リィンは神のアラハギーロ王国のジャイラ密林にある遺跡の前にいた。
彼女が持っいる短剣に向かって一人つぶやく。
「ここまで導いてくれてありがとう。今日はきっといい日になるわ。」
「言い伝えに残る夜の神殿がこんな所に隠れていたなんてね。」
「はじめての冒険にしてはちょっと手強い相手になりそうだけど。」
「あなたのお宝を頂いて、トレジャーハンター、リィンさんの伝説が今日ここから始まるのよ。」
「それにこの旅が終わるとき、あたしが生まれてきた意味もきっとわかるわ。」
リィンは一人、夜の神殿の中へと入っていった。
神殿の中に入ると、大きな扉があった。
「これがきっと夜の神殿の入口なのね。」
「なんだかおどろおどろしい扉。」
扉を手で触れようとした時、突然リィンの背後から声がした。
「そこで何をしている?」
「ひゃっ!」
リィンは驚き、後ろを振り向く。
するとそこには、大きな剣を背中に背負った一人の青年が立っていた。
「その扉にはさわらないほうがいい。命が惜しいならな。」
リィンが言い返す。
「なによ!こんなところで急に声かけてくるなんて、オバケかと思ったじゃない!」
「ここは悪霊が宿るといわれて誰も寄り付かない場所だ。」
「キミみたいな若い娘が来る所じゃない。」
リィンはなおも言い返す。
「レディを小娘扱いするなんて失礼ね!」
「あたしはトレジャーハンターのリィンよ。お宝を手に入れるためなら危険も承知。」
「そう、この神殿に眠る秘宝を手に入れるためならね。」
その時、リィンは扉に手を触れてしまった。
「待て!」
青年が慌てる。
すると突然扉が開き、リィンは扉の中に吸い込まれてしまう。
「手のかかる子だ。」
青年はそう言うと、リィンの後を追って扉の中へ飛び込んでいった。
「イタタ・・・ここは?」
リィンが青年にたずねる。
「遺跡の中だな。ずいぶん上から落ちたらしい。怪我はないか?」
「このくらいどうってことないわ!」
リィンが強がる。
「元気そうで何よりだ。」
「ここから登るのは無理そうだから、別に出口を探さないとな。」
リィンは不思議がる。
「巻き込まれたのに怒らないのね。」
「夜の神殿にも詳しいみたいだし。あなた一体何者なの?」
「俺はこの神殿を調査しに来たんだが、キミの姿を見かけて胸騒ぎがしてね。」
「名はラウルだ。よろしく頼むよ。命知らずのお嬢さん。」
「もうっ、子供扱いしないで!お嬢さんじゃなくてリィンだってば。」
「そういうことなら仕方ないからあなたが出口に戻るのを助けてあげる。」
「さあ、進みましょ!」
無事自己紹介もおわり、二人は神殿の奥へと進んでいった。
神殿には様々な仕掛けが施されており進むのに苦労したが、二人は協力しあって奥へ進んだ。
神殿の奥には、紫色に光るツボが置いてあった。
リィンがそのツボに近づこうとすると、突然魔物が現れた。
魔物は二人に襲いかかって来たが、協力してなんとか倒す。
ラウルがリィンに尋ねる。
「その短剣は?」
「この子はあたしを導いてくれた短剣よ。」
「信じてもらえないかもしれないけど、短剣の刀身に時々幻のように夜の神殿が映り込んでいたの。」
「この短剣は生まれた時からずっと一緒だったから。何かの導きなんじゃないかって思って。」
「この短剣が気になるの?」
ラウルは何か考え込んでいる。
「いや・・・いい短剣だな。」
するとツボから紫色の光が消え、中から魔法の帽子が飛び出してきた。
「オイラ、魔法の帽子のマホッシーだよ。」
二人は驚く。
「帽子がしゃべったわ!」
「あなたたちがオイラの新しいご主人様なんだね。」
「オイラ、秘宝への案内人なんだ。」
「ご主人様たちをジャイラの奇跡へ連れて行くよ!」
リィンが喜ぶ。
「すごいわ!この子。夜の神殿の秘宝へ案内してくれるみたい!」
ラウルがマホッシーに話しかける。
「そいつはありがたいな。だが案内人なら、まずはここから出る方法を教えてくれないか?」
「いいよーん!まかせてー!」
マホッシーはそう言うと、魔法で神殿の外へ脱出する道を出現させた。
喜ぶリィンにラウルが言う。
「俺もこの遺跡に眠るという秘宝をこの目で見てみたくなったよ。」
二人は神殿の外へ一旦脱出した。
満月の夜、再び神殿の前に来た。
「月のきれいな夜ね、ラウル。」
「待ちに待った満月よ!今夜なら夜の神殿に眠る秘宝にたどり着けるに違いないわ。」
ラウルが答える。
「満月の夜、凶風の吹きすさびし時、奇跡への階段が姿を現す。」
「見つけてきた古文書にそう書かれていたな。」
「あてになるかどうかわからない情報なのに、いつでも前向きなのはキミのいいところだ。」
「ひとこと余計なのはあなたの悪いところね。」
すると突然、強風が吹く。
「きた!凶風が来たよ!」
どうやらこの強風は、マホッシーが魔法で吹かせているようだ。
そのことにラウルだけが気づいている。
リィンが言う。
「生まれた時から持っていた短剣に導かれてあたしはここまで来たわ。」
「だけどあたしが生まれてきた意味はまだ見つけられない。」
「この神殿の秘宝も、短剣が導く真実も、絶対に手に入れてみせるわ!」
「さて、古文書にあったとおり満月の夜に風が吹いたが、次はいったい何が起こるんだ?」
その時、リィンが持つ短剣が青白く光った。
「ねぇ、見てラウル!」
短剣を見ると、そこにマホッシーが飛び出してきたツボが映し出されている。
「これは、魔法の帽子を見つけた部屋だな。」
リィンがうなずく。
「あの場所に手がかりがあるのね。それじゃあ、さそっく行ってみましょ!」
リィンとラウルは、再び神殿の中へと向かった。
以前は閉じられていた扉が何故か開いていて、通れるようになっている。
「この扉、前は閉じられていたのに通れるようになっているわ。」
リィンは喜んでいる。
ラウルが言う。
「満月の夜、凶風が吹きすさびし時、奇跡への階段が姿を現す。古文書はどうやら正しかったようだな。」
二人は神殿の奥へと進んでいった。
幾つもの難関があったが、協力して奥へと進む。
神殿には古代文字で書かれた石碑があった。
ラウルは何故か古代文字が読めるようだ。
石碑にはこう書かれている。
はるか昔に夜の民という民族がいて、この地で繁栄していた。
この神殿は夜の民たちが残したもの。
さらに奥へと進む。
リィンが言う。
「こんなすごい神殿を作った夜の民はそのあとどうなったんだろう。」
ラウルが答える。
「太陽の王国に滅ぼされたと歴史書には記されているな。」
「かつてこの地には太陽の王国と呼ばれた国と夜の王国と呼ばれた国があったんだ。」
「ふたつの王国は長い長い間、この地の覇権をめぐって争いを続けた。」
「そして夜の王国は滅亡してしまった。」
リィンは感心する。
「ふうん、昔にそういう戦いがあったのね。ラウルは歴史にもくわしいんだ。」
「そんなことない。」
そう答えたラウルの表情は暗い。
神殿の奥にはいくつもの墓があった。
石碑にはこう書かれている。
「夜の民よ。眠ることなかれ。」
「いくたび太陽の王国に身を焼かれようと我らの魂は滅することあらず。」
「夜を継ぐものよ。汝、復讐のために生きるべし。」
「太陽の王国の末裔を根絶やしにする日まで、我らの憎しみは消えぬ。」
ラウルがリィンに言う。
「俺はこの遺跡に眠るものがキミの求める何かを教えてくれると思っていた。」
「だが、どうやら違った。」
「この神殿に眠るのはそんな生易しいものじゃない。」
すると突然、部屋の中央にある棺から紫の光と共に叫び声が聞こえた。
「オオオオオ・・・」
棺から魔物が現れ、リィン達に襲いかかってきた。
協力して魔物を倒す二人。
魔物が消滅する寸前に、最後の呪い攻撃を放つ。
その呪い攻撃はリィンを襲うが、それをラウルかばった。
呪い攻撃はラウルを直撃してしまった。
魔物は消滅したが、ラウルは苦しみで動けなくなってしまう。
ラウルの両腕には紫色のアザが浮かび上がっている。
「このアザは呪いなの?」
「ラウル、あたしをかばってくれたのね。」
「あたしのせいで呪いを受けるなんて、ごめんなさい、ラウル。」
苦しみながらラウルが答える。
「このくらいどうということはない。」
「少し休めば治るさ。」
「待ってて、呪いを解くことは出来ないけれど痛みはやわらぐはずよ。」
リィンはそう言うと、癒やしの魔法をラウルにかけた。
「いい癒やしの術だ。天国の親父が手を振ってるのが見える。」
ラウルが言った冗談にリィンが怒る。
「もう!こんな時までちゃかさないの。出口を探してくるから休んでて。」
リィンは出口を探すが見つからない。
「あの呪い、すごく嫌な感じがする。一刻も早く解かなくちゃ。」
マホッシーが突然話し始める。
「だいじょーぶ!あのねあのね、神殿をドンドン進んでジャイラの奇跡に願えばラウルを治せるよ!」
「えっ?」
リィンが驚く。
「ジャイラの奇跡はね、物じゃないの。」
「願いを叶えてくれる、神秘のチカラなの!」
「ほんと?マホッシー!」
「よかった、ラウルを治せるのね。」
ラウルのもとに駆け寄るリィン。
「具合はどう?」
「少し眠りたいな。」
「子守唄がわりにキミの話を聞かせてくれ。」
「しかたのない人ね。」
「あたし、両親の顔を知らないの。赤ちゃんのときに捨てられていたんだって。」
「生まれを知る手がかりは握りしめてた短剣ひと振りだけ。」
「だけどあきらめず、自分の始まりを探してた。」
「そして短剣に導かれるままにこの神殿にたどり着いて。」
「あなたに出会ったの。」
「はじめはあなたって偉そうで嫌な奴って思ってたけど、ジャイラの秘宝を一緒に探すうちに、悪いやつじゃないって思えてきたわ。」
「二人で冒険するのも楽しいって。」
「俺も楽しかったよ。」
「キミと一緒にいる時、俺はただのラウルでいられた。それだけでよかったんだ。」
「ここを出られたら、次は世界中の宝をすべて集めに行こう。二人で、一緒に。」
ラウルは気を失うように、眠りについた。
ラウルの横に太陽の紋章が落ちている。
それを拾うリィン。
「これは太陽の紋章?どうしてラウルが。」
ラウルはしばらくの間、眠りについていた。
リィンはその横で心配そうに寄り添う。
突然ラウルが苦しみながら目を覚ます。
「あの魔物から受けた呪いのアザ、濃くなっているわ。」
「キミを連れてきたのはやはり間違いだった。この神殿はキミのいるべき場所じゃない。」
「俺はひとりでも大丈夫だ。キミだけでも今すぐここから出てくれ。」
マホッシーがラウルの側に飛んできた。
「ラウルだいじょうぶ?」
ラウルがマホッシーに言う。
「頼む、魔法の帽子よ。あの時のように出口を作ってくれ。」
「ごめんね、ラウル。ここだと地下深すぎてオイラのチカラじゃ道を作れないの。」
リィンが言う。
「あたし、この神殿の奥へ進む扉を見つけたの。神殿の秘宝、ジャイラの奇跡は手に入れた者の願いを叶えてくれるらしいわ。」
「そのチカラであなたの呪いを解いてもらえばいいのよ。」
「だから今は前へ進みましょ。あたしの実力は一緒にここまで来たあなたが一番よくわかってるでしょ。」
「必ずあなたを助けるから。あたしを信じてよね。」
二人は神殿の奥へ進むことに決めた。
しかし、ラウルはフラフラの状態だ。
「リィン、俺は大丈夫だから。前に進むことだけを考えてくれ。」
再びマホッシーが話し始める。
「あのね、この場所に来たらオイラなんだかチカラがみなぎってきたんだ。」
「オイラに出来るのはこれくらいだけど。」
マホッシーはラウルに魔法をかける。
「すこし楽になったみたいだ。」
二人は協力しながら再び神殿の奥へ進んだ。
二人は神殿の一番奥へとたどり着いた。
神殿の途中で手に入れた月の像を祭壇に捧げる。
すると、マホッシーが話し始める。
「ここまで連れてきてくれてありがとね、リィン。」
マホッシーはそう言うと、一番奥の祭壇に飾られている魔物の像の中に入っていった。
魔物の像が怪しく光ると、その像は魔物へと変わった。
「我が名は魔神ジャイラジャイラ。」
「この地に封ぜられし、いにしえの奇跡なり。」
「よくぞ我をよみがえらせてくれた。」
リィンが驚く。
「どういうことなの?マホッシー。」
「そう、あなたがジャイラの奇跡の正体だったのね。」
「それならあなたに願うわ。」
「ラウルを助けて。彼にかかっている呪いを解いてほしいの!」
魔神ジャイラジャイラが答える。
「いとしいリィン。我が愛した夜の民の末裔よ。」
「我は誓いを決して破らない。お前の望みはかなえよう。」
「我は古来より代償とひきかえに願いをかなえるチカラを与えてきた。」
「リィン、お前の願いをかなえる前に、お前の先祖たちの昔話をしてやろう。」
「その時代、太陽の王国の侵攻により夜の王国は滅び去ろうとしていた。」
「時の王は、太陽の王国を滅ぼすチカラがほしいと我に望んだ。」
「我はその代償に、与えし短剣で王自ら娘を殺し、生贄に捧げよと命じた。」
「しかしヤツは我を裏切った。」
「王は愛する娘に我の短剣を手渡し、遠くへ逃げよと告げたのだ。」
「永い間、愛し、慈しんできた夜の民のかつてない裏切り。」
「我はその報いを与えんと、この手で夜の王国を滅ぼした。」
「そしてチカラを使い尽くした我が身は、太陽の王国の民によってこの神殿に封じられ、永い永い眠りについたのだ。」
「察したか、リィンよ。時は来たのだ。」
「ついに失踪した夜の王国の王女。その魂を受け継ぐ娘が生まれた。」
「我はその娘の持つ短剣に神殿を映し出し、ここへと導いたのだ。」
「幾千年に渡る、血の代償を払わせるために。」
「お前は逃げた王女の生き写しだよ。リィン。」
リィンは震えている。
「あたしが滅びた夜の民の生き残り?逃げた王女の生まれ変わりなの?」
「それがあたしの始まり?」
「さあ、我に血の代償を払うのだ。さすれば願いをかなえよう!」
ラウルが魔神ジャイラジャイラに太陽の紋章を投げつける。
「惑わされるな、リィン!キミの居場所はこんな薄暗い廃墟じゃない!」
「魔神よ!俺はお前を倒してリィンを太陽のもとへ解き放つ!」
リィンもそれに答える。
「そうね、約束したもの。あなたと一緒に未来を生きるって!」
二人は魔神ジャイラジャイラに挑み、倒した。
「おのれ、人の分際で神を卑しめるとは!この神殿ごと押しつぶしてくれるわ!」
「月の像よ、我のチカラを解放せよ!」
しかし、何も起きない。
「なぜだ、どうしたというのだ。」
「我のチカラがなぜ封じられている?」
「貴様か、ラウル!」
「俺が月の像を抜き取っていたことに気づかなかったか?魔神、いや、魔法の帽子よ。」
「正体をあらわす前からお前のことはあやしいと思っていたからな。」
魔神ジャイラジャイラが聞く。
「貴様、何者だ?」
「アラハギーロの民がこの近隣で消える事件、それを調べるために俺はこの遺跡に来た。」
魔神ジャイラジャイラが言う。
「そのいまいましい陽光のごとき瞳、もしや貴様は・・・」
「俺は太陽の王国の末裔、アラハギーロ王、アラハ・アルラウルだ。」
「さあ魔神よ、闇に帰る時間だ。俺は貴様を倒して、夜の神殿の呪わしい歴史をここで終わらせる!」
「リィンを血の呪縛から解放する!」
ラウルは魔神ジャイラジャイラにとどめを刺す。
「太陽の王、貴様に引導を渡されるとは、これも運命か。」
「しかし娘への情にほだされて、取り返しのつかないあやまちを犯したな。」
「貴様の身体、すでに限界であろう?」
「貴様が受けたのは今も現世をさまよう、夜の王国の民たちの怨念。逃れられぬ死の呪いぞ。」
「死せる夜の王国の民たちの怨念によって、アラハの王が途絶えるとは。」
「真に恐ろしきは、人の恨みよ。」
魔神ジャイラジャイラは消え去った。
そしてラウルは苦しみで倒れてしまった。
リィンがラウルに駆け寄る。
「リィン、許してくれるか?キミの出自を知りながら、俺は黙っていた。」
「キミの短剣を見た時、気づいてしまったんだ。」
「俺の祖先が攻め滅ぼした夜の王国、キミはその生き残りだと。」
リィンは泣き出してしまう。
「リィン、泣かないで。笑顔を見せてくれ。」
「キミとの冒険は本当に楽しかった。」
「最後に、キミの望みをかなえたかった。」
「ちがうのよ、ラウル。あたしの望みはもうかなってたわ。」
「あなたに出会えた。それだけで、あたしが生まれてきた意味はあったの。」
「あなたはあたしに未来をくれた。」
ラウルが笑顔で答える。
「王なんてつまらない人生だとあきらめていたが、キミと出会えたことだけは悪くない。」
「過去の呪縛からキミを自由にできたこと、それが俺の生きた価値だ。」
「幸せになれよ、リィン。」
ラウルは気を失った。
「・・・ラウル。」
「あなたがいないのに幸せになれなんて、ほんとにしかたのない人ね。」
「マホッシー、聞こえているんでしょ?」
リィンの後ろでコソコソと動くマホッシー。
魔神ジャイラジャイラは、もとの魔法の帽子に戻っていたようだ。
「代償とひきかえに願いをかなえる、あなたはそう言ったわね。」
「お願いがあるの、聞いてくれる?」
「あたしはあたし自身を代償としてあなたに差し出すわ。」
マホッシーが怪しく紫色に光りだす。
「本当にいいの?」
「その言葉はリィンが思っているよりずっとずっと残酷だよ?」
「リィンがオイラを受け入れてその身を捧げて契約するってことは、人として生きる幸せをすべて失って、おぞましい魔神と成り果てる。」
「それは暗く冷たい夜の底で、永遠を過ごすってことだよ?」
「あたしの未来はあたしが選ぶ。これはラウルが教えてくれたことよ。」
「あたしの未来にどんな闇が待っていても、すべてを受け入れる!だから・・」
「ラウルを助けて!」
マホッシーがリィンと同化する。
リィンが闇に包まれる。
リィンの身体は、ジャイラジャイラと同じ魔神の姿になった。
その姿は賢者マリーン、そのものだった。
賢者マリーンとなったリィンは、魔法でラウルの呪いを解く。
「よかった。」
リィンはそう言うと、逃げるようにその場を立ち去っていった。
しばらくしてラウルが目を覚ます。
「リィン・・。」
アラハギーロ王国に戻ったラウルだが、リィンがいなくなったショックで途方にくれていた。
ラウルがあてもなく町を歩いていると、目の前に賢者マリーンが立っていた。
マリーンは魔神の姿ではなく、魔法で人の姿に変身している。
「キミ・・・・」
目をそらすマリーン。
その場を立ち去ろうとする。
「待って!リィン・・・・」
「・・・・リィンという名の娘を知らないか?」
「・・・・そんな娘は知らないね。」
賢者マリーンは立ち去っていった。
マホッシーとリィンが会話している。
「せっかくオイラが会わせてあげたのに〜。ほんとによかったの〜?」
「あの人が生きているならそれでいい。」
「リィンはもうどこにもいない。」
「このあたしは、魔に魅入られた女、マリーンさ。」
これは今から300年前のお話。
その後ラウルはリィンを探し、世界中を周った。
そして最後は、リィンと出会った夜の神殿で息絶えた。
ラウルが息絶えた場所に、一冊の手帳が落ちていた。
「キミを探し続けて長い年月が過ぎた。」
「結局最後に導かれるようにこの場所へと来てしまったようだ。」
「二度と会うことのないままこの地で果てるのは運命なのだろうな。」
「空には大きな月が浮かんでいる。」
「あれを見上げるたびにいつも思っていた。」
「キミは幸せになれただろうか。」
「キミがくれた未来にキミの姿はなかった。」
「永遠のままの約束が胸を焼いた。」
「それでも俺はキミに救われた人生を誇ろう。」
「俺だけに価値のあるただひとつの光を追い求めたこの一生がどれほど幸せであったか、キミならわかってくれるだろう。」