルーシャが言う。
「行ってみたい。」
「私のチカラが役に立つのなら。」
「それに何か思い出せるかもしれない。」
「主人公と一緒ならどんな危険な場所でも平気よ。」


「ホッホッホ。なんとありがたきお言葉。」
「私どもはゴーラにてお待ちしております。」
「道中は魔瘴が深くなっておりますので気をつけてお越しくださいませ。」
ヌブロ長老の幻影は姿を消した。


魔仙卿が言う。
「妙なことになったな。」
「滅びたはずのゴーラが存続していたとは。」
「だがこれはいい機会かもしれぬ。」
「大魔王の覇印というものがある。」
「それは大魔王即位の際に授けられる魔界の盟主たる者の証。」
「いにしえより代々受け継がれていたものだ。」
「しかし先代大魔王マデサゴーラが倒れ、大魔王の覇印は行方不明となった。」
「とはいえ所在の見当はついている。」
「魔瘴に沈みしマデサゴーラの根城・ゴーラの地にこそそれはあるはずなのだ。」
「イルーシャもそなたと共にならばゴーラへ行くと言う。」
「ならばちょうどいい。」
「大魔王の覇印を探してきてはくれぬか?」
主人公は頷いた。
「助かる。」
「そなたならそう言ってくれると思っていたぞ。」
「かの地では何が起きるかわからぬ。」
「ゆえにひとつ心に留めてほしいことがある。」
「それはアビスジュエルのことだ。」
「アビスジュエルの移動先であるアビスゲートは魔界の情勢によっては封鎖されて使えなくなることがある。」
「注意することだ。」
「魔幻都市ゴーラがあった地はバルディア山岳地帯の北西にある閉ざされた門の先だ。」
「深き魔瘴に覆われた地だが、イルーシャの魔瘴を操るチカラがあればたどり着くことができるだろう。」


主人公とイルーシャはバルディア山岳地帯の北西・閉ざされた門に向かった。
「この先ね。」
イルーシャは両手を広げ、閉ざされた門の魔瘴を身体に取り込んだ。
「うっ・・」
少しよろけるイルーシャ。
主人公の頭の中にイルーシャの記憶の一部が流れ込む。
両膝をつき祈りを捧げるイルーシャ。
上空から闇の手が出現し、イルーシャを押しつぶした。
前に見た情景と同じだ。
「心配しないで。私は平気。」
「この先は魔瘴が深いようだけれど、私が魔瘴を払うから大丈夫よ。」
「さあ、ゴーラの長老様に会いに行きましょう。」


高台にいる魔王ヴァレリアがその様子を険しい顔で見ている。


魔幻都市ゴーラにある魔幻宮殿に入るとヌブロ長老が出迎えてくれた。
「改めまして、ようこそゴーラへ。」
「はるばるご足労いただき感謝しまする。」
「ここは大魔王マデサゴーラ様の城だった場所。」
「外は魔瘴に満ちていたでしょう?」
「我らは避難所としてここに住んでおるのです。」
「長き間、魔瘴に苦しめられてきた我らにとって巫女様は救世主なのです。」
「さて、本日はもうお疲れでしょう。」
「お二人のために部屋をご用意しました。」
「どうぞこちらへ。」


そこにペペロゴーラがやってくる。
「よくぞ来た!魔瘴の巫女!」
スプレーを使い、城の壁に落書きをはじめる。
「オレ様の芸術で歓迎してやろう!」
「フン、決まったな。」
「オレ様の芸術に目を奪われて言葉も出ないと見た。」


ヌブロ長老がペペロゴーラを諭す。
「これ!巫女様の前でなんと無礼な!」
「マデサゴーラ様が遺された城の壁に落書きするなと何度言えばわかるのだ!」


「落書きではない。芸術だ。」
「それに貴様らのほうこそ無礼者だろう。」
「いったいオレ様を誰だと思っている?」
「オレ様は魔界の芸術に革命を起こす不世出の芸術家、ペペロゴーラ様だぞ!」


ヌブロ長老が言う。
「お見苦しいところをお見せしましたな。」
「あのペペロゴーラはマデサゴーラ様の孫に当たる唯一の血縁なのですが、これが手のつけられない問題児でして。」
「我らも皆、手を焼いておるのですよ。」


イルーシャが言う。
「私達は探しものがあってここまで来ました。」
「大魔王の覇印というものです。」


「ふむ、大魔王の覇印とな。」
「確かにマデサゴーラ様がそのようなものを持っていたと記憶しておりますが。」
「正直どこにあるかはわかりかねますな。」
「大魔王の覇印については情報を集めさせます。」
「今日はもう休まれてはいかがでしょう。」
「何かわかったらお知らせいたします。」
「お部屋はあちらの大階段をのぼって右手に進んだところにございます。」
「さあ巫女様、こちらへどうぞ。」


主人公とイルーシャは部屋で休むことにした。
「私、闇の中のことは覚えていないけれど、きっと怖い思いをしていた。」
「解き放ってくれて本当に感謝してるわ。」
「まだ何もかもがもやに包まれたまま。」
「けれどあなたのそばにいればなぜだか上手くいくような気がするの。」
「明日も早いわ。」
「ゴーラの国のみんなのため頑張りましょう。」
「おやすみなさい。」


翌朝、大魔王の覇印の行方がわかったと連絡があったので、ヌブロ長老の話を聞くため宮殿奥の玉座の間に向かった。
「さて、伺っていた大魔王の覇印ですが、情報を集めたところ手がかりがつかめました。」
「マデサゴーラ様は大魔王となられた後、とある芸術作品の制作に没頭するためご自分のアトリエへ足しげくお通いでした。」
「どうやらマデサゴーラ様は大魔王の覇印をそのアトリエに置いたままアストルティアへと旅立たれてしまわれたようなのです。」
「やがて魔瘴の大噴出が起こりアトリエも魔瘴の底に沈んでしまいました。」
「かくして大魔王の覇印は失われたのです。」
「マデサゴーラ様が制作されていた幻の大作とともに。」
「くだんのアトリエはゴーラの下層、魔幻園マデッサンスという場所にございます。」
「深き魔瘴に沈み、普通は行けぬ場所です。」
「ですがイルーシャ様であれば深き魔瘴をも晴らすことができましょう。」
「さすればアトリエにもたどり着けるはず。」


そこにペペロゴーラがやってきた。
「マデサゴーラじじいのアトリエに行くと言ったな。」
「ならばその案内役、このペペロゴーラ様が引き受けようではないか。」
「じじいのことならオレ様がゴーラの誰よりも知っている。」


ヌブロ長老が言う。
「ペペロは幼き頃に両親を失いまして。」
「マデサゴーラ様に代わって私が面倒を見ておりました。」
「偉大な芸術家である祖父の影響か芸術を志すようになったのですが、そのマデサゴーラ様も亡くなられて。」
「おっと、話の途中でしたな。」
「近年魔瘴が増えていると話しましたが、その魔瘴が発生していると思われるのが魔幻園のあるゴーラの下層なのです。」
「魔幻園で大魔王の覇印を探されるのであれば、そのついででかまいませんので魔瘴大噴出の原因も調べていただけませんか?」
「魔幻園は今は魔瘴に沈んでおり、もともとあった道も地形が変わってしまって使うことができませぬ。」
「現在魔幻園へ行く手段はただひとつ。」
「マデサゴーラ様が遺された不思議な乗り物・奈落へいざなう棺桶のみなのです。」
「奈落へいざなう棺桶の乗り場でしたらこの宮殿を出て十字路を西に進んでいけばたどり着けましょう。」
「お二人とも、くれずれもお気をつけて。」
「よろしく頼みましたぞ。」


奈落へいざなう棺桶の乗り場に着くと、ペペロゴーラが待ち伏せをしていた。
「フハハハハ!待っていたぞ、魔瘴の巫女。」
「オレ様も魔幻園に行きたい。」
「ゴーラが壊滅する前にマデサゴーラのじじいがアトリエにこもって何か大作を作っていたことは聞いただろう。」
「その作品はマデサゴーラ芸術を愛する好事家たちの間で幻の大作と呼ばれていてな。」
「オレ様はどうしてもそれを見てみたいのだ。」
「というわけだ。」
「オレ様をじじいのアトリエに連れていけ。」
主人公は頷いた。
「フハハハハ!さすがは巫女とその護衛だ。」
「じつに物分りがいいな。」
「オレ様の子分にしてやってもいいぞ。」
「そうと決まればさっそく魔幻園マデッサンスに出発だ。」


ペペロゴーラは奈落へいざなう棺桶に乗り込んだ。
「フン、これがじじいが作った奈落へいざなう棺桶か。」
「魔幻園には別の道から行っていたからはじめてだ。」
「おい、巫女とその護衛。何をしておる。早く乗れ。」


イルーシャと主人公も奈落へいざなう棺桶に乗り込む。
「ペペロゴーラくん。巫女と護衛じゃなくてちゃんと名前で呼んでね。」
「私はイルーシャ。それから主人公よ。」
「それに巫女かどうかもわからないの。」
「記憶がなくておぼえていないから。」


「フン、記憶がないクセに巫女呼ばわりされるがままになっているとは。」
「なんという主体性のないヤツだ。」
「そんな生き方は芸術性に欠けるぞ。」
「もっと自分というものを表現すべきだ。」
「このペペロゴーラ様のようにな。」


主人公たちは魔幻園マデッサンスへやってきた。
イルーシャが魔瘴を取り除きながらアトリエに入ると、壁に描かれた巨大な竜の壁画があった。
「おお、すごいぞ!これは幻の大作のデッサンだ!」
「なるほど。魔法のカンバスの中に生きた魔物たちを封じ込め、それを絵として作品に仕上げようとしていたのか。」
「ほとばしる命の狂宴というのが作品のタイトルか。ふむふむ。」


イルーシャがノートを見つけた。
「この絵の制作ノートみたい。」
「制作の過程が書かれているわ。」
「数百匹の魔物どもを捕らえることにも苦労したが、魔瘴竜の封印には大いに難儀させられた。」
「魔瘴竜を絵の中に封じ込めるには、余が創った特殊な顔料を使って目に紋章を描きヤツを弱める必要があった。」


ペペロゴーラが顔料を取り出す。
「顔料?それはじじいから拝借してオレ様が使っている顔料のことか。」
「この顔料にそんなチカラがあったとはな。」


イルーシャが読み進める。
「そうして絵の中に竜を引きずり込み特性のカンバスに大魔王の覇印を押すことでようやく魔瘴竜を封印できるのだ。」
「果たしてほとばしる命の狂宴は完成した。」
「だが出来上がった狂宴には何かが欠けている。」
「余が望んだものはこの程度か?」
「余は生命のあがきを、苦悩を、葛藤を描きたかったのではないのか?」
「この絵は失敗作だ。捨ててしまおう。」
「だが費やした時間は無駄ではなかった。」
「本当に生きた作品を創る方法、その答えが見えた気がする。」


「幻の大作を作るのに大魔王の覇印が使われていたみたい。」
「手がかりをつかめたわ。」


ペペロゴーラが両膝をつく。
「幻の大作を捨てただと・・」
「終わった。オレ様の芸術人生はおしまいだ。」
「オレ様はここのところスランプでな。」
「いくら絵を描いても何かが足りないと感じていたのだ。」
「だからじじいが没頭して制作したという幻の大作を見ればきっとオレ様の中の芸術家魂に火をつけてくれるはずだった。」
「そうすればゴーラの愚民どもを見返せるような世紀の傑作が創れる気がしたのだ。」
「オレ様はじじいみたいなすごい芸術家になりたかった。」
「それでたくさん絵を描いて努力してきた。」
「だがどれだけ描いても誰にも認めてもらえぬ。」
「ただ落書きだと馬鹿にされるだけだ。」
「じじいと違ってオレ様には才能がないのだ。」


イルーシャが言う。
「ペペロくん、落ち込まないで。」
「捨てられた幻の大作だって見つかるかもしれないわ。」
「諦めないで探してみましょう。」


「ああ、そうだ。思い出した。」
「この近くの谷にじじいがよく失敗作を捨ててた場所があったはず。」
「じじいが失敗作を捨てていた谷・芸術の墓場はこのアトリエの地下におりて進んだ先にある。」


主人公たちは芸術の墓場に向かった。
「おお、あれこそはじじいの幻の大作ではないか?」
「しかし何も描かれていないな。」
その時、カンバスから魔瘴竜が飛び出してきた。


イルーシャが言う。
「マデサゴーラさんが絵画に封じ込めたという魔瘴竜。」
「魔瘴が増えている原因はこれだったのね。」
「目に封印の紋章が入ってる。」
「でも右目だけだわ。」
「もしかしたらもう片方にも紋章を入れれば魔瘴竜を退治できるんじゃないかしら。」


主人公は襲いかかってくる魔瘴竜ジャオマンダを倒した。
すると魔瘴竜ジャオマンダは口から大魔王の覇印を吐き出した。
「それは、大魔王の覇印。」
「この魔物が飲み込んでいたのね。」
ペペロゴーラはマデサゴーラの顔料を使って弱った魔瘴竜ジャオマンダの左目に紋章を書き入れた。
「おのれマデサゴーラ!」
イルーシャがカンバスから魔瘴を吸い取り、主人公が大魔王の覇印を押す。
魔瘴竜ジャオマンダはカンバスに再び封印された。


「イルーシャ、貴様すごいな。」
「あんなにあった魔瘴がなくなってしまったぞ。」
「やけに痛々しいが大丈夫なのか?」


「私は平気。すぐに治るわ。」
「それよりも・・」
カンバスにはペペロゴーラが描いた魔瘴竜の絵が写し出されている。
「かっこいい。」
「ペペロくんの力作ね。」
「私、この絵好きよ。」


ペペロゴーラは嬉しそうだ。
「フハハハ!オレ様のみなぎる芸術的才能が炸裂したのだからこれしき当然の出来映えだ。」
「よし、早速この絵を持って帰りゴーラの愚民どもに見せてくれよう。」
「きっと涙を流しながら感動するだろう。」
「オレ様は先に城へ戻っている。」
「貴様らもさっさと来るがよいぞ。」
ペペロゴーラは魔瘴竜の絵を持って城へ帰っていった。


主人公とイルーシャも魔幻宮殿に戻る。
魔瘴竜の絵を見たヌブロ長老が言う。
「これがマデサゴーラ様の幻の大作・ほとばしる命の狂宴をペペロが完成させた絵・・」
「ふーむ、いまいちピンと来んなあ。」
「やはりマデサゴーラ様の芸術にあるような深淵なる美がこの絵には足りない気がする。」


「フハハハ!貴様らにはまだオレ様の芸術を理解できる審美眼がないのだ。」
「だが今にわからせてくれよう。」
「この絵はもとはじじいの作品だ。」
「だからこれは通過点にすぎぬ。」
「次はもっとすごいオレ様流の作品を創るぞ。」
「そしていつかはじじいを超える魔界最高の芸術家になってやる。」
「あ、そういえば貴様らはここへ大魔王の覇印を取りに来たのだったな。」
「どうやら手元にあるようだが持って帰ってかまわんぞ。」
「じじいに代わってオレ様が許可する。」


ヌブロ長老が言う。
「ペペロからあらましは聞きました。」
「おふたりのご活躍でゴーラを覆っていた深き魔瘴を鎮めることができたと。」
「ひとまずゴーラは救われました。」
「おふたりのご助力、まことに感謝いたします。」


ペペロゴーラが言う。
「そうだ、イルーシャ。」
「じつは貴様に渡したいものがあるのだ。」
「後でオレ様の私室に来てくれ。」
「それはさておき、主人公。世話になったな。」
「何かあったらいつでも言ってくれ。」
「芸術関係ならチカラになるぞ。」
「未来の偉大なる芸術家、ペペロゴーラ様がな!フハハハハ!」


主人公とイルーシャはペペロゴーラの私室にやってきた。
「イルーシャ、貴様絵を描くことに興味があるだろう。」
「手頃な未使用のスケッチブックがあってな。」
「どうやらじじいが遺したものらしいが。」
「まあ初心者にはちょうどいいだろう。」


イルーシャはペペロゴーラからスケッチブックと画材一式を受け取った。
「ありがとう、ペペロくん。」
「私に絵が描けるかわからないけど大切にするわね。」


主人公とイルーシャは魔仙卿に報告するため魔幻宮殿を後にした。
「結局私の記憶は戻らなかった。」
「自分が何者なのかわからないまま。」
「けれどペペロくんを見ていて、そんなことは重要じゃないって気づいたの。」
「大事なのは私が何をしたいか。」
「今は私がしたいと思ったことを思ったまましてみようって決めたの。」
「だから私は・・」


そこに魔王ヴァレリアが現れる。
「待っていたぞ、魔瘴の巫女。」
「お前に用がある。」
「私達と共に来てもらおう。」
「我らバルディスタは魔瘴増加の危機に瀕している。」
「このままではゴーラの二の舞だ。」
「だがお前のチカラがあればその危機を取り除くことができる。」
「バルディスタを魔瘴から救えるのだ。」
「おとなしくついてくるなら悪いようにはしない。」
「これは交渉ではない。命令だ。」


その時ヴァレリア軍に忍び込んでいた魔王ユシュカとナジーンが姿を現し、イルーシャを奪った。
「ハハハハ!」
「よう、どいつもこいつも相変わらずだな。」
「主人公、俺のしもべをやめたら今度は巫女のしもべになったというわけか。」
「ほとほとしもべ根性の抜けんヤツめ。」
「ヴァレリア、お前の軍はしのびこみやすくて助かる。」
「相変わらず足元がお留守のようだな。」
「魔瘴の巫女はこの俺がもらった。」
「返してほしくばファラザードの城まで来い。」
「来られるものならな。」
魔王ユシュカはナジーンが投げつけた煙幕弾の煙に紛れてイルーシャを連れ去っていった。


魔王ヴァレリアが怒る。
「殺す。」
「バルディスタ各地の部隊を集めファラザードに進軍する!」


ベルトロががっくりと肩を落とす。
「こりゃあでけえ戦争になるぜ。」
「俺、生き延びられっかな。」


砂の都ファラザードのアビスゲートが閉ざされてしまったので、ゲルヘナ幻野のジャリムバハ砂漠関所に向かった。
魔王ヴァレリアが大軍を率いて関所を通過する。
「この砂漠の果てファラザードで薄汚い盗っ人の王ユシュカが籠城を決め込んでいる。」
「奴は我が手から魔瘴の巫女を奪い去った。」
「これは我らへの宣戦布告に他ならない。」
「真にチカラある者だけが魔界を統べるに足る。」
「魔界をたいらげアストルティアをこの手に。」
「大魔瘴期を生き残るのは我らバルディスタだ!」
「全軍、進め!」


主人公はゲルヘナ幻野南西にある旧ネクロデア領からファラザードへ入国することにした。
ネクロデア王国ははるか昔戦争で滅んだ王国で、かの国の王族が領土と砂漠を結ぶ隠された交易路を使っていたのだ。


関所を抜けて王都ネクロデア跡に入るとランテルという少女が魔物に襲われていた。
主人公がランテルを助けようした時、ナジーンが現れて魔物を倒した。
「こんな場所で君に会うとはな。」
「魔瘴の巫女イルーシャを返せ・・か?」
「彼女はファラザード城にいる。」
「だが私は別の目的があってここに来たのだ。」
「すまないが君と争う時間も意思もない。」


ランテルが礼を言う。
「助けていただきありがとうございました。」
「私、ランテルと申します。」
「ファラザードからゲルヘナ幻野へ薬草を探しに出たのですが砂漠に戻れなくなってしまってて。」
「帰り道を探して歩いているうちにすっかり迷ってしまいました。」
「ここはどこなのでしょう。」


ナジーンが言う。
「ここは悲憤の灰が降る呪われた地。」
「数百年前、この場所には豊富な鉱脈資源で栄華を誇ったネクロデアという国があった。」
「だがあのバルディスタに鉱脈資源と高度な製鉄技術を狙われ攻め滅ぼされたのだ。」
「むごたらしい大虐殺の末にな。」
広場の中央には大剣が身体に突き刺さった鉄塊像がある。
鉄塊像の左手は斬り落とされてなくなっている。
「これがネクロデアを滅ぼしたバルディスタの凶将ゾブリス将軍だ。」
「奴の身体に突き刺さっているのが魔剣アストロンだ。」
「あれに貫かれている間は全身が鉄塊と化す。」
「私がここに来たのは魔剣アストロンを手に入れるためなのだ。」
「あの魔剣を我が主に献上することで此度の大戦の勝機をつかめると、私はそう確信している。」
「だがこんな場所でファラザードの子を保護することになろうとはな。」
「私は君と取り引きがしたい。」
「もちろん互いに益のある話だ。」
「ここネクロデアはジャリムバハ砂漠に隣接しているが、滅びた後は呪われた地として200年間も封印されてきた。」
「君は魔瘴の巫女を追ってファラザードへの道を探しに来たのだろう?」
「私はファラザードに至る道を知っている。」
「魔瘴の巫女を返すことまでは保証できないがファラザード城まで君を案内しよう。」
「その代わりに魔剣アストロンを手に入れるために協力を頼みたい。」
「これが取り引きの内容だ。」
「この先危険が迫ることもあるだろう。」
「ファラザードの子・ランテルを守るためにも君のチカラを貸してもらいたいのだ。」
「ゾブリス将軍に突き刺さった魔剣はネクロデアを彷徨う3人の亡霊によって3つの封印を施されている。」
「まずはその亡霊たちと交渉して封印を解く約束をとりつけてきてほしい。」
「ゾブリス将軍が王都ネクロデアを襲撃した際、真っ先に軍を率いて迎撃に出たのがデリウム軍団長だ。」
「忠義に厚く血気盛んな男だったという。」
「ゾブリスに敗れた後も自身が討たれた砦を守り続けている。」
「この王都を出て東に向かえばすぐにその砦が見えてくるだろう。」
「ネクロデアは鉱山資源に恵まれていたので優れた職人が集い鍛冶技術が発展した。」
「王国の民はこの土地でのみ採掘される暗鉄鉱に感謝し独自の神を信仰した。」
「アバノク祭司長はそれを取り仕切った男だ。」
「王都をでて北西の集落にかつての鍛冶場と祭祀場の跡がある。」
「祭司長は今もそこで嘆いている。」
「ネクロデア王国を治めた魔王モルゼヌはゾブリス将軍の卑劣な策略にかかり命を落としたという。」
「魔王は誇り高く厳格だったが、時に驚くほど情に厚く・・」
「いや、なんでもない。」
「魔王は王家の霊廊に葬られた。」
「王都ネクロデア跡の北・墓場の奥の方に霊廊に入る扉があるので行ってみてくれ。」
「すべての亡霊との交渉が終わったらここへ戻ってきてくれ。」
「よろしく頼んだぞ、主人公殿。」


主人公はデリウム軍団長の亡霊を見つけた。
「俺の名はデリウム。」
「ネクロデア王国の軍団長だった男だ。」
デリウム軍団長にゾブリス将軍の封印を解いて欲しいと頼んだ。
「なに?貴様は今ゾブリス将軍にかけられた封印を解いてくれと言ったのか?」
「確かに俺は封印のひとつを守っている。」
「だが貴様はゾブリス将軍を知った上でそのような世迷い言を言っているのか?」
「あやつは卑劣な手段を用いて我が軍を壊滅に追い込み祖国を滅ぼした恐るべき女なのだぞ。」
「この地に渦巻く怨念はあやつによって無残に殺され、その誇りを汚されたネクロデアの民の成れの果て。」
「ゾブリス将軍の封印を解けばあやつは復活し、さらなる怨念が生み出されていくことになってしまうのだ。」
「あやつを倒すチカラが貴様にあるのか?」
「あると言うのならばその証を俺に見せてもらおうではないか。」
「この旧ネクロデア領の南西にいるさまようよろい・強と戦い倒してみせろ。」
「かつて俺の部下だった者たちだ。」
「怨念に囚われたまま今もこの地で役目を果たせず散ったことを悔やんでいる。」
「正々堂々と戦い、そして敗れたならばやつらも救われるに違いない。」
主人公はさまようよろい・強を倒し、デリウム軍団長に報告した。
「戻ってきたか。」
「言わずともわかるぞ。」
「部下たちの声が聞こえてきたからな。」
「貴様のチカラは見せてもらった。」
「その時が来たならば俺が守っている封印を解くことを約束してやろう。」
「かつてこの地で何が起こったのか貴様にも知っておいてもらいたい。」
「少し俺の話を聞いてくれ。」
「ネクロデア王国の民は何よりも誇りを守ることを重んじ、それを汚されることを決してよしとしない。」
「対してただ戦うことを生きがいとし無慈悲な暴力を振るうバルディスタだが両国にいさかいはあれど戦は避けられていた。」
「高度な鍛冶技術と豊富な鉱山資源を有する我が国と戦えば無事にはすまないことをやつらもわかっていたからだ。」
「だがあの日、ゾブリス将軍がなんの布告もなく突然夜襲を仕掛けてきたのだ。」
「俺は軍を率いて迎撃に向かったがゾブリス将軍の怪しげな幻術によって同士討ちをさせられた末に壊滅してしまった。」
「その後だ。戦士としての誇りを汚され亡者となった俺の前に砂漠を乗り越えやって来たという呪術師が現れた。」
「彼女は魔剣によって鉄塊と化したゾブリス将軍を封印したのだと言う。」
「その封印を守る役目が俺に与えられたのだ。」
「その役目も終わる時が来たようだ。」
「後は貴様に全てを託す。」
「ゾブリス将軍の幻術には気をつけろよ。」


主人公はアバノク祭司長の亡霊を見つけた。
「あああ、奪われた。全てが奪われた。」
「私は何も守れなかった。」
「ああ、暗鉄神ネクロジームよ。どうか私をお許しください。」
アバノク祭司長にゾブリス将軍の封印を解いて欲しいと頼んだ。
「なんと恐ろしいことを言うのですか。」
「このネクロデア王国はあの者によって滅ぼされたのですよ。」
「我が国の特産品である暗鉄鉱ネクロダイトとそれを加工する高度な技術は全てバルディスタに奪われてしまったのです。」
「私達は富をもたらす暗鉄鉱に感謝し、それを産み出す鉱山を暗鉄神ネクロジームと崇めながら静かに暮らしていました。」
「祭司長として鉱山の管理者として私は皆を守らなければならなかった。」
「それなのに・・」
「もはや人も暗鉄鉱も何一つ残っていない。」
「全てが失われたのです。」
「仮にあなたが封印の解かれたゾブリス将軍を倒せるのだとしても、それらが帰ってくることはないのです。」
「あなたがこの地で失われたはずの暗鉄鉱ネクロダイトを見つけて私に届けてくれたのなら、ゾブリス将軍の封印の一つを解いて差し上げてもいいでしょう。」
「暗鉄鉱ネクロダイトには常人の目ではただの石と区別をつけることが出来ないという不思議な特性があります。」
「そこでこの杖を貸して差し上げましょう。」
「祭司長の証として持つものですが、私にはもう扱えなくなってしまった杖です。」
主人公はアバノク祭司長から祭司長の魔杖を借りた。
「杖の先端にはめ込まれた黒い宝石は暗鉄鉱ネクロダイトに引きつけられるという特別なチカラを持っています。」
「杖を地面に立てて手を離してみなさい。」
「暗鉄鉱があるのならばその方向に向けて杖が倒れることでしょう。」
「杖が立ったままになればその近くで暗鉄鉱ネクロダイトが見つかるはずです。」
「たとえ欠片であってもかまいません。」
「ネクロデアの地で暗鉄鉱を見つけてください。」
「どうか私に希望を。」
主人公は暗鉄鉱ネクロダイトの欠片を探し出し、アバノク祭司長の亡霊に渡した。
「おお、これは間違いなく暗鉄鉱ネクロダイトの欠片です。」
「再びこの手にすることができるとは。」
「人は失われてもこの地はまだ死んでいないということですね。」
「杖は返していただきますよ。」
「この世から消え去るその時まで私は祭司長なのですから。」
主人公はアバノク祭司長に祭司長の魔杖を返した。
「かつてはこの魔杖で見つけた暗鉄鉱を求めて多くの者がネクロデアを訪れていたものです。」
「危険に満ちた砂漠を越えて宝石商と名乗る方が買い付けに来られたこともありましたね。」
「その宝石商はいつか大魔王となって魔界を救ってやるんだとたいそう大きな夢を語っておりました。」
「我が魔王モルゼヌ様のご子息ともお知り合いのようで二人でチカラを合わせて暗鉄鉱製の剣を鍛えたのだとか。」
「私が守るゾブリス将軍の封印の一つは時が来たら必ず解いて差し上げます。」
「その日を待っておりますよ。」


主人公は王家の霊廊にいる魔王モルゼヌの亡霊に話を聞いた。
「我が名は魔王モルゼヌなり。」
「かつてネクロデアを統べていた者。」
主人公は魔王モルゼヌの亡霊にゾブリス将軍の封印を解いて欲しいと頼んだ。
「確かに我はゾブリスにかけられた3つの封印のうち一つを守っている。」
「それを知る者が死者として現れたということは王子の言っていたゾブリスを倒すための算段がついに整ったということだな。」
「ならばそなたの封印を解きたいという願い叶えようではないか。」
「だが一つ気がかりなことがあってな。」
「封印を解く前にそなたには我の頼みを聞いて欲しいのだ。」
「我の妻であるルーテア王妃がこの地で亡霊となって彷徨っているのを感じる。」
「おそらく王子の身を案じるあまりに死出の旅に出ることが出来なかったのだ。」
「我への恨みもあるだろう。」
「我らの息子は今も生きている。」
「以前にここを訪れ無事な姿を我に見せてくれたのだ。」
「このことを王妃に伝えてきてほしい。」
「さすればゾブリスの封印を解くことをそなたに約束しよう。」
「だが情けないことに我には王妃がどこにいるのか分からぬ。」
「恐らくは生前に思い入れが深かった場所にいるのだと思うが、それを知る者はもはや・・」
「おお、そうだ。王都ネクロデアにも我のように亡霊と化した者が残っているかもしれん。」
「それがお付きの侍女・ガノーラであるならば王妃のいそうな場所を知っているであろう。」
「王都ネクロデアに向かい探してみるがよい。」


主人公は王都ネクロデア跡に向かい、ガノーラの亡霊を見つけた。
「王妃様の亡霊がいそうな場所を教えてくれだって?」
「そうかい。魔王様から王妃様に言伝を頼まれたのかい。」
「王妃様まで亡霊になっておられるなんて。」
「それほど王子様のことが気がかりなんだね。」
「なんともおいたわしい話だよ。」
「私はね、前に王妃様のお付きの侍女をやってたことがあるんだよ。」
「王妃様のことならよく知ってる。」
「あの方はアデロア湖が大好きだったよ。」
「王子様を連れてよく訪れていたものさ。」
「ネクロデアでもっとも美しいと言われていた場所なんだ。」
「今となっては見る影もないだろうけれど。」
「アデロア湖は王都を出て南東の方にあるよ。」
「もし行くつもりならこれを持っていってくれないかい?」
主人公はガノーラから水霊花の香を受け取った。
「アデロア湖の湖面に咲く花を使ったお香さ。」
「王妃様のお気に入りだったんだよ。」
「これをかぐと心が安らぐって言ってたね。」
「王妃様に会えたらそのお香をたいてあげてほしいんだ。」
「私にできるのはそれくらいのものさ。」


アデロア湖に向かうと、ぼんやりと湖面を見つめているルーテア王妃の亡霊を見つけた。
主人公は水霊花の香を取り出して先端に火をつけた。
かすかな煙とともに辺りに爽やかな香りが広がっていく。
「これは水霊花の香り。」
「あなたは旅のお方ですか?」
「なぜあなたが水霊花の香を?」
「そうですか。お付きの侍女だったガノーラがあなたに頼んでくれたのですね。」
水霊花の香が静かに燃え尽きた。
「ありがとうございます、旅のお方。」
「おかげで少し気分が晴れました。」
「ここはかつて美しい湖だったのです。」
「豊かな緑に囲まれてさざなみが安らかな子守唄を奏でておりました。」
主人公はルーテア王妃の亡霊に王子は今も生きているという魔王モルゼヌの言葉を伝えた。
「わたくしの夫・魔王モルゼヌが王子は生きていると言っていたのですか?」
「よかった。わたくしたちの決断は間違っていなかったのですね。」
「ああ、今も目に浮かぶようです。」
「仲の良かった赤毛の男の子と二人でよくいたずらをしていたあの子。」
「家族3人でお城のホールで踊ったあの日。」
「とても楽しかった。」
「それなのに・・」
「あの夜、ゾブリス将軍の率いる軍がわたくしたちの居城を突然襲いました。」
「ネクロデアの兵はわたくしたちを守るため戦ってくれましたが、将軍の幻術の前になすすべもなく倒されていったのです。」
「わたくしたち王族の者が立てこもる玉座の間まで侵入してきたゾブリス将軍は卑劣にも王子を人質に取りました。」
「そして夫にこう告げたのです。」
「お前の手で王妃を殺せば息子の命だけは助けてやると。」
「夫は即座に王子を救う決断をし、わたくしもそれを受け入れました。」
「そうするしか道はなかった。」
「その後わたくしは亡霊となりました。」
「王子の無事を知らぬままこの地を離れることが出来なかったのです。」
「あなたのおかげでわたくしの未練も消え去ることでしょう。」
「ありがとうございました、旅のお方。」
「大変申し訳ないのですがわたくしからの頼みも聞いてくれませんか?」
「夫に伝えてほしいのです。」
「わたくしは決してあなたを恨んでなどないということを。」
「国を治める王として、それに相応しい決断をした。」
「あなたのことを誇りに思っていると。」


主人公は王家の霊廊に戻り、魔王モルゼヌの亡霊に報告した。
「おお、王妃はアデロア湖にいたか。」
「王子のことを伝えてくれたこと、まことにご苦労であった。」
主人公は魔王モルゼヌの亡霊にあなたを恨んでなどいない、誇りに思っているとルーテア王妃が言っていたことを伝えた。
「そうか。我は王子を救ったことを悔いてはおらぬ。」
「王子さえ生きていれば国土を失ってもネクロデアは滅びぬと思ったゆえだが、ルーテアには恨まれても仕方ない所業だった。」
「恨むどころか誇りに思っているとまで言ってくれるとは。」
「さすがは魔王の妃となった女であるな。」
「あの夜のことは我も忘れぬ。」
「あやつは王妃の亡骸を抱える我に耳障りな笑い声を浴びせながら約束は守ると言って王子を解放してみせた。」
「王子は泣きながら我のもとへ駆け寄り、我の胸に刃を突き立てたのだ。」
「何が起こったのか我にはわからなかった。」
「薄れる視界の中で王子の姿がゾブリスに変わっていくのが見えた。」
「我は最後まであやつの玩具にされたのだ。」
「その口惜しさゆえ亡霊となった我の前に成長した王子が現れたのはいつのことだったか。」
「我が果てた後、友の助けを借りてゾブリスの手からなんとか逃れることができたのだと言っておった。」
「しかし王子が生きているとわかっても我はこの地を離れることはできぬ。」
「ゾブリスが消滅するその日までは。」
「そなたには世話になった。」
「ゾブリスの封印はその時が来たら解いてやると約束しようではないか。」


王都ネクロデア跡に戻り、ナジーンに報告する。
「ああ、主人公殿。そろそろ戻る頃だと思っていた。」
「ネクロデアを取り巻く気配が変わった。」
「魔剣の封印を解除すること、亡霊たちは承諾してくれたようだな。」
「これから魔剣アストロンを引き抜く。」
「封印を解除するとゾブリス将軍の鉄塊化は解けこの世に蘇るがそれは致し方ない。」
「ゾブリス将軍は強力な幻術を操る。」
「鉄塊化を解いたらすぐに倒さねば危険だ。」
「魔剣を抜いた直後に私が一撃で仕留めよう。」
「だが万が一ということもある。」
「君も一緒に来てもらえるか?」
「ランテルのことも頼みたい。」
「君が彼女を守ってくれれば安心だ。」


ゾブリス将軍の鉄塊像の前に立つナジーン。
「誓いを立てたあの日から200年。」
「ようやくこの時が来た。」
魔剣アストロンをゾブリス将軍の身体から引き抜く。
「ゾブリス、今こそ貴様を完全に消滅させる。」


その時、ランテルが怪しげな術を使いナジーンの身体を拘束した。
「私のことまだ気づかないなんて。」
「本当に素敵だわ、ナジーン。」
「あなたって大人になっても愚かで美しいままなのね。」
ランテルがゾブリス将軍の鉄塊像に吸い込まれると、ゾブリス将軍が復活した。
「私は魔界最強の幻術師にしてバルディスタの将軍・ゾブリス。」
「可愛いランテルはただの幻影。」
「正体は切り落とされた私の左手だったの。」
「ウフフ、嘘つき娘でごめんなさいね。」
「おお、麗しのネクロデア。」
「王も民も皆誇り高く自信に満ちていた。」
「だから、ねえ。」
「侵略に抗う勇気を、その誇りを徹底的に汚してあげたでしょう?」


ナジーンは幻覚に苦しんでいる。
「だめだ・・やめろ・・騙されるな!」
「父上、母上・・ああ、行くな!」


「抵抗をやめれば人質にとったネクロデアの王子・ナジーンの命だけは助けてあげる・・なあんて。」
「見え透いた嘘に儚い幻を見てあなた達は素直に信じて従ったわ。」
「私が嘘つきだとも知らずにね。」
「誇り高きネクロデア王も王妃も国民も隅から隅まで踏みにじられて・・ああ、美しいものは汚れてこそ輝くの。」
「ほら見て!わかるでしょう?」
「滅びたネクロデアのなんて美しいこと。」
「最後に生き残ったあなたからもらった右目。」
「絶望に染まってとってもキレイだった。」
「可愛がりたかったわ。いつまでも。」
「だがそこにあの忌々しい赤毛の小僧が現れて私の手を斬り落とし、魔剣アストロンを身体に突き刺した。」
「この左手だけ逃げのびてあなたが魔剣を引き抜いてくれる日をずっと待っていたんだから。」
「さあ、あの日の続きをしましょう。」
「その誇りをグチャグチャにすり潰して残った左目も私のものにしてあげる。」
ゾブリス将軍が主人公を見る。
「ウフ。そう、あなた。」
「初めて見た時から気になっていたの。」
「幻さえ見通すような真っ直ぐな瞳。」
「ああ、あなたのことも汚したい。」
「私が作り出す幻の中で泣いて喚いて踏みつけられて、誰よりも美しく散ってちょうだい。」
主人公は襲いかかってくるゾブリス将軍を倒した。
「そんな・・これで終わり?」
「いや、いやよ。」
「まだ誰も見たことのない美しさを・・もっと・・ああ。」
ゾブリス将軍は消滅した。


ナジーンは幻覚の中でユシュカがゾブリス将軍を封印した時の夢を見ていた。
「なぜ戻ってきた、ユシュカ!」
「アストロンは魔界を救うための剣。」
「自国を滅ぼした王子など捨て置いてくれればよかった。」
「全てを失った私にもはや生きる価値などない。」


ユシュカがナジーンに手を差しのべる。
「だったら俺のために生きろ。」
「俺は新しい国を作る。」
「お前のチカラが必要なんだ。」
「一緒に行こう、ナジーン。」


「ああ、そうだったな。ユシュカ。」
「その言葉に救われて私は決めたんだ。」
「どこまでもお前と共に生きていこう、と。」
意識を取り戻したナジーンは魔剣アストロンを手にとった。
「ついに仇敵を討ち果たすことができた。」
「この地に留まる魂も安らかに旅立てるだろう。」
「ありがとう。君がいてくれて良かった。」
「魔剣アストロンはユシュカのために二人で鍛え上げた剣だった。」
「だが私のために使えなくしてしまった。」
「此度の戦争は新興国ファラザードとユシュカが直面した未曾有の大戦。」
「今こそ魔剣のチカラが必要になるだろう。」
「そして君もだ、主人公殿。」
「敵対している関係でおかしな話だが、やはりユシュカには君が必要だと思う。」
「共にファラザードへ向かおう。」
「全てはそれからだ。」
「旧ネクロデア領の南・血湖の浜辺に鉄の祠と呼ばれる建物がある。」
「まずはそこに向かってほしい。」
「あの日、ネクロデアの王子は死んだ。」
「今の私はただのナジーン。」
「ファラザードのナジーンなのだ。」
「さらばだ、ネクロデアよ。」


主人公は鉄の祠に向かった。
「鉄鉱資源が豊富だったネクロデアはジャリムバハ砂漠の小国群と交易を行う機会も多かった。」
「我々は様々な工夫を凝らして盗賊への対策を行った。」
「これもその一つ。」
ナジーンが装置を操作する。
「この隠し砂州を利用することで安全な交易路を確保していたのだ。」
「開拓にはなかなか苦労したらしい。」
「昔ユシュカから聞いたことがある。」
「アストルティアの海はどこまでも青く澄み渡っているそうだな。」
「交易船が行き交う活気に溢れた海か。」
「一度見てみたいものだ。」
「さて、この砂州を東に向かうとファラザードの下水道に入れる。」
「下水道にはファラザード城の地下につながっている秘密のハシゴがあるのだ。」
「そこから城内に入るとしよう。」
「さて行こうか。」
「魔瘴の巫女はユシュカと共に玉座の間にいるはずだ。」


主人公は玉座の間にやって来た。
イルーシャが笑顔で近づいて来る。
「あなたの光が近づいてくるのを感じていたわ。」
「必ず来てくれると思ってた。」


ユシュカが言う。
「フン、遅すぎるくらいだな。」
「だがどうやって城の中に入った?」


玉座の間に入ってきたナジーンを見たユシュカが驚く。
「ナジーン!バルディスタとの交戦中だぞ。」
「偵察にどれだけ時間をかけて・・」
「まさかこいつを手引きしてたのか?」
ナジーンが魔剣アストロンを取り出す。
「それは・・魔剣アストロン!」
「そうか。お前、ネクロデアに行ってたのか。」


ナジーンが言う。
「あの時の借りを返すために。」
「ですがその前に我が王よ。あなたに一言だけ申し上げたい。」
「いつかあなたは私に語ってくれました。」
「アストルティアの師から学んだ協調というものの考え方を。」
「考え方が違えば衝突することもある。」
「それでも他者と交わることで生まれる新しい価値こそかけがえないのだと。」
「それならばなぜ主人公殿とは協調出来ないのですか?」
「結局今のあなたは私情に流され己の自尊心が守れる範囲で状況を選んでいるに過ぎない。」
「魔王たちが一同に集い大審門が開かれ新たな大魔王の選定が行われたのはあなた方が出会い協力したからこそ。」
「二人の選ぶ道が交わったその時、大きなチカラが生まれるのです。」
「魔界を動かすほどの途方もないチカラが。」


ユシュカはナジーンが差し出す魔剣アストロンを受け取った。
「チッ!昔っから変わらないな。」
「お前はいつも正論ばかりだ。」


そこに特攻隊長シシカバブが慌てた様子でやって来た。
「ファラザードの特攻隊長シシカバブ様が直々に伝令に来てやったど!」
「ジャリムバハ砂漠からバルディスタ軍が慌てて引き上げていったど。」
「なんか別の所で戦争が始まったらしいど。」


オジャロスがやってきた。
「いやー、うまくいきましたな。ユシュカ王。」
「あなた様のお手並みには感服いたしました。」


ユシュカが言う。
「いいタイミングで動いてくれて助かったぞ。」
「険悪だったゼクレスと同盟を結べたのも貴殿のおかげだ。オジャロス殿。」


「ファラザードがバルディスタ軍の本隊を砂漠に引きつけておき、ガラ空きの本国を我がゼクレスが攻める華麗なる奇襲作戦。」
「この大戦、不干渉を貫いていたゼクレスが介入してくるとは予想できますまい。」
「バルディスタの本国は大パニックでしょう。」


ユシュカが主人公に言う。
「俺達が魔瘴の巫女をさらったのはバルディスタを挑発して攻めてこさせるための単なるエサだったのさ。」
「俺の計画通りに戦況は動いた。」
「これ以上こいつを束縛するつもりはない。」
「後は好きにしてくれ。」
ユシュカはイルーシャに謝った。
「無理に連れてきて悪かったな。」


オジャロスが言う。
「バルディア山岳地帯で戦端は開かれました。」
「今こそヴァレリアを討ち取る絶好の機会。」
「いざ参りましょうぞ、ユシュカ殿!」


ユシュカが言う。
「アストルティアへの再侵攻を企むヴァレリアを討ち、魔瘴への対抗策を守る。」
「俺は俺のやり方で魔界を救ってみせよう。」
「お前のチカラが必要だ。一緒に来い、ナジーン!」


「まったく仕方のない人だ。」
「お供しましょう、どこまでも。」
ユシュカとナジーンは玉座の間を出ていった。


イルーシャが言う。
「二人とも行ってしまった。」
「でもなんだか胸がざわついて。」
「私は大丈夫よ。ファラザードの人はみんな優しくて怖い思いなんてしなかった。」
「ユシュカはあなたのことを思い出してはいつも苦しそうに悩んでいたわ。」
「どうして大魔王に選ばれたのが自分ではなくあなただったのか。」
「なんだか嫌な予感がしてたまらない。」
「きっとあなたのチカラが必要だわ。」
「お願い、主人公。バルディア山岳地帯へ向かってユシュカに手を差しのべてあげて。」
「それが魔界の未来に繋がる。そんな気がするの。」


主人公がバルディア山岳地帯へ向かうとバルディスタとファラザードが戦争をしていた。
ユシュカが苦戦を強いられている。
「くそ!ゼクレスと組んでなおバルディスタの兵力に押されるとはな。」


ゼクレス魔導国の魔王アスバルとエルガドーラ王太后も戦場に来て戦況を見ている。


主人公がユシュカのところにやって来た。
「お前、どうして・・」


ナジーンが聞く。
「我々に加勢してくれるのだな?」
主人公は頷いた。


「俺が直接ヴァレリアを討つ。援護しろ、ナジーン!」
ユシュカはヴァレリアのもとに向かって走っていった。


「君のおかげでユシュカを守れる。」
「我々の背中をあずかってくれ。」
「後は頼んだぞ。」
ナジーンはユシュカを追いかけていった。


ヴァレリアとの戦闘を始めたユシュカ。
「ヴァレリア!ここでお前を倒し、俺は実力で大魔王になってみせる!」


「知略と悪知恵をはき違えた小僧ごときに何が出来るか!」
「魔界を支配するのはチカラのみ。」
ヴァレリアは大矛でユシュカに斬りかかる。


高台からその様子を見ているエルガドーラ王太后。
「雑魚どもが身の程知らずな夢を喚いておるわ。」
「この魔界を統べるのは我がゼクレスと最初から決まっているのに。」
「のう?アスバル。わらわの可愛い息子よ。」
魔王アスバルはエルガドーラ王太后の杖で操られている。
「このミアラの宝杖はゼクレスが誇る秘宝。」
「アスバルが生まれ持った絶大な魔力を糧にいにしえの魔人を降臨させるのだ。」


魔王アスバルはいにしえの魔人を召喚した。
「魔界を我がゼクレスの掌中に。」
「お前の魔力で全てを焼き払っておしまい!」


いにしえの魔人は闇の炎で戦場を一気に焼き払った。


「なんだ・・あれは?」
危険を察知した魔王ヴァレリアはすぐに撤退し難を逃れたが、魔王ユシュカは逃げ遅れてしまった。


「この戦、ゼクレスの勝利は決まったも同然。」
「もはやファラザードもバルディスタも立ち上がるチカラなど残っていまい。」
「生き残った者に撤収命令を出せ。」
「あとは捨て置け。」
エルガドーラ王太后の命令を受けたオジャロス大公は慌てた様子で走っていった。


魔王ユシュカを襲った闇の炎はナジーンが身を挺して受け止めていた。
仰向けに倒れ込むナジーン。
「ナジーン!」
「待ってろ。今助けるから。」
「こんな傷すぐに治してやる。」
「だから・・だから・・」


ナジーンがユシュカの手をとる。
「狼狽えるな。ファラザードの魔王よ。」
「あなたは魔界を救うために・・夢を・・為すべきことを成さなければ。」
「ああ・・ユシュカ。」
「灰にまみれた旅立ちの日も・・ファラザードを興した朝焼けの日も・・あなたは語って聞かせてくれた。」
「今までのどんな魔王も成し得なかった方法で理想郷を築き魔界を救ってみせると。」
「あなたが語る破天荒な夢が・・とても好きだった・・」
ナジーンが残された左目から涙を流す。
「だから・・どうか・・あなただけのやり方で魔界を・・」
「私はあなたの副官・・あなたが必要とするなら・・」
「ユシュカ。いつまでもそばに・・」
ナジーンの身体は消滅した。


「うああああ!!」
ユシュカはしばらくの間、吠え続けた。
遺されたナジーンの黒アイパッチを拾い上げ、魔剣アストロンを手に取り、ユシュカは静かに立ち上がった。


主人公はファラザードに戻り、イルーシャを迎えに行った。
「おかえりなさい。無事で良かった。」
「ユシュカは自分の部屋にこもったままよ。」
「帰ってきてからずっと。」
「あなたの言葉なら応えてくれるかもしれない。」
「どうか彼に声をかけてあげて。」


「ユシュカ、主人公が来てくれたわ。」
「みんなあなたのことを心配してる。」
「お願いだから扉を開けて。」
主人公も扉越しに声をかけるが返事がない。


そこにモモモがやって来た。
「あのう、ごめんなさいー。」
「お取り込み中失礼します。」
「魔仙卿さまからあなたに緊急の伝言です。」
「この記憶の結晶を再生しますねー。」
記憶の結晶が再生され、魔仙卿が映し出された。
「先の戦い、我も神殿より見守っていた。」
「数々の犠牲、あまりにも痛ましい。」
「ことにゼクレスの魔人はゆゆしき脅威だ。」
「ゼクレスの者が持つミアラの宝杖はかつて魔界を壊滅的な危機に陥れた。」
「放置すればさらなる災いを呼び寄せよう。」
「どうかこれよりゼクレス城へ向かいミアラの宝杖を破壊してもらえぬか?」
「これはそなたにしか出来ぬこと。」


イルーシャが言う。
「きっと魔仙卿の言う通りだわ。」
「東の方で嫌な気配が大きくなっている。」
「ユシュカのことは私に任せて。」
「主人公、気をつけてね。」


主人公は一人でゼクレス城に向かった。


イルーシャがユシュカの部屋の扉に向かって話しかける。
「ねえ、ユシュカ。そのままでいいから聞いて。」
「私、記憶がなくて何も覚えてないけど自分が何をしたいのか、何をするべきなのかは分かるわ。」
「あなたもそうでしょう?」
「ナジーンと一緒に見てきた夢がある。」
「あなたにしか出来ない役目があるはずよ。」
「ユシュカ、あなたはこれからどうしたい?」


主人公はゲルヘナ幻野の東にある関所からベルヴァインの森に入り、ゼクレス城に到着した。
ゼクレス城にはバルディスタ軍が報復のため乗り込み、戦闘が繰り広げられている。
地下から城内に入るとエルガドーラ王太后と魔王アスバル、オジャロス大公が待ち構えていた。
「地下の侵入者とはお前か。卑しい宝石売りの下僕め。」
「一度ならず二度までもわらわに歯向かったこと、後悔するがよいぞ!」


その時、魔王ヴァレリアが城の正面口を突破して現れた。
「エルガドーラ!」
「バルディスタを愚弄したその罪、貴様らの命であがなわせる!」


「滅ぶのはお前のほうだ、野蛮なサルめ。」
「ゼクレス魔導国の深淵なる叡智の結晶、その身でとくと味わうが良い。」
エルガドーラ王太后は魔王アスバルにミアラの宝杖を向け、いにしえの魔人を召喚させた。
いにしえの魔人が魔王ヴァレリアに向けて闇の炎を放つ。
魔王ヴァレリアも応戦するがその強大な威力に負け、跡形もなく吹き飛ばされてしまった。


「これでわかっただろう?アスバル。」
「母の言う通りにしていればこの世の全てをひざまずかせることが出来るのだ。」
「お前は人形。永遠にわらわの人形。アッハハハ!」


そこに魔王ユシュカが現れた。
「そんな腐れババアの戯言などに耳を貸すな、アスバル。」
「魔王たる者が大魔王以外に膝を屈するなどあってはならん。」
「俺がお前を自由にしてやる。」
魔王ユシュカはいにしえの魔人の脳天に魔剣アストロンを突き刺した。
いにしえの魔人の頭が鉄塊化し、闇の炎を放つことが出来なくなる。


「ちい、なんだあの剣は。」
「どこまでも忌々しい男よ、ユシュカ!」
「わらわの魔力の全てをお前に委ねよう。」
「殺せ。ユシュカを殺してしまえ!」
いにしえの魔人はエルガドーラ王太后の魔力を全て吸い取り、ユシュカに襲いかかる。
いにしえの魔人に魔力を吸い取られたエルガドーラ王太后は絶命した。


「俺達の選ぶ道が交わったその時、大きなチカラが生まれる。」
「魔界を動かすほどの途方もないチカラが。」
「あいつはいつも正論ばかりだ。今ならどんな強敵にも負ける気がしない。」
「さあ、俺達が相手だ。かかってこい、アスバル!」
ユシュカは主人公と協力していにしえの魔人を倒した。


エルガドーラ王太后の亡骸のそばに落ちているミアラの宝杖から魔力が失われる。
ユシュカはミアラの宝杖を足で踏みつけて破壊した。


倒れ込む魔王アスバルに剣を向けるユシュカ。
「アスバル・・お前がナジーンを・・」


それをオジャロス大公が止めに入る。
「ここはこらえてくれ、ユシュカ王!」
「ゼクレスの裏切りは全て姉上が・・エルガドーラが企んだことだったのだ。」
「見てくれ、アスバルの首輪を!」
「エルガドーラはあれを介してアスバルの意識をずっと支配していた。」
「だがエルガドーラはもう死んだ!」
「ミアラの宝杖も壊されてもう二度と魔人が現れることはない。」
「貴殿はアスバルの友人だったはずだ。」
「だからどうか許してくれ。」


「許せない。」
「許されるはずがない。」
「どうしようもない俺の落ち度だ。」
「アスバルの異変に気づけなかったのも、ナジーンが死んだのも。」
「全部未熟だった俺の・・」
ユシュカは剣を降ろした。


そこにイルーシャがやって来る。
「二人とも無事でよかった。」


「この女がしつこくつきまとって来たんだ。」
「お前を助けにゼクレスに行けとな。」
「魔界の三国それぞれが深手を負った。」
「もはや戦争など続けられるはずもない。」
「俺はファラザードを立て直す。」
「お前はどうする?この魔界をどうしたいと思ってる?」
「叶うことならお前が選ぶこの先の道が、俺が選ぶ道と交わっていてほしいものだ。」
「少なくともナジーンはそれを望んでた。」
「そうだろ?」
「今はお互いに時間が必要だ。」
「またな、主人公。」
ユシュカは去っていった。


「心の痛みを乗り越えた時、人はきっと強くなれる。」
「彼も乗り越えられるわ。」
「あなたがいろんな痛みを乗り越えて今ここに立っているように。」
「さあ、魔仙卿の所へ戻りましょう。」
「ずいぶん長旅になってしまったから、これまでのことを報告したいわ。」
主人公とイルーシャはゴダ神殿・謁見の間に戻った。


「よくぞ戻った、主人公よ。」
「此度のイルーシャとの旅、ご苦労だった。」
「ゴーラ領では魔瘴の困難を乗り越え大魔王の覇印を手に入れたそうだな。」
「それは我が預かっておこう。」
主人公は魔仙卿に大魔王の覇印を渡した。
「そして魔瘴の巫女としてさらわれたイルーシャを救い出し魔界を滅ぼす脅威・ゼクレスの魔人を見事倒してくれた。」
「重ね重ね礼を言おう。」
「戦乱により傷ついた魔界の各国はそれぞれ復興の道を歩まねばならない。」
「だがその道は険しいものとなろう。」
「大魔瘴期の到来は近い。」


空席になったバルディスタ城の玉座の前でベルトロががっくりと肩を落としている。
「ヴァレリア・・あんたがいないんじゃ・・」


ゼクレス城では今まで意識を失っていた魔王アスバルが目を覚ました。
「ああ、僕はなんてことを・・」


ファラザード城の最上階で魔剣アストロンに語りかけるユシュカ。
「一緒に行こう、ナジーン。」


―次回、王の戴冠―